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第1回日本医療用光カード研究会論文集、19-20、1990年

[パネルディスカッション1]

医療用光カードシステム

○余田 茂・大槻真也・山下 牧
オムロン株式会社中央研究所

1、はじめに

 医事情報のパーソナルなハンディメモリとして使われる時、光カードシステムは厳しい環境の下で使用されると考えられる。すなわち、カードという個人個人がポケットの中に持つことのできる高い携帯性が故に、カード自身が曝される温度・湿度条件や紫外線・電磁波のほか機械的な衝撃・塵やほこり等のために、その中に記憶された医事情報は破壊、或は損傷の危険を伴うことになる。さらに、医事情報そのものには秘守性と高いデータ保管性の上にシステム間での互換性が要求されることは言うまでもないであろう。
 このような観点から、オムロンの医療用光カードシステムの設計コンセプトは以下の点にある。
 1.記録・再生データの高い信頼性の確保
 2.WRITE-ONCE型の大容量メモリ
 3.システムの規格統一を指向したフォーマット
 ここでは、光カードの構造、我々が今回開発した光カードドライブの主な仕様と現在フィールドテストを行っている医療用光カードシステムの構成について述べる。

2.光カードの構造

 光カードは、現在ドレクスラーテクノロジー社(USA)が製造販売をしている。その光カードの概略フォーマットを第1図に、その断面構造図を第2図に示す。表面をハードコートされた透明層は、ポリカーボネート(PC)で厚さ0.4mmあり、この透明層を通して光が入射し情報が記録される記録層に照射される。記録層はゼラチンに銀の微粒子を拡散させたクラスト層と呼ばれる厚さ0.1ミクロンの薄い層である。その下の不透明な保護層は厚さ0.4mmのPCでその裏側には、必要に応じた情報がプリントできるようになっている。記録層には、グルーブと呼ばれる読み取り方向に直線で平行なトラッキングサーボ用の溝が2.5ミクロン幅、12.0ミクロンピッチで予めフォーマットされている。情報の記録は、レーザビームによってランドと呼ばれるグルーブに挟まれたトラックの中央に、直径2.5ミクロンのピットと呼ばれる黒点或は穴をあけていくことによって行われる。

図1.光カードの概略フォーマット


図2.光カードの断面構造図

3.光カードドライブ(OCD)仕様

 表1に主な仕様を示す。このドライブ仕様は、DELA(DREXLER EUROPEAN LICENSEES ASSOCIATION)規格に準拠したものである。これらの仕様を達成するために、オムロンでは記録・再生方法とサーボ方法に独自技術の開発をおこなったので、簡単に紹介する。

表1.OCD Specification

3-1.記録・再生方法
 図3は、情報の記録再生を行う光学ヘッドの構成図である。一般的には、半導体レーザ(LD)だけの1光源ヘッドで情報の記録再生に加えてフォーカシング及びトラッキングのサーボ信号の検出にもLD光が使われる。このような構成では、各々のサーボ信号間でクロストークが生じサーボの不安定につながる。図3に示すようにオムロンでは、LDとLEDの2光源で信号検出には8分割のPD1個で構成した。LDは情報の記録だけに使われLEDは情報の再生及びサーボエラーの検出に用いている。

図3.光学ヘッドの構成図

3-2.サーボ方法
 トラッキングサーボは、バタフライ形をしたPDによるプッシュプル法を、フォーカシングサーボは、ビーム偏心法を採用し各々光軸を分離して検出することによって、互いの信号の干渉を低減しサーボの安定化を実現している。図4は、トラッキングサーボシステムのブロック図を示している。サーボエラー信号、再生信号とカードポジションをリアルタイムでモニターするサーボCPUを搭載し、カードの変形量とカード上の欠陥を検出してサーボゲイン、記録パルス、レンズアクチュエータを制御することによって高いサーボ安定性を実現している。

図4.トラッキングサーボシステム

4.医療用光カードシステムの構成

 図5は北海道清水町御影診療所における光カード住民健康管理システムの構成を示す。本システムは診療室システムと事務室(窓口)システムで構成されており、診察室で医師が患者の過去の診療結果を参照し、最新診療データをカードに記録する。窓口システムは、診療所のレセプトマシンとオンラインで接続され、患者の受付、投薬データ、検査結果等の診療室外で発生する各種データの入出力を行う。

図5.光カード住民健康管理システム

 カードには、氏名、生年月日、保険証番号等のID情報、血液型、疾患歴、手術歴等の救急情報、糖尿病、胃潰瘍等の慢性疾患情報、検診時の検査結果等の検診情報、投薬及び画像データ等の累積情報等を入力している。又、患者のプライバシー保護のために、医師カードでのみ患者データをアクセスできる。本システムは、診療業務だけでなく、広く地域住民の健康管理や健康指導といった予防医療に注力するのも大きな目的である。

5.光カードシステムの規格統一に向けて

 このように医療用光カードシステムが、その目的と機能を十分に達成するためには、汎用性のあるオープンな規格であることが望ましく、できることなら世界統一規格であるのがベストである。この点で、光カードシステムのハードデバイスである光カード及び光カードドライブにおいては世界統一規格がないのが現状である。しかし、1989年に、ヨーロッパを中心にしたDELA規格がいち早く規格統一されており、これをベースにして現在、世界統一規格としてIS0規格を各国で審議中である。さらに、ハードデバイスだけが、規格統一されたとしても医療用光カードシステムの目的は達成されないだろう。そのシステムの互換性をシステムソフトとともに構築していくことが、今後期待されるところである。

参考文献

1. S.YODA et al : A Write Once Optical Card Reader/Writer Using Two Optical Sources: PROC. ISOM 89, J.J.A.P.28.P.91,1989
2. K.TSUTSUI et al : Optical Card Tracking Servo System Utilizing Two Light Sources : OPTICAL DATA STORAGE TECHNICAL DIGEST Mar.1990 P211
3.辻道緒:光メモリカードとその応用:ファクトリーオートメーション5月増刊号1990 光応用技術 P72


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