→目次へ

第3回日本医療用光カード研究会論文集、33-34、1992年

[一般演題3]

光カードを用いた分娩情報の管理

原 量宏、神保利春
香川医科大学母子科学教室

はじめに
 周産期管理におけるコンピューターの応用は急速で,分娩時の胎児心拍の連続監視はもちろん,妊娠中の管理から分娩後の分娩総括記録や臨床統計の分折まで,あらゆる目的に利用されている。従来より我々の施設においては,妊娠中の管理はもちろん,分娩時,および分娩後においても,統計処理にコンピューターを積極的に導入している。また最近発達しているニューメディアに関しても,妊婦管理や胎児心拍数の記録に光カードの応用を試み,良好な結果が得られている。ハイリスク妊婦に関しては,パソコン通信による在宅管理システムを開発し,ほぼ実用化の段階に達したと考えている。周産期管理においては,この他に臨床的に最も重要な分娩時の管理がある。その内容は,通常のカルテに記載する妊娠週数,体重などの項目,および分娩開始後における,陣痛周期,子宮口開大度,児頭の下降度など,いわゆるパルトグラムに記載する情報の取り扱いと,胎児モニタリングとしての胎児心拍連続監視に分類できる。前者に関しては,磁気ディスクや光磁気ディスクを用いた,いわゆる電子カルテの試みが注目されているが,これらに関しても,外来と同様に光カードを利用することが可能である。これらの情報を,妊婦外来で用いた光カードに書きこむことができれば,妊娠中から分娩までの全てのデータが,時系列的に統一された形式で記録されることになり,その臨床的意義は非常に高いものと思われる。今回われわれは,光カードによる分娩情報の管理を試み,分娩に関する各種データの処理,とくにグラフィック表示は,分娩進行の把握に非常に有用であり,また電子カルテの開発にも役立つことを確認した。

1.分娩情報の管理システムの構成
 今回試作した光カードによる分娩情報の管理システムは,パソコン(PC9800)と光カードリーダー/ライター(オリンパス光学工業),およびハードディスク(100Mbytes)から構成される。光カードはオリンパス光学工業(2.5Mbytes)を用いている(図1)。同一のシステムで,外来の妊婦管理や胎児心拍数の分析(NST)にも利用可能である。現在妊娠分娩情報の総合的な管理を目的として,ワークステーションによる電子カルテによる管理を試みている段階である。したがって,光カードのためのソフトウェアーと,電子カルテとしてのソフトウェアーの整合性を考慮する必要が生じてくる。そのため,すでに本学会で発表した様に,妊婦外来におけると同様に,一括して大きなファイルを作製せず,分娩経過中の診察ごとのデータを,個々の独立したファイルに記録する方式としている。

図1 分娩情報光カードシステム機器構成

2.光カード上のファイル形式
 ファイルの形式は,外来における妊娠管理システムとほぼ同一である。入院時に妊婦の全身所見に関する入院時体重,血圧,浮腫,子宮底長など約60項目を256bytesに記録する。これは入院時の妊婦の基本情報に相当する。入院後は,分娩経過中の診察(内診)所見が中心となる。通常分娩は陣痛発来後,初産婦で12時間,経産婦で6時間前後で終了する。分娩が24時間以上経過する場合を分娩遷延とよぶが,その頻度は少ない。分娩中の診察は数時間に一回程度のため,合計の診察回数は3〜5回程度であり,妊婦外来での検診回数の10回に達することは少ない。したがって,分娩時においても,外来の妊婦検診システムとほぼ同一のファィル形式が利用可能である。すなわち外来での受診間隔は週単位であるが,これを分娩時の診察間隔の時間ごとの単位に変更することにより,外来のソフトウェアーとほぼ同一のファイル形式を利用できることになる。表1にしめす項目を診察ごとに256bytesに記録する方式としている。データのバックアップに関しては,外来と同様にその妊婦のID番号と同一名のサブディレクトリーを作製し,自動的に記録される。現在ハードディスクを利用しているが,今後電子カルテとしての光磁気ディスクの導人を考慮している。

