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第1回日本医療用光カード研究会論文集、37-38、1990年

[シンポジウム5]

医療用光カードの臨床医療面に於ける適用について

神津康雄
日本臨床内科医会 会長

 光カードは、ICカードの250倍の記憶容量を持ち、一枚あたりの単価も低価であることから、医療用のデーターベースとして活用できる可能性は極めて高いものと思われる。
 光カードは、患者がこれを個人所有し、生涯的な基本データーを常時携行して、病歴聴取、検査、投薬等の重複を避け、患者の負担と医療費の軽減を図るとともに、患者自身が自己の特性や治療内容を知っていて、救急時にもすぐ情報を提供することができるので、そのメリットは絶大である。
 しかし、その実用化に当たっては、日本の国民性と臨床医療の現況からいって、インフォームド・コンセントの前提となる医師と患者との信頼関係と、プライバシーの問題を充分考慮に入れる必要がある。医療内容の向上を図る進歩的な試みや、先端的科学技術の進歩などを、医療面で社会的に適用しようとする時、これまではしばしば大きな抵抗に遭遇した。医薬分業が、戦後既に40年に及ぶ経過にも拘らず、調剤請求書の提出がまだ1割にも充たないことや、レセプトの電算化が導入されて以来30年を経た今日でも、なお3割程度であることなどは、その間の事情をよく物語っている。
 これは、日本の医療が、厚生省、医師会、受療側三者の、医療に関する認識に大きな差異があるまま、今日に至っているからである。光カードに焦点を絞っても、その原点となる「レイボー計画」が発表された時、日本医師会は反対を声明したが、厚生省が「ICカード等のプロジェクト」を設置してからも、医師会はレセプトの査定、事務量、人件費、設備投資の増大などの理由で、最近も磁気カードによる保険証電子化程度が適当であるという答申を出している。患者にとっても、必要なときに持ち合わせていないことのないよう常時携帯することや、自分の健康管理歴を知るためには、家庭に読み取り機を設置することなどが必要となってくる。
 「For the patient」という基本理念で進められている光カードの研究、開発が、日本の臨床医療の面で実際に有効な医療内容向上への手段として活用される日の、早く来ることを期待したい。


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