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第3回日本医療用光カード研究会論文集、27-28、1992年

[シンポジウム4]

山梨県白州町における健康管理光カードシステム

澤井廣量
寺田病院


はじめに

 著者らは、昭和37年より山梨県白州町において住民健診を実施してきており、脳卒中の発生率の減少、疾病の早期発見と早期治療および健康維持と増進を目的としてきた。
 この健診は一時中断されたが、昭和53年より総合健康診査事業として再開され今日に至っている。
 これ迄に、脳卒中発症と高血圧、心電図異常、眼底異常、年齢などが密接な関係を有していることを明らかにし、高血圧患者は最近では治療を継続する者が多くなり、町全体の血圧値は低下をたどっている。一方、食生活の豊かさとともに肥満者、高脂血症者は増加の傾向をたどっており、また糖尿病患者、高尿酸血症者、或は肝機能異常者は増加してきており、疾病構造の変化が認められる。
 これら研究成果は学会、学術雑誌等にて発表され評価されるとともに、国の厚生行政にも反映されている。
 永年にわたるデータは増える一方であったが、適切な事後指導のためにこれらデータを死蔵させることなく有効に活用することは、重要なことであるが今迄はそれができなかったのが現状である。そこで記憶容量が大きい光カードの導入の研究が始まった。この1枚の光カードで個人の生涯にわたる健診データを記録することが可能と言われる。

1.光カードシステムによる健康管理の推移

 白州町においては光カードシステムを昭和62年に住民の健診会場にて試験的に使用してみたが、被検者、役場関係者、医師、保健婦、栄養士など多くが光カード導入に賛成した。
 昭和63年の白州町の健康診査においては、最近4年間の健診を総て受診した者から任意に抽出した216名について、4年間のデータを時系列グラフなどにて記録した光カードを発行し、これらのデータと健診項目のうち、会場にて判明する、身長、体重、尿、血圧、心電図、眼底などの検査所見とを比較しながら医師による総合判定・指導・或は栄養士による栄養相談が行われた。町の健診にこの光カードシステムを採用するかどうかについては、町議会での討議等も経て実施されることになった。
 平成元年度の健康診査においては、「健康診断カード」ということで受診者に光カードを配布した。この年には尿所見、心電図波形が即時に光カードに記録が可能なシステムの開発に成功した。また血液化学検査については、血清総コレステロール、血糖、総ビリルピン、GOT、GPT、尿素窒素6項目について即時に測定し、光カードに記録するシステムの導入に成功した。この血液検査の測定には時間を要するなどのため50名のみに実施した。
 平成2年度においては、「健康診断光カードと即日診断システムに関する白州町セミナー」を町の健康診査の実施期間中に開催し、医療関係者のみならす、電気機器メーカ、医療機器メーカなど約150名の参加を得た。
 光カードは受診予定者全員のものを用意し、受診時には、カードを渡し、尿、血液化学(6項目)、心電図などのデータを即時に光カードに記録し、医師、栄養士は、過去のデータも今回のデータも時系列にグラフ化された表示画面を見ながら保健指導に当たった。
 健診後の保健婦による巡回指導には、3.5インチフロッピーディスクによるシステムを用いた。このシステムは、健診データ用のファイルに記録された個人データを、地区毎にフロッピーディスクに再構成したものであり、光カードシステムのものと殆ど同じように設計されており、巡回時に該当地区のフロッピーディスクと携帯用パーソナルコンピュータを持って住民の指導に当たった。
 平成3年および4年も光カードシステムによる住民健康診査を行い、このシステムによる住民検診は、白州町においては定着したものと考えられる。

2.光カード記録項目

1)被検者属性:氏名、性別、生年月日、自宅住所、顔写真(カラー)
2)問診データ:自覚症状、既往歴、家族歴、労働時間、睡眠時間、生活習憤(食事、運動)、ストレス、喫煙、飲酒。
3)検査成績:身長、体重、比体重、最大血圧、最小血圧、血液生化学(総蛋白、ZTT,TTT,GOT,GPT,γ−GTP.総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、血t糖、尿酸、尿素窒素、クレアチニンなど27項目)、貧血(白血球、赤血球、血色素、へマトクリット)心電図〈波形、ミネソタコード)、眼底(KW,S-H,S-S)、尿所見(蛋白、糖、潜血)など。
 検査成積については時系列グラフにて表示し正常、異常がわかるようにカラー化した。

