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第2回日本医療用光カード研究会論文集、25-26、1991年

[シンポジウム5]

健診領域における光カードの適用

日野原茂雄
東海大学医学部 健康開発学教室

1.はじめに
 検診には人間ドック、自動化総合検診、健康診査、職域健診その他今日では成人を対象としても各種のものがある。これら健診成績の蓄積は健康歴であり、今日は光カードなどによる健康歴の活用が強く望まれる時代と考えられる。我々の光カードシステムは、京都大学病院医療情報部の高橋 隆教授と東海大学医学部およびソニー株式会社との共同開発で開始され1)、これに伊勢原市役所および秦野伊勢原医師会、東海大学保健管理センターなどが協力して研究が進められている。

2.システムの概要
 このシステムの特徴は「成人病の予防」を全面に出していることである。すなわち、健診データを入力したカードを活用し一次予防、二次予防および三次予防を効率よく実現していけるシステムを目指している。云うまでもなく、一次予防は病気を未然に予防すること。二次予防は病気を早期に発見して進行を抑える予防。三次予防はリハビリテーションを巧みに進め再発を予防することである。最終的な目標は地域住民の誕生より死に至るまでの生涯にわたる予防、および保健を推進してゆく事であり,このためのネットワークを、光カードを導入して構築しようという構想である2)
 実験は東海大学病院に健診センターが中心となっているが、光カードを発行する対象者は、健診センターで自動化総合健診(人間ドック)を受診した東海大学湘南校舎の教職員としている。カードの発行枚数は現在の処は約300枚となっている。光カードのリーダー/ライターは1987年12月以降湘南校舎の保健管理センターに1台を設置している。その光カードリーダー/ライターにはNECのパソコンPC9801UV2が接続してある。なお、東海大字湘南校舎の位置は東海大学病院から車で約30分ほどの距離にある。
 光カードの表面には東海大学病院の健康管理カードと印刷し、所有者の氏名をサインペンなどで記入できるようにしている。その裏面が512KBの記憶容量をもったカルコゲナイド系の光カード本体となっている。
 光カードのデータ入力フォーマットはブロック単位に行い、総合健診(人間ドック)データは上から3ストライプを用い、各ストライプが15ブロック(1ブロック:4KB)であるから、合計して45ブロックで、1ブロックに総合健診受診1回分を入力するので、3ストライプで合計45回分となる。例えば40歳より毎年人間ドックを受診しても85歳まで記録できることになる。その下の残り4ストライプの各100ブロック(1ブロック:512B)の合計400ブロックには保健管理センターでの定期健康診断あるいは日頃の健康相談受診の情報を入力する。
 光カードへのデータ書き込みは、カードの保持者が健診センターの自動化総合健診を受診した際は、追加すべき新しい健診データを健診センターのコンピュータから3.5インチフロッピーに差し込み、そのフロッピーを保健管理センターあるいは診療所に送付し、そのフロッピーからリーダー/ライターへ接続して直接に追加記録(追記)してもらうようにした。その他の少量のデータはリーダー/ライターに接続したパソコンのキーボードを叩いて随時書き込みを行ってもらう。

3.光カードの内容
 光カードの内容は先にも述べたように、1回分のデータ量の多い健診センターにおける総合健診の結果、さらに1回分のデータ量の少ない保健管理センターにおける定期健康診断の成績および日頃の健康相談の受診回数などとしている。ICカードあるいは光カードなどを医療に応用しようと試みている諸家の報告では4),5),6)患者カルテの内容のカード化による治療を重視した使用法を目指しているものが多いが、我々は各種健診の蓄積である健康歴を入力したカードの携帯による予防の推進を目指している。
 治療医学はカードが無くともうまくいっている分野であるが、成人病の予防はケアレスミスが多く、効率的でないのが現実であろう。これに対して、健康歴の携帯による健康管理は健康教育あるいは予防の啓蒙にも効果があり、大きいメリットが生まれるものと思われる。恐らく、人々がこのようなカードを携帯するようになれば成人病の予防は飛躍的に向上するであろう。
 光カードの内容は、現在のところ、総合健診(人間ドック)の成績を主としているが、出来るだけ数の羅列を廃し、図およぴ表、パターンなどで表現し簡略化するように工夫している。色もできるだけカラフルに見易く、素人が関心を抱き易いものであることを目指している7),8),9)。系時的な健康歴の経過が容易に見直せることは特に重要であろう。これによって本人はどの程度成人病になり易いかといった自己評価(リスクアセスメント)が可能となり、カードの携帯者はその内容を定期的に見ることにより常時軌道修正が可能である。これが習慣となれば一次予防も万全となり、二次あるいは三次予防もこれに準じて効率よく実践されるようになる筈である。

