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第1回日本医療用光カード研究会論文集、29-30、1990年

[シンポジウム1]

周産期管理における医療用光カードの応用

○原 量宏、神保利春
日本周産期学会
日本母性保護医協会 コンピューター等検討委員会委員
香川医科大学母子科学教室

はじめに

 周産期管理に用いるパラメータは、母子健康手帳にもみられる様に、年齢、妊娠週数、血圧、体重、子宮底長、胎児心拍数などであり、数値化、標準化しやすく、とくに昼夜の別なく生じる分娩の現象を連続的に監視する仕事はコンピューターの仕事に適している。我々の施設では理想的な周産期管理をめざして、コンピューターによる周産期管理システムを開発・導入し、陣痛開始から分娩まで全妊娠について24時間の監視体制を実現している。妊婦外来においては、従来より来院ごとにカルテに記載するデータ、および胎児心拍数とその分析結果に関してディスクに記録することを試みているが、最近ではさらに同様の情報を光カードに記録する試みを開始している。分娩経過についても開院以来の全症例について、我々が独自に開発したデータベースにデータを保存しており、年間統計や研究用の臨床統計に利用している。リスクの高い妊婦(高血圧、糖尿病など合併症)に関しては、より密度の高い管理を目的として、自宅から病院ヘパソコン通信のネットワークを利用して胎児心拍数と子宮収縮の情報を直接送る在宅管理システムを試みている1)〜2)。この様にコンピューターを用いて周産期管理のデータを集積していると、患者のデータを一施設内でデータベースとして利用するだけではなく、逆に個々の患者のデータを持ち運び可能なカードなどに統一した形式で記録することにより、他の医療機関とのデータ交換や、ひいては一定地域における共同の健康管理などに利用したいという構想にいたる。すでにわが国においては母子の健康を推進する目的で、世界にさきがけて母子健康手帳を導入し、妊婦が妊娠中に日本中どこの医療施設に転院しても(里帰り分娩など)、それまでの妊婦の情報が確実に伝えられる様になっている。現在日本は世界で最も周産期死亡率の低い国となっているが、その要因の一つとして母子健康手帳のシステムが世界中から注目されている。我々はこれまでフロッピーディスクやICカードを利用して、これらのデータを共通に利用することを検討していたが、容量やデータ保存(書き替え、その他)、さらに経済性の点で利用しにくい点があった。最近急速に実用化した光カードは、これらの問題点をかなりの程度解決しており期待がもたれている。本講演では、我々の開発した光カードを用いた妊婦外来の管理システムを中心に、光カードの利点と問題点、さらにその将来性に関しても報告する。

1.光カードを用いた妊婦外来管理システムの構成
 我々の開発した妊婦外来管理システムは、PC9800VX(640Kbytes)とHard disk unit(80Mbytes)、磁気カードリーダー、および光カードリーダー/ライター(オリンパス光学)から構成されている。光カードとしてはオリンパス光学製(25Mbytes)を用いており、現在のところ妊婦管理には十分な容量である。本システムでは、必要に応じてハードディスクと光カードを補完的に用いており、データのバックアップ体制を確実にしている。連続量である胎児心拍数および子宮収縮を記録する場合と、妊娠週数や、体重、血圧など通常のパラメータのみを記録する揚合では、ディスクおよび光カード上でのformatが大幅に異なるが、図1は胎児心拍数と子宮収縮の情報を記録する場合のディスク上のメモリー配置をしめす。

