第3回日本医療用光カード研究会論文集、41-42、1992年 [一般演題6]
医療用光カードを用いた画像付報告書作成
望月隆男、金子昌生、高井通勝 浜松医科大学 放射線医学教室
1.目的
近年画像診断は急速に発展を遂げ、診断学や治療においてその必要性は論を待たないが、患者ひとりひとりのデータ保管についてはまだ未開発の部分を持っている。
実際には各施設ごとに患者用のフィルム袋を用意し、その中に単純写真から始まってRI,CT,MRIなど各種のフィルムが雑然と管理されているものと思われる。患者カルテや血液検査データとなるとさらに分かれて別箇所に保存されているのが実態である。
また検査機器を販売する大部分の企業は患者データの保存をうたった光ディスクの販売を進めているが、異なる企業間でのフォーマットの非公開や互換性の欠如がその保存媒体の使用をただのデータのバックアップにとどめてしまう原因を生み出している。実際に患者ひとりひとりの検査結果を検査種を越えて経時的に追うときには上記のような写真袋から必要なフィルムを引き出してから検討しなくてはならない。
一方、複数の病院にまたがって受診している患者のデータを考えるとさらに複雑である。医療データの散逸はどの医療施設の場合でも好ましいことではないと考えられているはずで、患者の転院や複数の病院への通院の際にはデータの複写や写真のデュプリケーションが行われているのが現状である。これには各施設での医師をはじめ諸氏に徒労が強要されるばかりでなく、保険費や資源のムダ遣いあるいは患者への金銭的負担となることも珍しくない。
上記のような背景を考慮した上で、患者個人の医療情報保存の理想に近い形として医療用光カードに着目し、医療画像を含んだ患者データベースの移植/作成およびその試用を経験した。2.方法
2.1.使用機器
光カードにはDrexler社製4メガバイト(実際のユーザー使用領域は2.8メガバイト)の光カードを用い、リーダーライター装置には日本コンラックス社製LC-304を使用した。光カードは通常のフロッピーディスクと異なり、データの改竄ができないので、医療データの保存には適した媒体といえよう。
2.2.コンピュータ本体
アップル社製マッキントッシュIIciを本体とし、モニターにはカラーディスプレーを装着した。これは72dpi(dot per inch)の解像力を持ち、256段階のカラーおよびグレイスケールを表示可能である。
2.3.スキャナ
MyScan Gray(最高300dpiの解像力を持つ)を使用した。当初の目標としてRI,CT,MRIといったデジタル画像の集積を考えていたので、この機種の持つスキャン能力で充分と考えた。スキャン条件はおおよそ100dpiで充分であり、実像と遜色のない解像力を持つ。一枚のCT画像のデータは約90Kバイトと小さく、大量の枚数でない限りはディスクの空き容量をあまり気にせずに使うことが出来る。
2.4.データベース設計
基本となるデータベースには以前から浜松医大放射線科で使用していろ検査所見データベースを元に、ほとんどの項目を共通項にしてリレーショナルデータベースソフト オメガベース(コンラックス社による開発ソフトウエア)に移植した。必要な画像情報にはボタン操作でアクセスできるようになっている。
以下、医療情報の項目を列挙する。
患者情報: 患者番号、氏名、生年月日、性別、受診科名、臨床情報(簡素に記す程度)
検査情報: 検査日時、検査内容(CT,MRI他。造影の有無など。)、検査所見、検査結果、検査読影医師名
画像情報: 患者の状態を把握するのに充分な選ばれた医療画像3.結果
画像を含んだ個々の患者データを作成し得た。操作性はこれまで使用してきた当科内でのデータベースと殆ど変わらなかった。
4.考察および結論
医療画像を取り込んだデータベースの作成はこれまでの光カードのもつ意味とはまた違った方法でのアプローチといえる。今回の我々の試作はこれまで当院で使用してきたデータベースの移植なのでプロトタイプという意味合いが強く、臨床各科用というよりも放射線科用という傾向を持っている。この点は是正が必要と思われる。しかし患者がこのデータを持つことによって、正確な経過把握の一助となることが期待される。
また今回添付した画像は一旦はフィルムというアナログデータに落ちた情報であり、原画像と比較すればそのデータの持つ意味は格段の差があることは否めない。しかし光ディスクの4メガバイトという制限を考慮した場合元データは余りに大きく、またフィルムからスキャンしたデータは比較的小さいのでむしろ好まれる要素としてとらえるべきかも知れない。
また実際の診療に耐えるかどうかは画像の品質評価がされていない。この点については読影報告を添付しているので、かなりの情報は補われているはずである。
今回は光カードの実際の使用は当科内でのシミュレーションに終わっているが、今後光カードを画像情報伝達の一助としても考慮していきたい。