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第3回日本医療用光カード研究会論文集、35-36、1992年

[一般演題4]

光カードによる成人病予防健康診断情報の管理について

○谷合 哲、小林紀子、金野 滋 東京医科歯科大学保健管理センター
西堀眞弘、椎名晋一 同臨床検査医学

はじめに

 近年、企業の被雇用者や公務員は、労働安全衛生法やその規則、あるいは人事院規則などに基づき、一般定期健康診断のほかに、成人病予防のための健康診断として、種々の健康診断が行われている。この健康診断は通常40歳以上のものを対象として年1回定期的に行われるもので、成人病の3大疾患である心虚血性疾患、脳卒中、各種の癌をはじめとして、各種の動脈硬化性疾患、糖尿病、痛風、肝臓疾患などのいわゆる成人病を予防するために行われる。この定期健康診断には、一般に心電図、胃バリウム検査、肝機能検査・腎機能検査としての血液検査、痛風検査として尿酸検査、糖尿病検査として血糖検査などが含まれる。これらの検査は毎年定期的に行われるので、年とともに次第にデー夕が蓄積され、40歳から60歳まで在職するとすれば、およそ20回分のデータが蓄積されることになる。これらのデータは、対象とする疾患の性格上年齢とともにわずかずつではあるが変化し、徐々に成人病の発症へと進行することが多い。従ってこれらのデータは、きちんと時系列的に整理されて、比較検討が容易になっている必要がある。通常、健康診断後のデータは個人に報告された場合、検査報告伝票であったり、検診票であったりして、報告の様式に統一性を欠き,散逸することもあり、順序よく整理して比較することは容易でないことが多い。
 これらの成人病予防に関する検査データが、きちんと時系列的に整理され、その推移が分かりやすく表示され、随時参照されるようになっていれば、長年かかって完成されていく成人病の発見や予防にきわめて有用てあると考えられる。
 われわれは既に昨年の本学会において、光カードを用いて健康データを管理する方法について報告したが、今回は本学職員の成人病予防に関する健康診断データについても同様の方法によって管理し、有用と思われる結果が得られたので報告する。

1.研究の背見

 椎名らは、光カードに診療における患者データを記載させて、膨大な病歴を持ち歩き、繁雑な内容から目的のデータを見つけ出すということではなく、光カードから容易に検索し、病状や検査成績の推移を明確に表示できるようにするため、光カードのフォーマットやプログラムを作成した1)2)。われわれも昨年の当研究会において、大学における学生や職員のうち特殊業務に従事し、定期的に健康情報を発生するものについて、光カードを用いてデータを蓄積し、個人情報のデータベースを管理する方式について報告した3)。今回はこの光カードによる医療情報管理のプログラムを用いて、定期的に行われる成人病予防健康診断データを管理する方式を作成したので報告する。

2.システムの概要

2−1.光カード
 光カードは大日本印刷社、日本コンラックス社、オムロン、オリンパスの4社の出資による光カードシステム社製で、大きさは85.6×54.0mm、厚さは0.76mmのプラスチックの柔軟なカードで、記憶容量は4.11メガバイトであり、ユーザー領域は2.86メガバイトである。

