第1回日本医療用光カード研究会論文集、31-32、1990年 [シンポジウム2]
歯科医療用光カードの利用について
岡 英男 日本歯科医学会
1.「歯科医療情報研究会」
歯科界における情報処理の可能性についての研究は、昭和59年以来、日本歯科医師会会長の諮問機関として設置された「歯科医療情報研究会」(会長;広中平祐ハーバード大学教授)を中心に進めてきた。
この研究会は、歯科界全体の総合的な歯科医療情報ネットワークシステムの構築を軸として、ネットワーク端末ともいうべき各歯科医院では、患者のカルテ作成ができる「歯科用電子カルテシステム」の利用を推奨している。2.歯科用電子カルテシステム
歯科用電子カルテシステムの特徴は、日常的に歯科医師が記載しているカルテをコンピュータによって楽に記載できるほか、さまざまな診療支援システムの付加が行え、さらにはコンピュータによって作成されたカルテのデータを利用してレセプトの自動作成にまで及ぶものである。
歯科におけるカルテ記載の特徴は、基本的に診療に携わる歯科医師の行動分析に基づいている。内容は、
[1] 診療の流れに応じた診療行為の記載
[2] 診療行為に対する追加記載(検査結果、指導内容、修復形態、使用材料・薬品の種類・量・用法など)
[3] 患部の治癒評価の記載
[4] 前回処置の評価の記載、等である。
この歯科用電子カルテシステムの診療支援として現在システムに搭載されているのは、患者の既往歴に対する歯科診療上でのアドバイスにとどまるが、今後は患者のさまざまな病歴情報の参照が行え、それにもとづく適切な診療方針の決定等に役立てばよいと考えている。3.歯科用光カードの可能性
歯科における光カードの利用については、現在、その可能性についての研究が一部で行われているに過ぎない。ここでは、歯科用光カードの利用可能性について簡単に紹介したい。
3.1 病歴管理
歯科固有の診療内容に即していえば、口腔内の部位管理がシステムの基本になる。
歯科の患者病歴は、
[1] 歯牙単位の処置、修復管理
[2] 複数の連続した歯牙間修復処置の管理
[3] 歯槽膿漏などの軟組織疾患に対する処置の管理
[4] 義歯などの装置およびその支持組織の管理
[5] 顎骨およびその機能の管理
などに区分され、いずれも患者の口腔内ではこれらの各部位の疾患が、たとえば義歯を作成中の患者に歯槽膿漏が認められさらに特定の歯牙にう触が存在するというように混在するケースが多い。
歯科診療の管理としてはこれら各部位を階層的に管理する必要があることから、およそ部位管理に必要なコードは永久歯、乳歯を含めて64種類にのぼる。
したがって、患者を少くとも1万名以上を管理する必要のある一般歯科診療所では、歯科用コンピュータによって各患者ごとに部位・病名・診療行為を管理する場合に記憶能力の大きい光カードを患者ごとの外部病歴管理媒体として位置付け、患者の固有情報としての情報絡納ツールとして利用することが考えられている。3.2 画像情報
上記の病歴情報を画像にシミュレートする方法が考えられる。
この方法では、歯牙および歯肉または装置のモデル画像に各患者の診断および処置結果を合成してパターンとして表示させるもので、光カードの容量の大きさに着目したシステムが考えられる。3.3 データベースとしての利用
光カードは当初から大容量の記憶媒体として注目されていたが、歯科では、上記の患者カルテ情報の記憶媒体としてではなく、歯科用の辞書または保険診療情報、薬剤副作用情報のデータベースとしての利用が考えられている。
しかしながら、これについてはCD−ROMを利用する方途も考えられることから、現在ではむしろ光カードの携帯性能に注目すべきという意見が強い。3.4 金融カードとしての期待
歯科用電子カルテシステムが、歯科医師のカルテ記載からレセプト発行までの一貫処理ができるシステムとして開発されたことから、一部負担金計算の省力化など受付会計事務の合理化にも大きな効果が得られている。
さらに、歯科では「自由診療」と呼ばれる診療費の全額患者負担による治療が行われているが、この場合には一度に多額の診療費を決済することがあることから、カード決済を行っている歯科医院が増えてきている。
そこで、光カードにもPOSシステムに対応したこのような決済機能を付加してより一層の利用を計ることが考えられる。