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第2回日本医療用光カード研究会論文集、19-22、1991年

[シンポジウム4]

医療における光カードの適用
一放射線診療領域一

古賀佑彦、高橋正樹
藤田保健衛生大学医学部放射線科

1.光カードを何の目的で使うのか
 光カードを放射線診療領域でどのように使うのかを考える前に、何の目的で使うのかをまず考えてみたい。光カードは一枚の小さなカードに非常に多くの情報を記憶できる。カードであるから個人が持ち歩けるし、一定の場所に保管するとしても、通常のカルテや写真の現物保管に比べてスペースは著しく小さくて済む。このような光カードは、一つはカルテなどの病歴の管理と保存の代わりに使うことができるかもしれない。また、患者さん個人が携帯していれば、万一の病気や事故のときに、どのような医療機関でもその患者さんの過去の病歴情報を見ることができるので治療に非常に有利であろう。あるいは、もっと限定された領域で使うことを考えるべきかもしれない。
 このように光カードはその形態と機能からみて、医療においては患者さん自身が常に持ち歩く場合と、一定のかかりつけの病院で保管しておく、あるいは健保組合のような第三の組織が保管して必要に応じて貸し出すということが予想される。このどれを取るかは法律的な問題や機密保持の問題も絡んでくるので今一概には言えないかもしれない。しかしどのような管理形態を取ろうとも、一枚の光カードは一人の患者さんに使用されると言うことは変わらないであろう。

2.放射線診療では何が必要か
 私に与えられたテーマは、放射線診療領域において光カードで何ができるかということである。多くの情報をストアできる、そして任意にそれを呼び出したり検索できるという特長がどのように役立つのであろうか。最初に考えたいのは、われわれが何を望んでいるかということである。
 第一に考えられるのはPACSとかPHDというような画像データの保存と管理に使えないか。第ニは、単に画像情報だけでなくその個人の病歴や他の検査成績、診断情報、これにはX線診断目的の分類法であるIRDと病理学的診断、病期分類なども含まれる。第三は、放射線管理に役立てることができないかということである。
 そこで、そのような観点から考察を進めてみよう。

3.画像情報の保管と管理に使えるか
 画像情報にもいろいろなレベルがありうる。身体的な特徴や皮膚の反応をカラー写真に収めたもの、内視鏡写真、病理写真のような画像から放射線画像まで様々である。ここでは放射線画像に限定する。放射線画像も、核医学診断(シンチグラム等)と通常のフィルムを使用したX線写真、それに一種のX線画像ではあっても初めからディジタル画像として供給されるCRやCTがある。それに、電離放射線は使わないけれども画像診断の領域に大きく寄与している超音波画像やMRI、サーモグラフィなども入ってくる。さらに最近では三次元に再構成された画像が外科的な手術の計画に非常に役立つとして利用され始めているし、今までのような静止画像だけでなく、われわれがkinematic radiologyとして提唱しているような臓器の動きをとらえて観察する、あるいは三次元画像の観察のように常に画像を回転させながら観察すると言った見方も行われるようになっている。
 これだけの情報の保管と観察を一つの媒体ですべて行おうと言うのには無理があると考えられる。また画像の保管や観察にはより精密な解像力が要求されるので、X線フィルムから光カードに保管する場合にも、たとえば少なくとも2,000×2,000のマトリックスが要求されるように、カードの記憶容量の限界を直ぐ超えてしまう恐れがある。CRやCT、MRIなどの画像の情報量も膨大なものであり、しかも一人当たりに撮像される枚数が多くなってくるので、たとえカードの容量が相当増大しても迫い付かぬ。一人が沢山のカードを持たねばならなくなる。
 この問題は、全部を保管するのではなく、選ばれたキーとなる画像だけをストアすれば若干の解決にはなるかもしれないがそれの実行は決して容易ではなく、実用にはなりにくいであろう。