図1

 妊婦の初診時に一人あたり128kbytesがディスク上に自動的にわりあてられ、その後妊婦外来通院時の各種データおよび心拍数データはすべて同一のファイルに記録される様になっている。128kbytesとしているのは、我々がホームテレメトリーに用いているlCメモリーカード(128kbytes)のformatと整合性をとるためである。ただし光カードの場合には後から追記が不可能であるため、初診時に大きなファイルを作ることはせず、来院一回ごとのデータを一つ一つの小さなファイルとして記録し、ファイルの属性に連続番号を自動的に割当てている。ここで本システムの実際の運用についてのべる。妊婦初診時には、本院で用いているIDカードを磁気カードリーダーに差し込むのみで、自動的に妊婦の名前、lD番号が読み取られる。ついで年齢、経妊回数、血液型、TPHA、肝炎、体重、血圧、最終月経、分娩予定日、その他合併症など、必要な項目をキーボードから入力する。これらの情報はディスクおよび光カードに自動的に記録される。次回来院時からは、妊婦の光カードを光カードリーダーに挿入するのみで、妊婦の名前、当日の妊娠週数、前回来院時の諸データがCRT上に自動的に診断表示され、さらに今回の血圧、体重、尿所見、胎児のGS、やCRLに関する質問項目が表示され、その項目にしたがって入力することにより新しい情報は、ディスクおよび光カードに記録される。妊娠 中期以降にはこれらの項目にくわえ、子宮底長、腹囲、胎児のBPDなどその他の超音波計測値が表示され、妊娠末期にはX線による骨盤計測値なども記録可能である。妊娠中期以降には、胎児心拍数と子宮収縮の記録、いわゆるNSTの情報も記録可能であり、その場合にはCRT上に20分を単位として胎児心拍数の平均値、variability,acceleration の回数、高さなどが自動的に診断され、さらにその情報はディスクおよび光カードに記録される。光カード上に70時間以上の心拍数情報が記録可能であり、十分な記録容量といえる。これらすべてのデータは、必要に応じてグラフィック表示したり、入院時に必要なデータをまとめて表示したり、さらに分娩後のデータベースと連結して利用できることはもちろん、他の医療施設に妊婦が転院した場合においても効率的にデータを利用することが可能である。図2は胎児発育の指標となる児頭大横径の標準発育曲線と実際の発育パターンをしめす。

図2

2.周産期管理における医療カード、とくに光カード利用の問題点
 すでにのべた様に周産期管理においては医療内容の性質から、コンピューター化が急速に進んでおり、また母子健康手帳に代表される様に、共通の書式による妊娠データの交換システムが確立しており医療カード、とくに光カードは比較的なじみやすい環境といえる。日本母性保護医協会では、会員間の情報交換をより円滑にするため現在ファックスネットの構築や、医療へのパソコンの導入を推進しており、将来はさらにパソコン通信によるネットワークを考慮している段階である。ここで医療カードの利用に関しての問題点を整理してみる。現在の母子手帳では必要最少限のデータにおさえてあるが、それでも記入項目は約1000項目程度ある。実際の妊婦外来のカルテの内容はさらに多く、少なく見積もっても2000項目程度である。分娩時のデータとしては約300〜500項目で、合併症があればさらに項目数は増加する。胎児心拍数の様な連続するデータを記録する揚合には、通常の数値に比較しはるかにデータ数が増加する。1秒間に1個のデータとしても1時間に3600個のデータ数となるが、さらに精密に記録する場合には1時間に10000個以上のデータ数となってしまう。現在我々がホームテレメトリーに用いているICカード(128kbytes)に胎児心拍数と子宮収縮の情報を記録した場合には、約7時間分の記録が可能であるが、光カードの記録容量は現在でも2Mbytesであり、70時間以上の記録が容易に実現される。したがって光カードを用いた場合には、外来カルテのデータと、分娩時のデータの合計約2500項目を記録した場合でも、妊婦の外来および分娩経過すべてのデータを十分記録可能といえる。心拍データを制限した場合には、周産期データのみならず、他科の領域のデータを記録する余裕も十分あると考えられる。今後の光カードの容量の増加を考えた場合、医療に関するすべてのデータはもちろんのこと、患者に対する疾患の説明、生活指導など、あらゆることを記録しておくことが可能であり、これからの新しい利用法がおおいに期待できる。

おわりに
 光カードに関しては、今後技術的、社会的に解決すべき問題が多く残されてはいるが、21世紀の医療を考えた場合、いずれこの様な方向へ進むことは避けられず、したがって未来を先取りする意味でも、ぜひとも光カードに代表される医療カードの利用に関する研究を進めていくべきであろう。
(本研究の一部は昭和63年度日本医師会研究助成費による)

文 献

1)原量宏コンピューターを用いた周産期管理、日本産婦人科学会雑誌、40, 6 806 1988
2)原量宏、神保利春、他 臨床統計とコンピューター、産科と婦人科、56(8):1650, 1989


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