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第1回日本医療用光カード研究会論文集、35-36、1990年

[シンポジウム4]

輸血業務における医療用光カードの応用

小松文夫
東京医科歯科大学 輸血部

はじめに

 近年、医療情報メディアとして椎名らの開発した光カードの応用が各分野で研究されつつある1)-3)。すでに明らかにされているように光カードは、情報の容量が大きく、磁気・静電気の影響を受けない、長期保存が可能である、小型・軽量で持ち運びに便利、機械的損傷を受けにくい、などの特徴を有し、カードヘの入力は文字、数字のみならず図、写真、心電図、X線写真など多彩で、情報記録の構造化がなされれば必要情報の呼出しは極めて簡単であると云われる。光カードの最も特徴とするところは個人が自らの医療情報を常に携帯することができ、そのため他の医療施設でもそれらの情報を瞬時に呼び出すことが出来るということである。さてこのような特徴を有する光カードを輸血業務の分野にも応用出来ないかとして、今回日本輪血学会でもそれについて検討することになった。まだカードの運用までには至らないが、応用の可能性について検討したのでその結果を報告する。

1.光カードの応用から見た輪血業務の特徴

1)供血者と受血者
 輸血とは、供血者から受血者(患者)への「血液の移動」である。そのため輸血業務では受血者のみならず供血者についても厳密な情報が必要である。ところで供血者と受血者では検査も管理もかなり性質を異にする。同じ検査をするにあたってもその意義は異なることがある。したがって輪血の分野で光カードを応用する場合は患者としてだけでなく、供血者として別個に考慮する必要がある。
 供血者について云えば供血(献血)は一回のみとは限らず、複数に渡ることが多く、また何年も間をおいてなされることもある。そのため以前の供血が明確に残る記録が必要とされる。一方患者について云えば、輸血は一回だけで十分とする例はわずかで、むしろ数回にわたって、症例によっては数年にわたって輸血が行なわれることがある。過去の輸血歴の情報は輸血の検査に非常に重要なので、それらの記録及びその呼出しは簡便でありたいものである。その意味で輸血業務における光カードの有用性は非常に高いと云えよう。

2)献血者カードとしての光カードの有用性
 献血の分野で光カードの有用性が高いと思われるのはとりわけ献血者においてである。献血者は血液センターで、あるいは街頭の移動採血車で献血をするが、多い人では数十回から百回以上も献血する。採血の回数が多くなればそれだけ献血者の健康管理は重要になってくる。また献血する場所は必ずしも同じところとは限らず献血者によって場所は一定しない。関係者にとって献血者の献血歴や以前の検査結果の情報を得ることは重要なことである。そこで現在献血者には献血カードが配られている。しかしそこに記載される内容はごく簡単なもので実際にはあまり役にたたない。
 もし光カードを導入することによって、そのような情報を何時何処ででも出来るだけ多く、正確にいち速く得ることが出来るなら、センターでも移動採血車でも非常に便利になるに違いない。

3)成分輸血と光カード
 現在の輸血は成分輸血が主である。そのため輸血に用いる血液製剤の種類は多様でしかも量も多い。成分輸血が導入されてからは輸血は多種多様となり、複雑化してきた。それに伴ってそれらの記録は当然煩雑になっている。もし簡便な記録方法ができ、また呼出しも簡単になるなら極めて有難いことである。

4)自己血輸血に向けての光カードの応用
 一般の輸血(他家血輸血)は輸血感染症や同種免疫反応あるいは免疫抑制などの副作用を起こすことがあり、そのため近年は他家血輸血に替って自己血輸血が推奨されるようになってきた。自己血輸血は手術の数日前あるいは数カ月前から患者の血液を一定量ずつ採血して保存しておき、手術の当日にそれを用いる方法である。自己血輸血を実施する場合大切なのは的確な採血管理である。ひとりの患者から数回に渡って採血をするので、採血のたびごとに患者の状態や血液学的変動をチェックしなければならない。それらの管理が十分行き届いて初めて自己血輸血の業務が可能になるのである。もしこれらの煩雑な業務を光カードによって解決出来るのなら是非取り入れたいものである。