3.即日診断システム

 本システムは健康診断で利用される諸検査装置から出力されるデータをオンラインでコンピュータシステムに付属するハードディスクあるいは光磁気ディスクなどの大容量補助記憶媒体上に構築されたファイルシステムに蓄積するとともに、フロッピーディスク、ICカードあるいは光カードなどの個人携帯型健康データメディアにも情報を記入できる。
 本システムは診療所・個人開業医・企業の保険室等において利用でき、簡易人間ドック程度の健診機能を有す。1時間当り4人の被検者を処理でき、操作は医師1人(責任者、診断)看護婦・保健婦1〜2名(検査実施)でできる。

3.1.ハードウェアの構成

3.1.1.コンピュータおよび周辺機器
コンピュータ: NEC-PC9801シリーズおよび互換機
        ・ハードディスク・FDD・RAMディスク・メインメモリ
プリンタ   :NEC-PCPR201シリーズおよび互換機
光磁気ディスク:(E:〜I:)
光カード   :R/W

3.1.2.検査機器

尿      :自動尿分折装置ミニオーションアナラィザMA-4210
血液化学   :自動血液分析装置スポットケムSP-4410
血液     :自動血球計数器MEK一5105(あるいはMEK-5100シリーズ) 
血圧計    :自動血圧計UM-15TPあるいはUM-18MP(現在は使用していない)
身長・体重計 :デジタル全自動身長体重計(PHS-HR)
心電図    :ECG-8270(あるいは8000シリーズ)

3.2.光カード即日診断システムの効果

 光カードは、原則的には自分が保持し、自ら自身の健診データを管理するということで健康管理が図れる。また、緊急時の対応も可能(疾患名・投薬状況・血液型等)となる。
 健康管理者にとっては、管理対象者の健診データを一括管理することによって集団特性の把握ができ、適切な健康管理指針・施策をたてることができるなど、種々のメリットが考えられる。加えて、このシステムはパーソナルコンピュータ等でシステムが構成されているところから、比較的安価で既存の機器を使用することもでき、他の町村でも比較的導入しやすいものと思われる。

3.3.今後の展開

 当町では、受診対象者全員の光カードを作成したが、この光カードに記録されたデータが有効に生かされるためには、どの医療機関においてもこれが活用されなければならない。
 そこで、夏期に集中して行ってきた総合健康診査を一次と二次に分け、町立診療所に健康管理センターを併設し、光カード即日診断システムを導入し、通年これを実施することとする。これは、受診者にとっては自分の都合のよい時にいつでも受けられることになり、受診率の大巾な上昇が見込まれる。この一次診査からさらにもう少し詳細な診査が必要と認められる受診者を選び、二次診査を夏期あるいは冬期に実施することとする。また、これらの検査を将来は近隣の医療機関に委託し、光カードを活用した健康診査と更に進んだ診療へと拡大を試みる計画である。

まとめ

 個人の健康管理は、今や個人の責任に帰する時代は過ぎ、国や地方自治体或は企業にも責務が問われている。
 著者らは、長期にわたる地方自治体(山梨県白州町)において住民健診を実施し、循環器疾患の疫学的研究を通して、脳卒中の制圧或は健康管理を行ってきた。
 永年のデータの活用および事後指導を効率的に行うために、昭和62年より光カードシステムによる健康管理の方法を導入し、多くの成果を挙げるとともに、特に受益者である住民自身に多大の評価を得た。
 また、光カードによる即日診断システムの開発も行い、健康管理への応用も可能となった。このシステムは比較的安価で既存の機器も活用でき、医師、看護婦など2〜3名で稼動可能である。
 今後はこのような健康管理光カードシステムか普及するならば、健康管理のみならず医療(治療〉にも役立つものと考える。


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