4.導入の経緯
 1986年3月に東海大学医学部ME学教室およぴ東海大学病院健診センターを中心として「光カード研究会」が発足した。この時点では株式会社のソニーとともにテルモからも共同研究者が参加していた。
 第1フェーズでは自動化総合健診のデータを分割してパソコンの画面に表示する簡単なものを作成した。すなわち人間ドックデータの受診1回分あるいは3回分がコンピュータ端末で見られるようにした。実際に初めて光カードリーダー/ライターが健診センターに設置されたのは1986年12月であった。翌1987年3月には健診センターと健診の契約を結んでいる2つの団体にモニターをお願いして、各々の診療所に光カードのリーダーを設置させて頂いた。この時点では合計350枚の光カードを発行したが、個人個人に携帯させることは避け、総て診療所に置いて健診受診者の来所を待機することとしたが、医療従事者側が光カードと装置に馴れる程度の効果に留まった。この第1フェーズで光カードへ書き込む内容および方法、画面表示法などを検討した。
 第2フェーズは1987年6月にスタートしたが、この第2フェーズではセキュリティ対策、およびデータのグラフ化、パターン化を追加し、さらにモニターには必要なデータを書き込みもできるように、これまでの光カードリーダーを光カードリーダー/ライターに変更した。なお、第2フェーズは東海大学保健管理センターと協力し、モニターは東海大学湘南校舎の教職員にお願いすることにした。

5.カード化のメリット・デメリット
 リーダーあるいはリーダー/ライターが世間に広く普及した時点とそうでない時点では、この問題を論じる内容は大きく異なるであろう。当然ながら、人々がこのカードを携帯してくれなくてはカードのメリットは生まれ難い。カードを携帯してもらうためには、使用頻度が高く、しかも役立つものでなければならない。このためには健康管理カードに別のなんらかの付加価値を抱き合わせることが必要なのかも知れない。
 過去に診療所、および保健管理センターにリーダー/ライターセットを設置したが2),3)、メリットとしては、先ず人間ドックの成績の内容が、職場に帰ってからも、図やパターンを用いて保健婦から充分に納得出来るように説明が聞けるようになったことが挙げられた。人間ドック受診の時に聞き漏らした本人のデータの重要な部分が再度明らかにしうるばかりか、予防に対する親身な指導が受けられるようになった。特に系時的な経過を表すカラフルなグラフを使用した指導は好評であった。各種の健診データがこのように活用されるならば、健診の有用性は飛躍的に向上するものと考えられる。
 カード化のデメリットは今のところは明らかになっていない。しかし、予期しなかった出来事としてはカードの携帯者の幾人かが、カードを貴重品としてタンスの奥にしまい込んだということがあった。携帯には使用頻度の高いことが必要であることを思い知らされた。

6.おわりに
 主に人間ドックデータを光カードに記録して健康管理を進め、成人病の予防を支援するシステムを構築した。今日では各種の健診が普及し、かつ定期的に受診する習慣が定着しつつある。したがってこれらデータの保管と活用に対する早急な対応が必要である。最終的には母子手帳に始まり、老境に至る一生涯の健康歴を光カードに納めて個人個人が携帯し、効果の大きい若年時代からの病気の予防を推進するシステムを地域住民を対象に実施すべきである。効率的な予防には健康歴の活用が最善の策であろうと考える。

文献

  1. 高橋隆、中村正彦、日野原茂雄、松本昭、高橋為生、日下部正宏:光カードを用いた健康管理システム、第6回医療情報学連合大会論文集:511‐512,1986.
  2. Shigeo Hinohara,Tameo Takahashi,Chiyo Hirano,Fumie Tomita,Masahiko Nakamura,Hiroshi 0yamada,Masahiro Kasukabe and Takashi Takahashi : Medica1 application of IC card & optical card,Towards New Hospital Information Systems,Elsevier Science Publisher B.V., North Holland 197-201p,1988.
  3. 高橋為生、日野原茂雄、長沢享、中村正彦、松本昭、大櫛陽一、中野昭一、富田冨果枝、高橋隆、金子雄、永野勇二、小山田浩、石井保、日下部正宏:自動化健診における光カードシステムの実際、第8回医療情報学連合大会論文集:899-902,1988.
  4. 民間活力を活用した保鍵医療システムなど関する研究会:ICカード等による保健医療システムの研究報告書、社会保険福祉協会、1988.
  5. 椎名晋一、西堀真弘、松戸降之、可知賢次郎:光カードを用いた医療情報管理システム、第7回医療情報学連合大会論文集:597-600,1987.
  6. 千喜良真人、国府田洋一他:光カード利用研究会北米視察報告書、光カード利用研究会,1988.
  7. 日野原茂雄、高橋為生、上村等:自動化総合健診における面接支援システムの開発に関する研究、協栄生命研究助成論文集第4巻:93-101,1988.
  8. 日野原茂雄、田村かおり、滝脇収二、高橋明子、高橋為生、清水裕史、丹羽正治:虚血性心疾患の一次予防に対する健診受診習慣の有用性に関する検討、日本総合健診医学会誌、13(4):359‐364,1986.
  9. 高橋為生、滝脇収二、上村等、日野原茂雄、清水裕史、宮本元昭、伊藤機一、丹羽正治:地域保健のために有用と考えられるSDI表示法の検討、日本プライマリケア学会誌、10(4):261-263,1987.


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