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第1回日本医療用光カード研究会論文集、41-42、1990年

[一般演題1]

光カードに医療情報データベースを自動入力するシステムの開発

○西堀眞弘、椎名晋一
東京医科歯科大学医学部臨床検査医学

1.はじめに

 光カードに医療情報を記録し、それを患者自身が携帯すれば、複数の医療機関にまたがるカルテとして、救急外来を受診するとき、初対面の医師の診察を受けるとき、ほかの病院に紹介してもらうとき、複数の医療機関に通院しているときなどに高い有用性が期待できる[1]。しかし、実用化のためには、記録方法およびフォーマットの標準化、信頼性の確保、費用、読み書きスピード、患者のプライバシー、公共性などを十分考慮する必要性が指摘されている[2]。


2.背景

 これらの他にも、医療情報を光カードに入力する手間をどう解消するかという課題も技術的に重要である。その対策としては、入力作業をできるだけ自動化し、用手入力の負担を最小限にすることが望ましいと考えられる。そこで私どもは、個人医療情報データベースを自動的に光カードに記録するシステムを開発し、その有効性を検討した。


3.システム設計

3.1 情報
 まずカード発行時に、固有のカード番号、発行日および発行場所などのカード属性が書き込まれる。その後次の3種類の情報が記録される(Fig. 1)。

Fig. 1 Schema of System Description

(1)自動的に入力される情報: 自動的に測定、収集され、検査部システムのデータベースに蓄積されている臨床検査情報。生化学的検査、血液学的検査、血清学的検査などの測定データからなる。
(2)自動的に付け加えられる情報: 医師の氏名、診療科、所属科、医療機関名および臨床検査の正常値情報など、それぞれの医療機関に固有の情報。あらかじめ特定のファイルに準備され、入力された情報に応じて自動的に付け加えられる。
(3)キーボードで入力する情報: 患者属性(氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、職業、健康保険証情報など)、医療機関属性(名称、住所、電話番号、固有の患者番号など)、診療記録(診察日、診断、主訴、家族歴、既往歴、アレルギー歴、血液型、喫煙歴、飲酒歴、身体所見、画像診断所見、手術記録、リハビリテーション記録、処方記録など)からなる。
 患者のプライバシー保護のため、このシステムへのアクセスは使用者IDとパスワードの入力を必要とし、職種により入出力できる情報を制限するようにした。ただし情報の暗号化は行わなかった。

3.2 入力
 前記(1)の情報はあらかじめファイルに蓄積され、一括して自動的にカードに書き込まれる。そのうち臨床検査情報は、検査データベースから自動的にファイルに抽出することができる。(3)の情報はキーボードから入力されるた後パーソナルコンピュータのRAMに蓄えられ、操作者の確認や編集を受け、指示あるつどカードに書き込まれる。ただし、(1)の情報は比較のために(3)の情報と同じようにキーボードから入力することもできるようにしてある。またデータエリアのインデックス情報、書き込み日時などはシステムによって自動的に記録される。カードに書き込まれるすべての情報は、そのつどバックアップコピーが専用ファイルに保存される。

3.3 出力
 カードをリーダ・ライタに挿入すると、パーソナルコンピュータのRAMへのデータ転送が自動的に開始される。RAMに転送された情報は、操作者が随時迅速に表示させることができる。読み取りスピードを補うため、基本的な情報や緊急度の高い情報は優先的に読み込まれ、その表示と残りの情報の読み込みが並行して行われるようにした。特定の疾患に関する臨床検査情報は、時系列やグラフ形式での表示も可能である。

3.4 フォーマット
 フォーマットの詳細は別に報告する予定であるが、基本的にはすべての情報を文字列として記録する。現在は日本語を基礎にしているが、将来の国際的汎用性を考慮し、国際電話に用いられている国番号を含めてある。


4.システム構成(Fig. 1)

4.1 ホストコンピュータ
 検査データベースを収集、蓄積および管理するホストコンピュータはDEC社のMicroVAX-IIである。

4.2 光カードおよびリーダ・ライタ
 実験に用いた光カードは、1.2メガバイトの容量をもつWrite-Once-Read-Multipleタイプのドレクスラー社のレーザーカードである。レーザー光線を用いて光カードの情報を読み書きする光カードリーダ・ライタには、日本コンラックス社のLC302Kを用いた。

4.3 パーソナルコンピュータ
 ユーザーとのインターフェース、光カードリーダ・ライタの制御および検査データベースからの臨床検査情報の抽出を行うパーソナルコンピュータには、日本電気のPC-9801VXを用いた。


5.結果

5.1 入力速度
 10人の糖尿病患者の臨床検査データ(平均3.9Kバイト、平均受診日数25日)を自動的および用手的に入力した。新しいカードにこれらのデータを入力するのにかかった時間は、前者が1患者当り平均30秒、後者が1患者当り平均990秒であった。実験に用いたリーダ・ライタの読み書きスピードが40Kビット/秒とフロッピーディスクの約5分の1であるため、記録過程にかなりの時間が費やされるが、入力にかかる時間は自動入力により著しく短縮された。

5.2 信頼性
 上記のように記録した後、カードの出力データを入力データおよびバックアップコピーとそれぞれ比較した。自動入力されたカードについては、すべての患者につきこれらの間に相違はなかった。一方、用手入力されたカードについては、バックアップコピーとすべて一致したが、入力データとの比較では7箇所で不一致が検出された。この結果は、上記の10人の糖尿病患者のデータについて、用手入力ではタイプミスが7箇所で起こったが、自動入力ではすべて正確に入力されたことを示している。


6.将来計画

 今回の検討により、自動入力は実現可能な方法であり、しかもスピードと信頼性において著しく優れていることが確かめられた。現在私どもの施設で立案中のスーパーインテリジェントホスピタル構想は、患者指向の医療情報データベースの確立が大きな柱となっており、この自動入力システムの実用化が鍵のひとつとなることが期待される。

参考文献
[1]椎名晋一、他:光カードを用いた医療情報管理システム、第7回医療情報学連合大会論文集、597-600(1987).
[2]Shiina, S. and Nishibori, M., Problem and Solutions in the Clinical Application of Laser Card, Proceedings of the twelfth annual symposium on computer applications in medical care (1988), pp. 600-601.


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