第1回日本医療用光カード研究会論文集、47-48、1990年 [一般演題3]
自動化総合健診と光カードの応用について
○日野原茂雄、高橋為生、上村 等、中村正彦 東海大学医学部 笠 冨美子、平野千代、冨田冨果枝 同保健管理センター 高橋 隆 京都大学医学部医療情報部 小山田 浩、日下部正宏 ソニー株式会社
1.はじめに
近年カード型メディアの実用化が急速に進められ、その適用分野も広範囲なものとなってきている1)。医療情報の分野においても、磁気カード・ICカード・光カード等それぞれの特性を活かしたシステムの開発が盛んに行われ、その実用化への期待が高まりつつある。2)他方、成人病のようなサイレントな疾患の予防、早期発見を効率よく行うためには、定期的な健康チェックが必要である。しかし、今日のように長寿時代ともなれば、定期的に集積する人間ドックデータも次第に膨大し、個人が保管するには困難を伴う事が予想される。このような状況に於いて我々は従来より、光カードに健康管理用情報(健康歴)を書込み、それを受診者各個人が携帯し健康管理に役立てようとする、PHDRS(Personal Health Data Recording System)の開発に着手している2)。今回は、総合健診受診者の効果的かつ自主的な健康管理を目標として、記憶容量が極めて大きく、しかも廉価な光カードを利用するシステムの活用方法について検討したので報告する。2.システム開発の経緯
1986年3月に東海大学医学部ME学教室・同付属病院健診センターを中心として、「光カード研究会」が発足した。本研究会の目的は、光カードに書込んだ健診情報を有効的に活用する「健康管理システム」の開発であり、最終的には地域保健医療体制における医療情報ネットワークの確立である。本プロジェクトのスタートは、まず第1フェーズとして、光カードへ書込む項目及び方法、画面表示方法等を検討した。次に光カードリーダーのモニターとして、健診センターと団体契約を結んでいる事業所2社に協力を依頼した。また第1フェーズ本番稼働時に於ける光カード発行枚数は350枚、登録した項目は総ての自動化総合健診データであり、出力は健診1回分或は3回分をパーソナルコンピュータの画面に表示するものとした。これにより、個人単位に蓄積した過去から現在までの健診データ総てを光カード1枚に書込み、データの参照は必要に応じて画面に出力できるPHDRSがスタートした。
第2フェーズは、1987年6月に始まるが、今回は医療情報のセキュリティー、健診データのグラフ化・パターン化など光カードを用いて実際に健康指導を行うときに必要と思われる機能を追加した。更にモニターも積極的に参加できるように、従来より使用していた光カードのリーダーに代わり、データの書き込みも可能なリーダー/ライターを設置した。第2フェーズのテーマであるセキュリティーに対しては、システムを起動できる者を限定するために、データを参照する権利を有する者として、健康管理指導者及びデータ管理者にマスターカードを発行した。更にカード保持者を確認するために被検者本人から教職員番号及び生年月日を聞き、カードに登録してあるデータとチェックし一致している事が確認された後にデータを参照できるようにしている。表示画面は実際の健康指導用に画面単位に検査項目を選択しその表示方法を工夫し、医療情報のグラフ化或はパターン化には、健診システムで稼働している「医師面接支援システム」を採用した3)4)。
尚、本研究会で発行した光カードは649枚であり、そのうち第2フェーズとして268枚が実際に稼働している。3.システム構成
3.1 光カード及びリーダ/ライター機能
本システムで使用した光カードは、WORM(Write Once Read Many)と呼ばれる追記型で、記憶容量は512Kバイトである。リーダー/ライターは読出し速度5Kバイト/sec、書込み速度320バイト/secである。
3.2 システムフロー
光カードシステムは、3つのサブシステムより構成している。第1はデータ収集・出力処理であり健診システムのリレーショナルデータベース内で管理している健診データを収集し、フロッピーディスクに出力するものである。第2はフロッピーディスクに出力した健診データと職場内健康診断の結果を光カードに書き込む処理である。第3は、光カードに記録したデータを健康指導用として開発した画面に表示するもので、プログラム及び光カードのデータをパーソナルコンピュータに内蔵したRAMディスク内に読み込み稼働する。4.データの登録及び照会
