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第2回日本医療用光カード研究会論文集、15-16、1991年

[シンポジウム1]

一般診療における光カードの運用と汎用への問題点

今野 工
清水町国保御影診療所

1.光カードへの入力を始めた動機

 最近の医療の進歩によって、医療が細分化され、また患者さんの専門医指向、大病院指向が強くなる傾向があります。
 多数科の受診、それも掛かり付けの医師の紹介なしに自分で勝手に選んで、他科を受診するような場合ですと数日の間に同じような検査や同種の薬を重複して投薬を受けることがあります。
 検査が全く無害なものであっても、患者さんの経済的な損失、或いは保険財政への損失などは膨大なものがありましょう。
 また近年の長寿社会になって目立つのは、高血圧とか糖尿病とかの慢性疾患の増加でございますが、こうした慢性疾患は食事服薬運動など、系時的な永い管理を行わなければなりませんし、患者さん本人にも十分説明し、自分の病気の状態を良く理解し把握して健康の維持に自ら努力して戴かなければならない、などのことがございます。
 いま流行の言葉で言えばインフォームドコンセント(Informed Consent)と申しますか、そした例が多くございます。
 また地域医療と申しまして私共のように診療所形態で専門領域を持たない医師にとりましては、疾病を診ると言うより地域のなかの患者、或はその家族の健康、或は地域全体の健康、など様々な配慮をしなければなりませんし、病院診療所間の連携も大事になります。
 その他カルテの保管とか色々のことがございますが、私共が光カードへの入力を考えたのは、医療機関の立場からというより、むしろ患者サイドに立って精神的経済的な負担を少なくして、而も患者の状態を時系列的に把握できる、合理的なカルテの在り方、保存を含む医療への方法がないものか、ということに在ります。
 要するに、何とか薬の重複投薬を防ぐよい方法がないか、長期間にわたる疾病の経過を見ての指導に便利で理解しやすく、奇麗で迅速で確実な他医療機関への情報提供、簡易なカルテの保管、などの考えから光カードへの取り組みを始めたのでございます。
 私は光カードの理論的なことや機械的なこと技術的なことにつきましては全く無知でございますので、光カードに日常の診療の事実を入力し実際に運用してみて、光カードを医療カードとして用いる場合の運用上の問題点についてのみ申し上げます。

2.カードについて

光カードは名刺サイズの大きさに2.8メガバイトにおよぶ記憶容量と言われますから、幾らミクロン単位の微細な穴をあけるとしても、記録層の幅が広くなり記録層側に文字を記入することは出来ません。
また裏面もカード取り扱いの注意事項、発行者の住所電話番号などを印刷致しますと文字を記入する幅は、せいぜい1行か2行になってしまいます、また光カードが記録層の傷などにより、読み取り不能となりますからICカードのように表面にエンボスしたり顔写真を貼りつけたりすることは困難であります。
従ってカードそのものを保険証として使えれば非常に便利且つ経済的であろうと思いますが、現時点では難しいと考えております。

3.運用上の問題点

 A.カード記入の問題
 カードのメリットを生かすためには、カードを患者さんに常時持って貰うことが必要且つ最善と考えますが、忘れて来たときにどうするか、無くしたときにどうするかの問題があります。
 また検査成績など即時に判明しないものを何時何処で誰が入力するのかの問題がございます。 単一の医療機関なり保健機関なりで利用する場合には問題が起きないのですが、若し汎用を考えるならば考えておかなければならないと存じます。

