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第2回日本医療用光カード研究会論文集、31-32、1991年

[一般演題3]

光カードを用いた心拍数情報の記録

○藤本康之,柳原敏宏,原量宏,神保利春
香川医科大学母子科学教室

はじめに

 分娩監視装置の普及は,胎児低酸素状態の早期発見を可能とし,周産期死亡率の低下はもちろん,新生児の後障害の大幅減少に貢献している。分娩監視装置は胎児心拍数と子宮収縮を連続的に検出記録する装置である。分娩監視装置が普及し始めた当初は,リスクの高い妊婦の分娩時を中心に使われていたが,その優れた臨床効果により急激に使用範囲は拡大し,現在はすべての分娩に利用されるのみならず,妊婦外来においてもNSTとしてスクリーニング的に利用されるようになっている。1)このように利用価値の高い分娩監視装置であるが,その利用範囲が拡大するにしたがって,記録用紙の整理と保存が大きな問題となっている。診療録の法的保存義務期間は5年とされているが,その期間のみに限って心拍数の記録用紙を保存した場合においても,記録用紙は厖大となり保存スペースからあふれている施設が少なくない。さらに最近は医事紛争の問題から,記録用紙を永久保存すべきであるとの意見が出ており,心拍情報の記録は技術的な面からのみならず,医療の現場においても重要な課題となっている。従来よりコンピューターにより心拍情報を処理し,磁気テープや磁気ディスク,さらにICカードなどに記録保存する試みがなされているが,書き替え可能な点や,記録の永続性に問題が残されていた。光カードはこれらの目的には最もは適した記録媒体であり,その導入に大きな期待がもたれているが,データ書込みの形式など検討すべき問題も多い。今回我々は分娩管埋システムにおける,コンピューターによる胎児心拍数の処理技術を光カードに応用し,光カードに心拍数と子宮収縮の情報を直接記録するシステムを試作し,産婦人科臨床に非常に有用であることを碓認した。

1.コンピューターによる胎児心拍数の連続処理

 最近複数の分娩監視装置をコンピューターを用いて管理する,いわゆる分娩管理システムが急速に普及している。本システムは胎児心抽数と子宮収縮の情報をコンピューターで連続処理し,その演算結果をグラフィック表示したり,磁気テープや磁気ディスクに記録する機能を持っている。したがって本システムに光カードリーダー/ライターを組み込むことにより,心拍と子宮収縮の情報を記録することは容易であるが,分娩監視装置単体から記録用紙に記録するように,光カードに直接書き込むこととは意味合いがことなってくる。今回我々は分娩監視装置に光カードリーダー/ライターを組み込み,光カードに直接情報を書き込むシステムの開発を試みたが,両方式の間での整合性にも十分考慮しなくてはならない。胎児心拍数と子宮収縮は連続して発生する情報であるため,我々のシステムでは心拍に関しては1秒間に4回,子宮収縮に関しては1秒間1回の割合でA/D変換するようになっている。したがって1秒間に計5個,1分間に計300個のデータが得られることになる。コンピューター内部ではこれら一連の数値を連続的に演算し,その結果を数値や画像の情報として画面に表示する。記録に関しても種々の方式が考えられるが,我々のシステムでは20分のデータ(6000バイト)をまとめて,磁気ディスク上の6Kバイト(6144バイト)のエリアに記録する方式をとっている。残りの144バイトには収録日時,時間などに利用する。20分としているのは,妊婦外来におけるNSTの記録形式,および在宅妊婦管理システムで用いるICカード上の記録形式と整合性を考慮しているためである。2)3)

2.分娩情報の光カード書き込みシステムの構成

 今回試作した光カードによる心拍数と子宮収縮記録システムは,分娩監視装置と光カードリーダー/ライター(オリンパス光学工業)から構成される(図1)。

図1

 コンピューターシステムでは20分間を1単位として6Kバイトごとに記録しているが,この方式では心拍数が光カードに書き込まれるまでのタイムラグが長く,臨床では使いにくいことになる。そのため光カードヘデータの書込み単位を出来る限り短くする必要があるが,逆にデータの読み出しに際しては,従来のコンピューターシステムを利用できることが不可欠であり,記録方式の整合性が最も重要となる。そこで心拍数と子宮収縮の情報を光カードへ記録する際,1〜9回目までの書込みは640バイト(128秒)ごととし,10回目においてはデータ数のカウンターが6000になった時点(20分)で終了し,残りの144バイトに日付,時間,処置内容などを記録する方式とした(図2)。11回目以降は同様の書込みを繰り返すことになる。このようにするとタイムラグは128秒とかなり短縮され,しかも読み出しに関しては従来のソフトウェアーがそのまま利用できることになる。

図2

3.今後の展望と問題点

 今回,分娩監視装置から胎児心拍数と子宮収縮に関する情報を光カードに直接記録するシステムを試作検討した。その結果,光カードヘの記録は確実に行われ,誤動作も生じないことが確認された。また従来のコンピューターシステムによる心拍数と子宮収縮の記録方式とも整合性は保たれ,臨床的にも非常に有用であることが確認できた。今後の課題としては,当初は外付のタイプでもよいが,すべての分娩監視装置に接統可能な光カードシステムを開発すること,次の段階としては光カード内蔵型の分娩監視装置を開発する必要がある。そのためには分娩監視装置の出力をデジタルにしておく必要があろう。ソフトウェアー的には,他の光カード(妊婦健診のデータなど)との組み合せや,そのためのアプリケーションの拡大などを考慮する必要がある。現在大型コンピューターを用いた,いわゆる電子カルテや,光磁気ディスクによるカルテ管理が話題になっているが,実現は容易ではない。それに対し,光カードによる妊婦健診データの管理や,心拍数データの記録および保存は,産婦人科医にとって切実な課題であり,ハードとソフトが充実した場合には,急激に普及する可能性をもっている。
(本研究の一部は文部省科学研究費No. 63570783およびNo. 03557071による)

文 献

1)原量宏,神保利春 周産期管埋における医療用光カードの応用 第一回日本医療用光カード研究会論文集 29-30
2)原量宏 オンライン在宅ハイリスク妊娠管理,日本ME学会雑誌 4(10):37,1990
3)原量宏 コンピューター,助産婦雑誌,5 45(6):583-591,1991


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