第3回日本医療用光カード研究会論文集、25-26、1992年 [シンポジウム3]
自治体で運用するICカードシステム
一出雲市総合福祉カードシステム一
布野勝己 島根県出雲市役所 総合福祉カードセンター
はじめに
出雲市総合福祉カードシステムは、住民に対する福祉サービスを向上させ、住民一人ひとりが行政情報や医療情報を記録したICカード(福祉カード)を持つことによって救急情報、健康管理、行政窓ロサービスなどを今まで以上に正確且つ迅速に受けることができることを目的としている。
このシステムの特徴は、従来からの「管理する側」の事務改善あるいは効率化を直接ねらったものではなく、住民一人ひとりが自分自身の情報を個人レベルで日常的に使うことのできるシスチムであり、このカードを持つこにより「安心」を感じる、いわゆる「現代のお守り札」的なものである。1.背景
今後ますます高齢化が進み、30年後には65才以上の高齢者の人口構成比率(老年者人口比率)が、約25パーセントになると予想されている。こうした長寿社会では、大多数の人がおそらく避けてとおることのできない問題として「ボケ」がある。
どの様な状況にあっても自分自身の正確な情報を間違いなく相手に伝えることができる「ボケないもう一人の自分」が必要と考えシスチムの構築に着手した。2.システムの概要
システムの全体概要については次のとおりである。
2−1 対象業務
(1)医療システム
個人基本情報、救急情報、現病歴情報、投薬情報、検診情報などの照会及び更新を行う。
(2)行政窓口サービスシステム
戸籍・住民票、印鑑証明などの申請書の自動作成及び統計資料を作成する。
2−2 システムの機器構成
(1)ICカード
住民に配布する個人の情報を記録した福祉カードには8KバイトのICカード(ICメモリとCPUを内蔵)を使用している。医師・看護婦・救急隊員や市役所の窓口職員などが所有するセキュリティカードも同規格のカードである。
(2)ICカード読み取り装置
市役所の窓口や市内の医療機関には、ICカード読み取り装置を配備している。この装置はICカードリーダ/ライタとプリンタを備えたパソコンとで構成したオフラインのシステムである。各医療機関では住民が福祉カードを提示したときに、この装置を使いカード内の情報を見たり、ペーパーに情報を出力することができる。又、救急車全部にポケッタブルのICカードリーダを搭戴しているので、救急車内でカード情報を読みとることができる。
(3)ICカード写其掲載・発行システム
ICチップへの個人情報の入力とICカード表面に個人の顔写真及び文字(氏名、生年月日など)の印刷を行う装置として、ICカード写真掲載・発行システムを総合福祉カードセンターに配備している。このシステムは、ビデオカメラ(顔写真用)、イメージスキャナ(顔写真用)、光ディスク(個人データ保存用)、カードプリンタ(カード印刷用)、磁気カードリーダ/ライタ(個人情報書き込み用)及びプリンタを備えたパソコンで構成している。
2−3 ICカードに記録できる情報
(1)行政情報
[1] 個人基本情報
カード番号、氏名、生年月日、性別、現住所、電話番号、国民健康保険記号番号、退職者保険記号番号
[2] 行政窓口基本情報
本籍地、戸籍筆頭者、国民年金記号番号、印鑑登録番号、家族構成
(2)医療情報
[1] 救急情報
緊急時連絡先、血液型、アレルギー歴、薬品副作用歴、血清使用歴、現病歴
[2] 現病歴情報 [3] 既往歴情報 [4] 家族歴情報 [5] 投薬情報 [6] 検査情報 [7] 健康診断情報
*個人基本情報及び医療情報の入力項目の一部については、MEDIS(財団法人医療情報システム開発センター)の標準入力項目を採用している。3.サービスの概要
3−1 健康管理サービス
年に一度実施している一般健康診結果や成人病検診結果などのデータをカードに入力し、過去3年分のデータをカード内に一括管理することにより、必要に応じて市内のどの医療機関でもその記録を医師がみることができるのでより適切な医療を受けることが期待できる。又、保健活動においても、各地区での保健相談時にはポータブルのカード読みとり装置を持参し、カード情報を健康相談のデータとして活用したり、新しい情報を書き込むことにより、より密度の高いきめ細かい保健活動が期待できる。
