第3回日本医療用光カード研究会論文集、29-30、1992年 [一般演題1]
光カードを応用した成分献血者の検診システム
松木一雅、前田平生、遠山博 埼玉医科大学総合医療センター輸血部 東福寺幾夫 オリンパス光学工業
はじめに
光カードを献血の現場で使おうという試みは北海道血液センターでも行なわれ、一定の評価を得ている。今回、我々は成分献血の場において、光カードを使用する検診システムを開発したので、そのシステムについて報告したい。ハードウェア構成
光カードはオリンパス光学のもので、ほぼクレジットカードと同じサイズである。光カードのリーダーライタにはオリンパス光学製リーダーライタXLCSを使用した。マイクロコンピュータとしては日本電気製のPC9801RXを接続した。ソフトウェア構成
光カードがリーダライタに差し込まれると、医師のアクセス権をチェックし、OKであれば次に進む。最初に個人の属性情報が表示され、ID、氏名、生年月日、性別、血液型、住所、電話番号、HLA型などが表示される。これは献血の度に変わることの少ない、比較的固定された情報である。また自己血採血の場合も考えて、病院などの情報も別のフィールドに収録できるようにした。次にファンクションキーによりこれまでの献血記録と検査結果を表示する。献血記録は、献血日、場所、献血種別、献血量、心電図の有無と心電図所見などの情報を含む。検査結果は身長、体重、血圧、全血比重、血算、GPT、AlP、TP、Alb、BUN、TCholである。
ここでは検査結果を3種類の異なった方法を選択して表示できるようにした。第1は、献血回数と各種検査項目を内容別に点数化して、記号で表示したもので、精度にはかけるが、簡単に全項目を一覧することができるものである。第2は実際のデータを数表として表示するもので、矢印キーで上下のスクロールが可能である。
第3はグラフ化して表示するものである。ここで血圧、肝機能、栄養状態、赤血球、白血球という表示を選ぶと、あらかじめ選択してある指標の組み合せを表示する。また自由に3項目まで指標を選んで、その組み合せを表示できるようにもした。グラフは4カ月、1年、3年の3種類の時系列で表示可能であり、献血の種類は全血を赤、血漿を黄色、血小板を白色の縦線で表示した。また400mlと200mlの差は縦線の長さで区別した。考察
今回は直ちにフィールドで調査するには至らなかったため、システムの仕様設計中の議論で浮かび上がった間題点について整理したい。
[1]パーソナルコンピュータのOSは現在変革期にあり、そう遠くない将来、現在標準とされるOSも過去のものに転ずると見られる。その場合、全ての施設のハードウェアとOSを強制的に統一することも理論上可能ではあるが、むしろ、光カードを、MacOS、OS/2、Windows、Unixなど、複数のOS上で同等に動くようにすることが望ましい。今回使用した光カードでサポートされているのはMS‐DOSのみであるが、光カードがより広まるためには複数プラットホームのサポートが今後の目標になると思われる。また医療に本格的に応用するためには、数年から時には十数年以上に渡るサポートと、スムーズなアップグレードが必須である。
[2]ここで使用した光カードは3.4MBの記憶容量で、1フィールドが1KBに割り振られており、献血記録としては十分の容量を備えていると思われる。もちろんフロッピィディスクでもすでに4MBから場合によっては20MBを越える仕様が登場しており、単に数MB程度のデータを収納するのであれば、現在のドライブとメディアのコストからはフロッピィを使ったほうが経済的ではある。しかし、光カードのほうが携帯性に優れており、街頭や駅前の献血センターなどでの献血には適していると思われる。現在、ほぼ同様のサイズの光カードで1GBを収納する方式を発表した米国社もあり、将来的には画像情報のみならず動画情報も保存できる光カードも出現し、光カードそのものもさらに大容量化が進むと思われる。
[3]別の医療機関や血液センターで行なわれた検査結果をただちに取り出すことは現在は不可能である。このためには、1)各機関のコンピュータをオンラインで結ぶ、2)詳細なデータを各自に持たせる、3)電話回線とコンピュータ、FAXを使う電話照合(telephony)技術などが考えられるが、たとえば北海道から九州のコンピュータを呼びだして大量のデータを取り出そうと思うと、現実には高価な通信回線が必要となり通常の電話回線とモデムでは即時性の実現は不可能である。データフォーマットが統一された時点では、オンラインのネットワークを作るよりも、個人がそれぞれの情報を携帯するシステムのほうが経済的に実現可能性があると思われる。
[4]経時的な検査データが比較的短時間に表示されることにより、検診医にとっては、個人の健康状態の変遷や、献血の影響が即座に視覚的に認識できるようになる点がメリットと考えられる。現実に異常値が出現する前に異常傾向を認知し検診医がより適切なアドバイスを行なうことができれば、献血者にとってもメリットが大きいと思われる。文献
Henry Norr: Credit card-size optical technology: the next big thing in digital storage?Disk packs 1 Gbyte of data, firm claims. MacWEEK. 6:(16) 1, 1992