2.光カードヘの入力項目

1)供血者について
(1)供血者の特微
 輸血用の血液は誰からも貰える訳ではない。一定の基準を満たしているものからしか貰えない4)。その基準は厚生省令(昭和61年1月)に規定されているので、供血者の選択はそれに従って行うことになる。カードに入力する際には以下の特徴を考慮しておくとよい。
 供血者の基準:供血者の基準(採血の基準)は一回採血量が200mlか400mlかによって異なる。
 供血者の問診:既往歴や過去の輸血歴。献血歴、妊娠歴の他に採血による異常の有無、HIV感染の機会の有無などを記録する。
 供血者の検査:血液型や貧血の有無などの他に、各種病原体の有無の検査を行なう。
 供血者の管理:度重なる採血や頻回にわたる成分採血の場合に必要となってくる。
(2)供血者に関する入力項目
 A 問診
 ・個人の属性:名前、年齢、性別、身長、体重
 ・既往歴:とくに梅毒、マラリア、結核、心疾患
 ・現在の体調:血圧、脈拍、貧血の有無、めまい、失神、けいれん、てんかんの有無
 ・特殊問診:輸血歴、妊娠歴、手術歴、抜歯、予防接種、肝炎、麻薬常用、性的感染の危険性
 B 検査
 ・貧血の有無:血液比重、ヘモグロビン量
 ・生化学検査:梅毒、GOT、GPT 、TP、Alb
 ・病原性検査:HBs抗原、抗HIV抗体、抗ATLA抗体、HCV抗体、CMV抗体
 ・血液型:ABO式、Rh式、その他の血液型
 ・抗体スクリーニング
 C 献血に関する記録
 ・献血日、献血量、献血回数

2)受血者について
(1)受血者の特徴
 輸血を必要とする患者は通常は複数の血液を複数の回数にわたって必要とするので、輸血情報は検査の上でまた輸血効果を判断する上で大切である。さらに副作用が起きた場合、その原因を判断するのに重要である。
(2)受血者に関する入力項目
 A 一般的事項(一般の患者に同じ)
 ・既往歴(とくに輸血歴、妊娠歴を重視)
 B 輸血に関する頂目
 ・血液型(ABO式、Rh式、その他の血液型)
 ・抗体スクリーニング(供血者に同じ)
 ・交差適合試験
 ・輸血日・量、血液の種類、血液No、輸血回数
 ・輸血による血液学的変動
 ・輸血副作用・合併症

3.情報の構造化と呼出し

 供血者と受血者について問診や検査項目、その他必要とされる入力項目を上述したが、それらから如何なる情報を構造化し引き出すかを検討した。以下にそれらを列挙する。

1)供血者における情報構造化
 ・献血年月日、献血回数
 ・献血による血液学的変化
 ・次回採血時期の判断となる情報
 ・病原体感染の有無(とくにHIV)
 ・赤血球不規則性抗体の有無

2)受血者における情報
 ・過去の輸血歴および妊娠歴、血液型の再確認
 ・輸血量、輪血回数、 血液の種類
 ・輸血効果の判断、輸血による血液学的変動
 ・今後の輸血の必要性の判断の材料となる情報
 ・抗赤血球抗体その他の抗体の出現の有無
 ・輸血副作用及び合併症のチェック

3)自己血輸血のための情報構造化
 自己血輸血のための採血はあくまで患者について行うものであり、患者の場合健常者と異なり採血による血液学的変動は大と思われる。そこで前もって健常者の変動をもコントロールとして入力しておいて、それと比較した形での情報を呼び出すことが出来るようにセットしておきたい。
(1)入力項目(一般項目は上に同じ)
 ・各採血日時
 ・各採血時の血液学的検査結果
(2)情報呼出しとその応用
 ・採血日時、採血回数の確認
 ・採血による血液学的変動の確認
 ・採血量及び採血間隔の適正の判断
 ・次回採血時期と採血量の割り出し

文  献

1.Shiina,S., Nishibori,M.: Problems and solutions in the clinical application of laser card. Proc. of the 12th annual symposium on computer applications in medical care. 600−601, 1988.
2.Long,J.M.: On providing an automated health record for indivisuals. Proc. of the 5th conference on medical informations.Prt 2. 805, 1986.
3.椎名晋一、西堀眞弘、松戸隆之:光カードの医療用データベース-ファイル・フォーマット.第9回医療情報学連合大会 9th JCMI. 621-624, 1990.
4.遠山 博:供血者の選択と必要な検査,輸血学(遠山博編)中外医学社, 1989, 37-57.


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