4.病歴や検査・診断情報の管理に使えるか
 この分野は光カードのもっとも得意とする領域であろう。画像情報に比べればデータ量は非常に少なくて済むので記憶容量の点では問題は起こらない。とくに放射線診療の立場からは、あとでいろいろな情報の検索ができるような形で入力されることが必至の条件であると考える。検索も、あくまで患者さん個人の役に立つと割り切ればよいが、検索したいということは、その検索情報を研究や教育に結び付けたいという希望に端を発している。カードが患者さん個人ベースで存在することと、この要求は必ずしも一致しない恐れがある。したがって、実用段階では、どちらを優先するのか、両者を満足させるようなシステムにするのかを考えなければならない。

5.放射線管理に役立てることができないか
 放射線管理は人を放射線の有害な影響から守るために機能している。守る対象の人は第一に患者さんであるが、放射線診療従事者としての職員も守られなければならない。患者さんも、医療機関を訪れる病人と、定期健康診断を受ける人、検診センターなどで検査を受ける人、医学研究目的のボランチアなど様々のケースがありうる。

a)通常の患者さんの場合
 医療被爆は人工線源からの被爆の中では最大であり、しかもその大半はX線診断によるものである。年間に平均すると日本人は1回以上X線検査を受け、自然放射線とほぼ等しいレベルの被爆がある。もちろん人によって大きなばらつきが存在する。診断による被爆レベルは、いわゆる決定論的(非確率的)な影響のしきい値よりも、ごく特殊な場合を除いてずっと低い。考慮すべきものは確率論的な影響である。個々の診断検査例に当てはめて考えると、確率論的な影響のリスクは非常に小さく、日常の生活内に発生しうるリスクと比べてもほとんど問題にしなくてよいであろう。しかし、中には検査頻度の非常に高い場合も存在する。いずれにせよ、われわれにとって重要な課題は、いかに合理的に診断による被爆を低減するかということになる。そのためには、まず問題意識を各人が持つことが必要であると考えている。
 それには、毎回の検査ごとに検査部位と撮影条件、撮影件数の記録をとることである。これらから被爆線量(少なくとも入射面の皮膚線量)の推定は可能になる。場合によっては実効線量に換算することも不可能ではない。医師に必要なのは3で記載した診断情報であるが、被爆線量の記録が患者カードを使用する度に現れることは、検査の正当性に関する臨床判断をする際に大いに参考になるであろう。
 医療被爆が放射線管理目的に記録されるべきかどうかという点はこれから大いに議論されなければならない。医療被爆を国民全体で全部記録しようという企てにはまだまだ解決しなければならないことが沢山あるので、一つの可能性としての議論にとどまるかもしれない。この問題とは別に、放射線業務従事者は、従事者としての被爆よりも、その人の医療被爆の方が大きいという事態も起こりうることも認識する必要があろう。

b)定期健康診断
 これは労働安全衛生法などで定められている。光カードの実用面では最も近いところに位置するかもしれない。とくに前項でも指摘したような放射線業務従事者の場合には、定期健康診断の記録とともに放射線検査のデータも記録する。この場合、当然ながら職業被爆の記録も含まれる。光カードの実用化を考えるとき、とくに、放射線業務従事者に限って一般の疾病を疑った定期以外の検査を記録するというところから手掛けるのがいいかもしれない。

6.まとめ
 現段階の光カードの能力は今後飛躍的に向上するかもしれない。しかし、ある一人の患者さんの画像情報をそのまますべて記録することは、記憶容量と情報量の比較の点で、相当数の部分では将来も困難と思われる。また、カードをどのような目的で利用しようとしているのかという議論も必要である。実用性を考えると、放射線診療領域においては診断情報とその検索機能の付加、それに場合によってはキーフィルム的な画像の記録、それに撮影条件等の記録による被爆への認識をさせることであろう。さらに具体的には、放射線業務従事者の健康診断の記録に医療被爆の記録も加えて実用化を計ることを提案したい。


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