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第2回日本医療用光カード研究会論文集、11-12、1991年

[総会長講演]

精度管理と光カード

大場康寛
近畿大学医学部 臨床病理学講座

 真に医療に役立つ臨床検査が実践されるためには、日常、臨床検査のプロセスにおいて常に一定の正確度(Accuracy)と精密度(Precision)が保持され、持続され、それが保証されるような行届いた成績管理機構が確立されていなければならない。
 いかに多数の検体について多項目の検査が迅速に手ぎわよく行われたとしても、成績管理の不十分な臨床検査においては、せっかくの検査値も診療に役立たないばかりか、逆に重大な誤診のもとをつくり出すおそれさえある。
 ここに正しい臨床検査の成績管理の必要性が生じてくるのは当然である。
 臨床検査の流れは大きく3つの行程に分けることができる。すなわち1)分析前行程(検体採取.搬送.受付.登録.ワーク・シート作成.検体処理,整理分類など)と2)分析時行程(用手法.半自動法.あるいは全自動法検査など)と3)分析後行程(検査デー夕出力.データ収集,整理.チェック,台帳作成.報告書作成.ファイルなど)である。したがって臨床検査の「成績管理」はこの3つの全行程を通じて一貫して実行されて、はじめて完成するわけである。
 今日の産業界の各分野において展開されている総合的、多角的、有機的、機能的な品質精度管理分析Total Quality Control(TQC)は臨床検査の領域においても例外ではなくなった。臨床検査のTQCは、検体採取、受付、分析、データ処理の一貫行程の各所に設置されたチェックポイントから、正確に、能率的にしかも即応的に管理情報が収集され、表示され、例えば異常発生の掲合は直ちにそれが「分析管理」上の問題なのかそれともそれ以外の「分析前後の管理」行程におけるものなのかが見分けられ、速やかにそれぞれ対策が講じられるというような体制が、日常検査の運用の中に取り入れられることによって確立されるのである。
 したがって、すでに日常臨床検査、ことに臨床化学において、いわゆる精度管理を行うことが常識となった今日ではあるが、このことは臨床検査の成績管理の中の分析管理のしかもその一部であって、成績管理のすべてではないということを認識しなければならない。
 わが国の精度管理のあゆみは、1960年代になってX-R管理図法が、はじめて実際的に活用されるようになり、管理無縁時代に終わりを告げ、それからは逆に精度管理は一種のブームとなり、Cusum Method(累和法)、Twin Plot Method(双値法)、C. V. Method(変動係数法),Repeat Analysis Method(反復測定法)、Average of Normals Method(正常値の平均値法)、Number Plus Method(正常の平均値以上の値を示す件数の割合法)、その他X-Rs-R管理図法などが次々と考案され、日常検査の中で常識化されてきた。そして単一(単能)管理法から組合せ管理法ヘ、単変量管理から多変量管理へ、また、用手法から自動化法へと移行し、事後的、後迫い的管理方式から即時的、即応的分析管理方式へと脱皮してきた。
 この背景には用手法では手の届かなかった膨大なデータ処理および情報処理能力をもつコンピュータが有効に活用できるようになったからである。日常臨床検査に用いられているほとんどの大型、中型分析装置類には、コンピュータが内蔵され、検査データ処理、チェック、調整、警報、変動表示をはじめ、報告書作成および各種精度管理ができるようになっている。一方、性能のよい、超小型、軽量化されたパーソナル・コンピュータ(パソコン)を、分析機器とオンラインあるいはオフラインで連携させて、各種データ処理およぴ情報処理(精度管理.総合判定,評価,計量的診断解析など)を実行させるプログラムも開発され、実用化されている。
 臨床検査のTQCはBedsideからはじまり、Bedsideに終わる過程のすべてを通じた総合的な精度管理体系が確立してはじめて完成するといわれるが、従来からの用手法主体の,管理方式では、人手と時間を要し、しかも各種管理情報を系統立てて把握するには,多くの困難をともなった。
 しかし、情報科学のめざましい進歩とともに、臨床検査の精度管理の領域においてもコンピュータを利用した刷新的な方式が開発され、実用化されるに至り、その機能と用途は著しく拡充してきた。一方、実務的には精度管理業務の膨張、複雑化、さらに検査業務の停滞をおそれて管理データの「異常シグナル」の多発、「異常」の日常化に対する不感性あるいは無視も否め ない。長所を生かし、管理機能を取捨選択しながら日常検査の中で実用を重ね、自施設に適した管理法を導入し活用すべきであろう。
 精度管理法のみが一人歩きして、精度管理法の精度管理が必要ということになっては、真の臨床検査の精度管理は望めない。
 国際試薬(株)およぴ日本電気(株)が開発した合理的な精度管理システムと検査データ・システムであるMCP(Micro Computer Program)は、TQCを目指すTQA(Total Quality Assuarance)のプログラムで、1)精度管理プログラムと2)正常値計算プログラムと3各種統計処理プログラムから成っている。このうちの精度管理プログラムを用いての、すなわちマイクロ・コンピュータ・プログラムによる臨床検査の精度管理は原理、手法の異なる6種類の、精度管理法、すなわちX-R管理,Accuracy Trend Analysis, Precision-Trend Analysis, Decision Limit Cusum, Over Check-ChartおよびYouden Plot 管理法を組合わせ、それぞれの短所を補って、特性の相乗効果を挙げ、総合的、多角的精度管理を行い、即時的、短期的さらに長期的管理も容易にし、省力化をはかるとともに精度管理の精度の向上を可能にした。

MCPによる精度管理システムの概要
 A.機器構成
 16ビットCPUと大容量メモリをもつ高性能のNEC PC9800シリーズ,すなわちCPU本体,キーポード,カラー・ディスプレイ,ミニフロッピー・ディスク・ユニットおよびプリンターで構成されている。
 B.MCPの業務内容
 MCPによる精度管理システムでは、大別して3つの業務が行われる。すなわち、1)検査項目名,測定方法,機種,単位,温度,試薬メーカーなどを登録,修正,削除する機能を用いて精度マスターを作成する。2)データ入力機能入カデータ修正,削除機能,データリスト作成機能を選択し、精度管理データ入カ処理を行なう。3)6種類の精度管理(X−R/SD,Youden Plot,Accuracy Trend,Precision Trend,Decision Limit Cusum,SD Over CheckおよびQAP)に関する業務が行われる。
 C.MCPによる精度管理のしくみ
 MCPによる精度管理方式はWestgardの判定基準およびDecision Limit Cusum,CembrowskyのAccuracy Trend Analysis(正確性傾向分析)およぴPrecision Trend Analysis (精密性傾向分析),さらにYouden- Plot(双植法)臼井変法の原理、手法を組合わせ、総合的に精度管理情報を時系列表記あるいは多変量表記により把握しやすく図形表示するよう考案されたものである。
 ここでは臨床検査の精度管理業務にコンピュータを応用したMCPをもとにして、新しい医療情報のメディアとしての医療用光カードの適用のあり方、考え方、実用化の可能性について思案し、さらに現在、多く日常実施されている内部精度管理、外部精度管理への適応についても考察したい。


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