表1 内診所見の内容
  1. 膣、会陰の伸展性
  2. 子官膣部
  3. 口唇の厚さ
  4. 口唇の硬さ
  5. 子宮口の開大*
  6. 頚管の展退度
  7. 卵膜
  8. 卵膜
  9. 胎胞
  10. 胎胞
  11. 羊水漏出
  12.   混濁
  13.   均等、不均等
  14.   色
  15.   顆粒
  16.   悪臭
  17. 下降部
  18. 矢状縫合 大泉門
         小泉門
  19. 先進部のStation*
  20. 産瘤
  21. 骨重
  22. 恥骨結合後面
  23. 座骨棘
  24. 仙骨胛
  25. 尾骨可動性
  26. 恥骨弓
  27. 座骨間距離
  28. 分泌物

3.実際の運用
 分娩開始にて妊婦が入院したのち,分娩監視室に設置された本システムに,妊婦外来で用いた光カ一ドを挿入すると,外来で入力ずみの妊婦の基本情報が自動的に表示される。すなわち妊婦ID番号,妊婦名,現在の妊娠週数などが表示され,ついで診察(内診)所見に関する項目(子宮口の開大度,児の下降度など約50項目)が表示されるので,順次キーボードから人力する。データの入力が終了すると,これらの情報は時系列的にパルトグラムとしてグラフィック表示される(図2)。上方に妊婦の名前と年齢,妊娠週数,陣痛開始時間,破水の時間が表示される。横軸に実時間と平行して,分娩開始後の持続時間が表示され,縦軸には子宮口の開大度と児の下降度が表示される。分娩経過が24時間をこえた場合には,横軸のスケールは自動的に変化する様になっている。妊娠末期の胎児の児頭の横径は約9cmであるので,子宮口が全開した場合には10cmの開大と表現される。この例では,分娩開始後子宮口は順調に開大し,約14時間で全開に至り,児頭も同様に順調に下降している。子宮口の開大が遅延する場合には,一般に陣痛が微弱であることを意味し,児の下降が遅延する場合には,産道の抵抗が強いか,児頭の回旋に異常が生じている可能性を意味する。この様にデータ入力後ただちにパルトグラムを自動表示することにより,分娩の進行状況の把握に役立つだけでなく,子宮収縮剤の投与や,分娩方式の決定に威力を発揮する,これらの情報はもちろん光カードに記録されるのみならず,電子カルテとして磁気ディスクなどにも記録保存可能であり,病院全体の患者情報との有機的な応用や統計分折にも利用可能である。

図2

おわりに
 今回,分娩開始後の諸データに関する光カードの応用に関して報告した。入院後のデータの管理に関しては,光カードとは別にワークステーションを用いた電子カルテによる管理を検討している段階であるが,これらのソフトウェアーを開発する上で,光カードに関しても利用可能であるファイル様式を考慮しておくことは,今後の医療用光カードを普及させる意味で重要と思われる。また妊娠初期から末期までの諸データはもちろん,分娩時の情報と分娩総括記録を,一枚の光カードに,一連の時系列的な情報として記録できることは,その妊婦と新生児の健康管理にとって,非常に意義のあることと思われる。
(本研究は文部省科学研究費No. 63570783およびNo. 03557071による)

文 献

1)原 量宏:コンピューターを用いた周産期管理,日本産婦人科学会雑誌,40,6 806,1988
2)原 量宏,神保利春:光カードを用いた周産期管理,産婦人科の実際,40(12):2007,1991
3)原 量宏,神保利春,他:光カードを用いた心拍数情報の記録,第2回日本医療用光カ一ド研究会論文集,p31,1991
4)原 量宏:ニューメディアによる周産期医療情報処理,ペリネイタルケア,11(3):245,199


→目次へ