3−2 診療支援サービス
診療支援サービスには次のようなメニューがある。
[1] 診療記録照会 [2] 現病歴入力照会 [3] 既往歴入力照会 [4] 家族歴入力照会 [5] 検査結果入力照会 [6] 検査結果履歴照会 [7] 投薬入力照会 [8] 処方戔メモ発行 [9] 薬歴台帳照会 [10] 慢性疾患指導文書発行メニュー [11] 慢性疾患経過観察グラフメニュー
住民が医療機関で診療を受ける際にICカードを提示すると、医師はカード内に記録されているこれまでの診療情報を参照しながら診療を行い、さらに新たな診療記録を書き加えることによって例えば、検査の重複などが避けられると同時に薬の配合禁忌なども未然に防止することも期待でき、今までより的確な医療を行うことが可能になる。
しかし、残念なことに、現在出雲市ではデータの入力についての医師会全体のコンセンサスが得られていないため、医療現場において診療、各種の検査結果、投薬の情報の入力は行われておらず健康診断結果データ及び救急情報の照会にとどまっているのが実状である。
3−3 救急支援サービス
カードには血液型、薬の副作用歴、アレルギー歴及び緊急時の連絡先などの情報が入力されている。この情報は万一不慮の事故にあったときでも、救急車に搭載されているポケッタブルICカードリーダで身元の確認や連絡先が判明し直ちに情報を救急病院に無線連絡し、素早い対応がとれるようになっている。
3−4 行政窓口サービス
市役所での各種証明書交付の効率化をはかるため、総合福祉カード窓口を新設し、住民票、印鑑証明書などと所得証明、納税証明などの申請と交付の窓口を一元化した。これにより、住民をタライ回ししない窓口サービスを実現することができた。
ICカードを持った住民は窓口でカードを提出し、口頭で必要な書類を申請すれば住民票、印鑑証明書などが印鑑なしで交付を受けることができる。カードに本人の顔写真がプリントされているため本人の確認が容易になり申請書の自署や印鑑を不要にした。
行政窓口サービスメニューは次のとおりである。
[1] 住民票写し閲覧などの申請書 [2] 戸籍の謄本抄本証明書交付請求書 [3] 印鑑証明書交付申請書 [4] 所得証明書交付申請書 [5] 資産証明書交付申請書 [6] 個人基本情報入力照会4.ICカード写真掲載・発行システム
ICカード写真掲載・発行システムはICカード上への顔写真及び氏名・生年月日などの掲載をカードに直接印刷するとともに、個人別の情報をICチップ部に登録するシステムである。一連の作業はディスプレイ装置のガイダンス画面に従い簡単な操作でできるため、市直営で随時カードを発行している。装置の主な機能は次のとおりである。
[1] 顔写真及び文字情報印刷機能
スキャナ又はビデオカメラから読みとった顔写真を直接カード上にカラー印刷する。又別途読み込んだ文字情報の印刷も同時に行う。
[2] オーバーコート機能
紫外線による変色防止のため、顔写真を透明シールでオーバーコートする。
[3] 磁気ストライプ上へのID情報登録機能
磁気ストライプに個人別情報を登録する。
[4] ICへの個人情報登録機能
ICチップ部への個人基本情報、健康診断情報及び救急情報などの個人情報の登録を行う。5.セキュリティ対策
カード内の情報が行政情報、医療情報といった個人のプライバシーに関するデータであるため、セキュリティ対策は必須である。総合福祉カードシステムでは第三者に情報が洩れないようにするため、カードに記録する情報は全てコード化、暗号化している。また、データの検索は医師や看護婦等にアクセスできる範囲を予め設定したセキュリティカードが配布されておりこのカードと福祉カードとの相互確認があってはじめてカード内の情報が読みとれる仕組みとしている。
6.現状及び今後の計画
前述したように、現在のところ医療の現場では各種データの入力がなされていないが、医療情報はどの程度必要か又、どこまでなら入力(全医療機関で)が可能かなど現在運用しているシステムの見直しも含め、医師会と鋭意協議調整中である。
将来的には全市民を対象にICカードを配布したい考えであるが、計画の第2ステップとして平成5年度に小学生、幼稚園児を対象とした児童用のカードシステムを開発する計画である。