 B.入力読み取りに要する時間の問題
 診療に多忙な医師が診療の間にカルテと光カードの両方に記入することは、余程ワープロに練達の医師で入力に熱意のあるかたであっても、時間的に困難であろうと思います、また診療終了後に入力しようと考えますと、一人3分としても30人で90分、50人で150分ですから、毎日1時間から2時間の時間外の仕事を強いられます。
 これでは興味のある2日か3日はやってみるかも知れませんが長続きはしないと思います。また日常の診療の入力は、毎日のことであり、且つ受診者の数を予測できません。従って健康診断或は各種検診のように、マンパワーを結集して短時日に終了させることが出来ないという問題があります。
 私共の診療所では事務器としてレセプト・コンピューターを使用致しておりますが、これは毎日毎日の診療の事実、即ち社会保険、国民健康保険などの基金への毎月の診療報酬請求明細書に書かれる総ての事実、病名から始まりまして、初診再診注射投薬検査処置手術と金銭的なものは全部入力しなければなりませんが、この操作は事務員が窓口で行っております、これと光カードのリーダーライターを結ぶことによりまして、入力に際して医師の労力の節減、時間的節約を計りました。
 医師が直接入力しなければならないものは、症状、診察所見、手術所見その他のコメントなどごく限られたものに致しました、こうすることによりましてどのくらい医師の時間的な労力の節減になるかと申しますと、まず医師の所でリーダーライターに挿入する必要のあるカードが3分の1以下になります、なぜかと申しますと病態に変化なく、薬だけを取りに来たとか傷のガーゼ交換に来たとか、事務室で診療の事実のみの記載だけでコメント事項の無いものが多いことがあるからでございます。
 医師の読み込みに要する時問は、診察の始る前にパソコンを立ち上げておきますと、現在使用している機械でカードをリーダーライターに挿入して読み込みに要する時間は全部のデーターを読み込む場合はデーター量の少ないもので30秒、データーの多いもので2分から3分を要します。
 読み込みについては必要部分のみの読み取りとすることも可能ですし、読み取りエラーの発生がなければ、さして大きなも問題とはならないと考えられますが運用の上から機械的にも技術的にも改良の必要があると考えられるのは書き込みでございます。
 複雑なコメントや画像を何種類も入れようとしますと10分も要することがあります、勿論これは入力するデーターの量、キーボードを叩く速度、操作の巧拙、或はメニュー面面の配置や各種のコードナンバーが容易に利用できるように組み込まれているか、などが関係してしてまいりますが、機器の改良とか更にソフトの構築で読み取り書き込みとも、現在より更に迅速に出来るようになることを、技術者の方々に望みたいと思いますし、また近い将来に良い形で解決されるであろうと信じております。

 C.記載事項統一の問題 機器の互換性の問題
 カルテの収録を行うと考えた場合、単一の医療機関のみでの使用であれば、極端に言えばその機関独自の方法でもコードでも良いし個人保管でも医療機関の保管でも良いと考えられますが、複数の医療機関での使用となりますと、各医療機関の合意を得られる統一されたコードナンバーが必要となって参ります。
 また記載事項の統一のみでなく機器データーの互換性統一フォーマットなどの問題がでて参ります。

 D.統一コードの問題
 基本情報に関するコードは作成する法則さえ理解できればさほど困難ではないと思います。
 例えば国名は国際電話コードにします、都道府県市町村は国のコードを使用します、生年月日は年は西暦の下二桁、月は算用数字で、順番に911115といれます、男はlです女は2です、と定めればさほど問題にはならならないと考えます。しいて言えばレセプトは日本語で日本暦(明治大正昭和平成)を使用することと定められておりますから、レセプトコンピューターからの自動入力を考えた場合はこの変換を考慮する必要があります。
 医療情報のなかで主要な位置を占める病名や検査についてのコード化には複雑な問題がございます。
傷病名コード
 世界保健機構(World Health Organization)が定めた国際疾病分類(International Classification of Diseases)があります、これは世界共通の分類となっておりますが、補助分類を含まないで5,023項目もございます。この分類でも実際の臨床的な病名とはかなりかけ離れたものがございまして、例えば「かぜ」ですと、「かぜ」は460番「急性鼻咽頭炎」分類されておりますが、鼻水を主とするもの、咽頭痛を主とするもの、咳を伴うもの、いろいろございましてそれに応じまして薬などの投与も変わってまいります、それを一括して「急性鼻咽頭炎」としてよいものかどうかの問題がございます。
 更により以上困難な問題は検査値の問題でございます。血液の検査値は私共のカードの利用方法ですと、グラフ表示して慢性疾患患者の指導などに主要な位置を占めるのですが、検査方法により検査値や基準値が異なったりしますので、こうした検査方法の異なったものをグラフ表示致しますと、全く無意味なものになる恐れがごさいます。

 4.おわりに

 医療用光カードは単一な医療機関での使用につきましては、面倒なことという既成概念を除ければ、現状でも有効に使用できますが、機器データーの互換性統一フォーマットなどの問題の解決がなされ、21世紀の新しい医療、健康管理の形態として汎用が期待されます。

文 献

1)疾病傷害および死因統計分類概要 昭和54年版 厚生省大臣官房統計情報部編 厚生統計協会
2)病歴管理 高橋政祺 高橋淑郎 日本医療教育財団 1987年版
3)臨床検査標準値ハンドブック 山中学 大場康寛 河合忠 北村元仕 編集
4)椎名晋一、西堀眞弘、松戸隆之:患者情報の光カードでの利用:臨床病理・特集第84号


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