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第1回日本医療用光カード研究会論文集、25-26、1990年

[パネルディスカッション4]

光カードリーダ・ライタ標準化への期待

高橋俊三
(株)CSK 技術開発本部 商品開発部

はじめに

 光カードシステムの研究開発にあたり当社では光カードを使った総合システムの開発を最終的な目的とし、ハードウェアのみならず、ソフトウェアの開発にも十分な力を注いできた。元来、情報システムにおけるソフトウェアの開発とサービスが当社の本業であるため、ハードウェアに関してはプロトタイプさえも実在していなかった開発開始当時に、やむを得ず自ら製作する運びとなったと言った方が適当であるかも知れない。未来の情報システムの重要な記録媒体となる可能性を秘めた光カードの、アプリケーションまでを含めた、システム開発を業界に先駆けて始めていきたいと考え、光カードリーダ・ライタの開発にもあたったのである。
 そういった背景の中で求められるリーダ・ライタは、光カードが使用されるであろう環境に耐え、システムとしての妥当性を証明するコンセプトモデルを完成させるための道具と成りうるものであることを最低条件とする。このリーダ・ライタは、アプリケーションシステムの開発の上で光カードの役割を明確にするためのものなのである。その意味で、CSK光カードリーダ・ライタLC2001は、信頼性が高く、フィージビリティースタディの環境に耐える優れたハードウェアといえよう。
 当社の最終的な目的は、光カードシステムを単にハードウェア・記録媒体の組合せとしてまとめあげるのではなく、光カードを新たな情報化社会、ネットワーク社会の一部として確立させるところにあった。このため、光カードに適したアプリケーションを開発することと、その開発環境を整備することが、リーダ・ライタを開発することと同様に重要な位置を当初から締めていた。このような背景のもとで、光カードシステムの開発状況とその問題点、そして、光カードリーダ・ライタの将来あるべき姿について考察することとする。

1.光カードシステム開発の現状

 光カードシステムの開発状況は、大きく分けて二つの分野に課題を残している。
 第一の問題は、どのように光カードを効果的に使用するかという明確なアプリケーションの定義付けがはっきりとしていないことである。
 医療分野における光カードの活用は、金融分野のそれと同様に光カードシステム開発当初から、大きな期待をもたれて検討されてきた。しかしながら、これらの分野では、慎重な計画と民間、政府、そして企業らが歩調を合わせて地道に開発を進めることが、必要条件であり、その意味で単なる概念として現時点では存在するに過ぎない。一部で、行なわれている医療分野でのフィージビリティ・スタディにおいても未だ実験の段階であり、光カードシステムの商品化に影響力のあるような多くのリーダ・ライタおよびカードが使われた事例はない。いわば、使われる場所が発見されていないために、リーダ・ライタの商品化が遅れているとも言えよう。
 第二の課題は、カード供給の不安定さにある。たとえ今の段階で大量のカードの供給が求められたとしても、それが提供される保証はない。また、ここには、工業所有権の問題がからんでおり、そのライセンス契約に関する問題はとりざたされることが多い。また、この工業所有権の権利についての論議も米国の特許庁において検討されている。
 さらに、カードの第ニソースの欠落は、光カードの普及を真剣に考えるものにとって常に問題とされてきた。昨年、カード製造権を獲得されたキャノン株式会社のカードについても他社のものと互換性が無いので、これで第二ソースができたと単純に言うことはできない。カードの安定供給は現状では、約束されているとは言えない。

2.光カードリーダ・ライタの開発状況

 光カードリーダ・ライタの開発における技術的な基盤については、現時点でほぼ確立されたといえよう。これは、当社の実用実験の現場で、ハードウェアが要因となる問題がまったく見られないことからも、証明されるものである。また、昨今の各メーカーの製品においても、スピード、信頼性、ともに向上の傾向にある。
 技術的なハードウェアとしての光カードリーダ・ライタについては、期待どうりの開発が進められており、ここでもあえて課題としては取りあげなかったわけである。

3.リーダ・ライタ標準化への期待

 技術的な基盤が確立されたいま、これからの各メーカーに課せられた使命は、これまでのプロトタイプとしての機械の提供から、量産レベルの商品としてのリーダ・ライタの提供への移行をいかに進めていくかというところにある。この中でシステムハウスとして当社が最も期待することは、やはりリーダ・ライタの標準化である。
 欧米においての標準化の動きは、過去にも取りざたされており、一見、世界標準の光カードリーダ・ライタが登場する日が近いように思われる向きがある。しかし、現実問題として、全てのリーダ・ライタ・メーカーは日本にあり、ここにおいての標準化の動きが最も意味の深いものであることは間違いない。実際に開発及び生産技術を蓄積してきた日本のメーカーによる、標準化案の世界標準におけるインパクトは、他に比べることができないのは当然の事だが、それにもまして、日本にはその様な標準化案を作り出す義務があると考えるのである。
 日本における標準化の動きは、今年に入り正式なISO(International Standard Organization)のWorking Group のひとつとして、本格化してきた。ここでまとめられる標準化案が、日本の、しいては世界の、光カードリーダ・ライタの標準化の柱となるのである。当社が、この標準化委員会に期待するのは、欧州や、米国での標準化案にとらわれず、先に述べた日本の技術・ノウハウを活かした、標準化案をまとめて頂きたいということである。品質・信頼性について、ユーザーの要求に答えられるような、よりよいものをたとえ時間がかかっても作り上げて頂きたいのである。

4.将来の展望

 当社では、光カードシステムの構築をアプリケーション開発を中心に地道に継続してきた。その結果は、学会などでも発表されており、十分に評価されている。米国で当社が行なっている数種類の実験も、光カードシステムが実際に使われる形熊に非常に近いところまできている。アプリケーションが見つからないという問題点をある意味で乗り越えてきているのである。
 この中で、先に挙げた、カード供給の問題や、リーダ・ライタの商品化の問題は、近い将来、解決されなければならない。標準化については、最終的な標準リーダ・ライタができた時点で、それに準拠できるような体制をソフトウェアの面から対処している。
 より良く、より安い光カードリーダ・ライタのできる日を待ち望んでいるのである。

文献

1)Sato,T., Kimura,F., et al,: Application of spatial filtering technique to automatic optical card inspection. Proceeding of International Commission for Optics Congress, Garmisch-Partenkirchen, 1990.
2)Shoda,J., Vallbona,C., Brown,J.: Evaluation of an optical memory card system for patient records. Proceeding of SPIE International Symposium on Optical and Optoelectoric Applied Science and Engineering, San Diego, Vol.1348, 1990.
3 )Vallbona,C., Brown,J.: Baylor-Harris County Community health clinic application of the laser card system. Proceeding of AAMSI Congress, San Francisco, 1989.


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