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第2回日本医療用光カード研究会論文集、33-34、1991年

[一般演題4]

東京医科歯科大学保健管理センターにおける
健康管理データの光カードによる管理について

○谷合 哲 東京医科歯科大学保健管理センター
椎名晋一、西堀眞弘 同臨床検査医学

はじめに

 本学の保健管理センターでは、学生および職員について、健康管理にかかわる多数の情報を保有している。すなわち、個人の属性である性別、生年月日、所属学部、専攻、学年など。職員についてはさらに職場、職務、特殊業務の勤務とその移動などがある。健康にかかわる情報としては、毎年春に行われる定期健康診断の結果、異常の有無、異常の場合の処理とその結果。成人病検診としての心電図、胃レントゲン検査、血液検査などがある。さらに放射線取扱業務に従事するものの特別検診、病原体に汚染するおそれのある業務に従事するものの特殊検診、組換DNA実験実施者の特別検診など、種々の健康診断が行われている。職種や業務によってはこれらの業務が重複していることもあり、また種々の検診をくりかえして受検している場合もあり、多数の検診情報が蓄積されている。これらの検診の結果はその都度本人に報告されているが、それぞれ報告様式がばらばらで、不定期に報告されるため、各個人が系統的にきちんと整理して保存することは容易でなく、多くのデータが散逸しているのが実状ではないかと思われる。
 これらの個人の健康情報が永続的に保存され、必要に応じて随時参照されるようになっていれば、長い一生の間の健康管理に大いに参考になるものと思われる。さらに疾患に罹患した時にも、病歴に加えてこれらのデータの推移は疾病の診断、病状の判定にきわめて有用と思われる。
 共同研究者の椎名らはすでに本学臨床検査医学教室において、光カードの医療における有用性と、実用化のための研究を行ってきたが1)2)、今回は光カードに医療情報や健康情報を書き込むプログラムを作成したので、本学の学生、職員のうちとくに諸種の特殊業務に従事し、定期的に多数のデータが蓄積されるものについて、光カードにそれら多数のデータを記録させ、個人情報のデータベースとして将来有効に利用しうるように試みたのでここに報告する。

1.研究の背景

 椎名らはすでに診療における患者データを、光カードに記憶させて、過去の病歴の推移を膨大なカルテその他の資料を持ち出すことなく、光カードから容易に検索し診療に役立てるための、フォーマットやプログラムを作成し臨床に利用することに成功している。特に糖尿病や高血圧の管理に利用しその有用性が認められている。学生や職場の健康情報の管理もこれと類似のフォーマットにより実用化し得る段階に来ていると考えられ3)、健康情報データベースとして実用化するよう研究した。

2.システムの概要

 2−1.光カード
 光カードは大日本印刷社製で、大きさは85.6×54.0 mm、厚さは0.76 mmで、プラスチックベースで柔軟性があり、テレフォンカードと同形でやや厚いものである。記憶容量は4.11メガバイト、ユーザー領域は2.86メガバイトである。

 2−2.リーダーライター装置
 リーダーライター装置は日本コンラックス社製LC-304型である。書込み読み取り速度はそれぞれ147Kbit/秒である。

 2−3.コンピュータ
 コンピュータは日本電気社製マイクロコンピュータ PC-9801DA7を用い、光カードリーダーライターとRS-232Cにより接続した。

3.光カードの内容

 3−1.光カード記入の内容

 3−1−1.基本情報
 光カードの内容としてはまず基本情報が記入され、その後各種健康情報が記入される。基本情報としてはカード属性、本人属性、保険証番号等の3種類の情報が記入される。
 1)カード属性:カード番号、カード発行年月日、発行機関名、所在地、発行責任者名などである。
 2)本人属性:氏名、生年月日、自宅住所、自宅電話番号、勤務先名、同所在地、同電話番号、勤務職場、移動状況などである。

 3−1−2.健康情報
 病歴情報として、既往疾患、血液型、ツ反応、アレルギー歴、家族歴など。
 健康診断情報としては、本学保健管理センターが保有する健康診断情報で、一般定期健康診断、特別健康診断情報が記入されている。
 一般定期健康診断は年に1回春に行われ、その内容は、身長、体重、胸囲、視力、血圧の最高・最低、脈拍数などの身体計測。検尿の結果尿たんぱく、糖、ウロビリノーゲン、ビリルビン、潜血、ケトン体など。胸部X線検査の診断結果などが含まれる。
 定期健康診断後異常があるものには、再検査が行われ、その結果も記入される。
 成人病健診としては、心電図・胃レントゲン検査の判定結果、血液生化学的検査などが記入される。
 特別定期健康診断は、従事している業務により要求されるもので、年に二回行われるものが多い。すなわち放射線取扱業務に従事するものには末梢血血球検査、皮膚の検査、眼の検査が要求される。病原体に汚染される恐れのあるものにはHBs抗原・抗体の検査、末梢血血球検査、肝機能、腎機能その他の血液生化学的検査がある。
 さらに個人的に人間ドックに受診したものには、希望により成績表を持参させ記入する。
 記入内容には、現在は記入していないが顔の写真、胸部X線写真の概略、心電図、胃レントゲン写真などの画像も記入することができる。
 現在のところ疾患の医療情報は原則として取り扱わない。

 3−2.光カード記入項目の画面表示
 現在のところ記入されている内容の画面表示は以下のような種類がある。
 1)検査施行日を時系列で数値項目と文字項目とに分けて表示する。
 2)検査施行日時系列表から年月日を指定するとその日の検査内容が表示される。
 3)検査項目を選択して項目値を時系列で数植表示し、また折線グラフ表示もできる。現在のところこれは同時に4項目を表示することができ、項目を自由に交換することができる。

4.光カードの運用

 4−1.カードの配布と回収
 上記データを5年前までさかのぼって記入し、カードを各自に配布する。現在のところ無料で、約60名に配布している。
 次回の検査時に回収し、検査成憤を記入して再配布する。光カードと同時にフロッピーディスクにカードと同様の内容を記入して、バックアップとして保存する。

 4−2.データの閲覧と説明
 希望者の予約により1名ずつカードを持参させ面接する。
 検査日時の一覧表から検査成績一覧表を表示し、異常値、注目すべき項目の数値等について説明し、項目により、時系列表示し、折れ線グラフ表示し説明する。
 可能な限り年に1−2回は閲覧し、説明を受けるよう指導する。
 退職時にはカードを所持して退職させ、退職後も希望により情報記入、閲覧させる。

5.将来の計画

 5−1.記入内容の拡大
 学生、職員のより多くの人々の健康情報を記入し、健康情報と同時に疾患に関する医療情報を記入して、身体に関する一本化した情報カードとすることが本来の目標と考えられる。

 5−2.入力法の改善
 現在はマニュアル入力を行っているので、入力量に限界があり、書き写し違いの可能性もある。このためカード発行枚数に制限を受ける。現在コンピュータに記憶されている健康情報を自動転記するソフトの開発が必要である。

 5−3.閲覧・説明時の記録
 現在のところ表示画面からプリントするためのソフ卜には限界がある。こまめに画面ハードコピーが可能なプログラムの開発が必要である。

文 献

1)Shiina,S., Nishibori,M.:Problem and solution in the clinical application of laser card. Proceedings of the 12th annual symposium on computer apprications in medical care. 600‐601, 1988.
2〉松戸隆之,椎名晋一:光カードによる個人別検査情報管理の実際.臨床検査,38:1334-1340,1990.
3)笠富美子,平野千代,葛輝子 他:光カードを用いた健康情報の保管・管理と健康指導についての一考察.東海大学保健管理センター年報,26-29,1989.


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