2−2.リーダライター装置
 リーダライター装置は、日本コンラックス社製LC−304型であり、書き込み、読みとり速度はそれぞれ147kbit/秒である。

2−3.コンピュータ
 コンピュータは日本電気社製マイクロコンピュータPC−9801DA7を用い、光カードリーダライターと接続した。

3.光カードの内容

3−1.光カード記入の内容
 光カードにはまず基本情報を記入し、その後各種の健康情報が記入される。
 基本情報としてはカード属性、本人属性、その他の属性が記入される。
1)カード属性:カード番号、カード発行年月日、発行機関名、所在地、発行責任者名などである。
2)本人属性:氏名、生年月日、自宅住所、自宅電話番号、勤務先、同住所・電話番号、勤務職場、移動状況などである。
 健康情報としては、本学で行っている成人病予防健康診断の結果を中心として、その他の関連する情報が記入される。
 成人病予防健康診断は、本学では40歳以上の職員を対象として、従来より心電図、胃レントゲン検査が行われているが、最近これに加えて血液化学的検査が行われるようになった。これには肝機能検査として。G0T、GPT、アルカリフォスファターゼなど、脂質系検査として総コレステロール、中性脂肪、などが行われ、そのほか尿酸検査なども行われている。これに一般定期健康診断検査として、身長、体重、血圧、検尿、胸部X線検査が毎年1回ずつ行われている。
 成人病予防健康診断の対象となるものは、人間ドックの対象ともなり、希望者は本学と連携のある病院・診療所で人間ドックの受診をしている。これは成人病健康診断として本学で施行する検査より詳細であり、健康情報として重要で、可能なかぎり本人に結果を持参させて記入する。その他できるだけ関連する健康情報を加えて記入しておく。

3−2.光カード記入項目の画面表示
 光カードに記入されている内容は、画面に表示して、本人とともに検討し、説明する。そのため画面の表示には以下のようなものが用意されている。
1)検査項目を数値項目と文字項目に分けて、検査施行日を時系列で表示し、検査の目録として利用する。
2)検査施行日の時系列表から、年月日を指定すると、その日の検査内容が表示される。
3)検査項目を指定すると、その項目の値を時系列て表示する。また折線グラフで表示することもでき、値の推移を視覚的に把握することがてきる。現在のところ4項目を同時に指定し、同時に数値表として表示することができる。

4.光カードの運用

4−1.カードの配布と回収
 本学で成人病予防健康診断として血液検査を加えたのは昨年度からであり、まだデータの蓄積が多くはない。そこでまず昨年度からのデータを、現在のところ約40名について光カードに記入し、無料で配布している。そして一般定期健康診断、心電図、胃レントゲン、血液検査など各種の成人病予防に関する検査がある度に回収して、それぞれの結果を記入してふたたび配布する。記入に際しては、同時にフロッピーディスクに光カードと同じ内容の情報を記入して、バックアップとして保存する。

4−2.健康指導とデータの閲覧
 成人病健康診断の内容から、指導・教育が必要なものには、順次本人に通知して、光カードを持参して来所させ、内容を画面に表示し、問題のデータを表やグラフに表示して説明し、指導する。
 そのほか希望するものには予約により1名ずつ光カードを持参させて、内容を閲覧し、間違いの有無を確認し、同時に健康指導をする。このとき本人の希望があればデータの追加書き込みをする。

5.将来の計画

5−1.記入法の改善
 現在のプログラムはキーボードからのマニュアル入力であるため、入力量に限界がある。他のデータファイルにある情報を自動転記できれば、管理できるカードの数が大幅に増大するものと思われるので、自動転記のソフトが望まれる。

5−2.管理対象の増加
 本学て成人病予防健康診断を受けている対象は現在数百人におよぶが、現在光カードで管理しているのはそのうちのほんの一部に過ぎない、実質的効果をあげるためには希望するものの多くを管理することが必要である。

5−3.光カード情報のハードコピー
 説明、指導にあたり現在ば画面表示により行い、必要なデータや指導内容はメモにとるなどして記録し、手渡しているが、できれば画面をハードコピーし、必要な指導を記入して渡す方が指導効果があがると考えられる。ハードコピーがとれるプログラムの開発が望まれる。

おわりに
 本学における成人病予防健康診断として、ある程度の項目がそろって以来まだ日が浅いが、これから情報を蓄積し、経時的変化を画面に表示して指導することは、光カードの利用法としてもっとも有効な利用法のひとつと考えられる。さらに充実した利用を進めたいと考えている。

文 献

1)Shiina, S., Nishibori, M.: Problem and Solution in the clinical application of laser card. Proceedings of the 12th annual symposium on computer applications in medical care, 600-601, 1988.
2)松戸隆之,推名晋一 : 光カードによる個人別検査情報管理の実際.臨床検査,38:1334-1340,1990.
3)谷合 哲,椎名晋一,西堀真弘 : 東京医科歯科大学保健管理センターにおける健康管理データの光カードによる管理について.第2回日本医療用光カード研究会論文集,33-34,1991.


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