4.1 登録データ
光カードヘ登録できるデータは、大別して自動化総合健診データ・定期健康診断データ及び保健室利用時データの3種類に分けられる。
4.2 書き込みフォーマット
各種データの光カードヘの書込みはブロック単位に行い、自動化総合健診のデータは3ストライプ(15ブロック/1ストライプ、4Kバイト/1ブロック)計45回分を、職場内で発生した情報は残りの4ストライプ(100ブロック/1ストライプ、512バイト/1ブロック)計400回分を使用する。
4.3 登録内容
健診データは、成人病の予知・予防を目的として自動化総合健診で実施する総ての診察・検査・問診及び判定結果である。また今回は地域医療体制下で有用になると考えられる、SDI値(Standard Daviation Index)をテスト的に登録した5)。
SDI=(測定値−平均値)/標準偏差値
定期健康診断データは、光カードシステムのモニターとしてリーダー/ライターを設置した職場で定期的に行なう健康診断のデータである。保健室利用時データは、職場内で定期的にチェックが必要であると判定された者、或は突発的に職場の保健室(医務室)を訪れた者に対して実施する検査項目である。
4.4 画面構成
本システムで使用する画面は、数値或はメッセージを1回分表示するもの、それらを時系列的に複数回分表示するもの、及びグラフまたはパターンとして示すものの3種類となっている。1回分を表示する画面17、複数回分表示可能な画面11、グラフまたはパターンとして表示する画面8の計36画面より構成しており、それぞれの画面は総て健康指導を実施し易いように項目を固定化している。5.今後の展望考察
1)リーダー/ライターの処理速度、カードの書き込みエリアの拡張など性能面での向上をおこない実用機としての使用をテストする。
2)各種健診データを複数の医療施設で相互に利用可能とさせるためにデータの加工法、更にカードヘの格納方法を検討し地域保健医療に適用し得るシステムとする。
3)カードを用いて実施する保健指導或いは健康相談の体制を充実させ、光カードシステム全体の運用体制を確立する。
4)カード利用者の増加
・学内教職員
・健診受診者、など
5)登録データ項目の追加検討
・保険証
・薬歴
・アレルギー
・医療用語辞典
・栄養指導手引き書、など
6)利用範囲の拡大(磁気ストライプとの併用)
・テレフォン、オレンジカードなどプリペイド用
・キャッシュカード
・病院、等のIDカード
・印鑑証明
・バンクカード、など
以上の事項について具体的な検討を実施する必要があるものと考える。6.まとめ
今回我々は、健診センターと学内の保健管理センターの2者間で発生する健康管理情報を光カードに入力し、それらを各個人が携帯する、光カードシステムの構築を試みた。これにより、限定された範囲内ではあるがカードを媒体とした医療情報のネットワークが一応完成した。今後は救急医療体制など適用分野の拡張、規格統一化による利用環境の整備、登録項目の追加とそのセキュリティー、リーダー/ライターの機能向上などについて積極的に検討を進めたい。−参考文献−
1)高橋隆:ICカード,光カード.医療とコンピュータ.1(2).17-26,1988.
2)S.Hinohara:Medical Application of IC Card and Optical Card Towards New Hospital Information System, International Medical Informatics Association, V7-V11, 1988.
3)高橋為生.他:自動化総合健診における医師面接支援システム.医療情報連合大会論文集.727-728,1987.
4)日野原茂雄.他:自動化総合検診における面接支援システムの開発に関する研究.協栄生命助成論文集 IV.93-101,1988.
5)高橋為生.他:地域保健のために有用と考えられるSDI値表示法の検討.日本プライマリ・ケア学会誌.10(4).261-263,1987.