→目次へ

第3回日本医療用光カード研究会論文集、43-44、1992年

[一般演題7]

光カードにおける歯科X線画像の記録方法について

渡辺茂弥 郵政省医務室
鈴木信一郎、金子 宏 神奈川歯科大学放射線学教室
市川加織 オリンパス光学工業株式会社

 はじめに

 先にわれわれは,光カードヘの応用を前提に,歯科X線画像データのデジタル化について実験し,その画質や診断能について,定性的に分折した。その結果,臨床応用が十分に可能と結論づけられたが.光カードの記憶容量の関係から画像データの圧縮処理が必要であることがわかった。
 そこで.今回は,画像データの圧縮処理によって診断能がどの程度変化するのかを,ROC曲線を用いて検討した。

 装置と材料
1.ハードウエア

  1. パーソナル・コンピュータ(PC−9801RA51,日本電気社製)
  2. フレーム・メモリ(SUPER−FURAME2,サピエンス社製)
  3. 画像圧縮ボード(NBC−PB9807,日本ボードコンビュータ社製)
  4. 光磁気ディスク(リコー9200,リコー社製)
  5. イメージ・スキャナ(JX-600,シャープ社製)
  6. CRT(PC-KD882,日本電気社製)

2.ソフトウエア
 K・I Readwriteシステム(オリンパス光学工業社製)
 なお,画像の圧縮方法は非可逆符号化法のベクトル量子化を用いている。

3.X線写真

  1. 根尖病巣がある回転パノラマX線写真
  2. 根尖病巣がない回転パノラマX線写真(各々,30枚)

 実験方法
 回転パノラマX線写真(パノラマX線写真)は,600DPIの反射光,透過光両用型イメージ・スキャナによって8bit階調(256階調)にデジタル化された。こうして,合計60枚を一組としたパノラマX線写真を,一組は画像圧縮しないで記憶(非圧縮群)し,もう一組は画像圧縮して記憶(圧縮群)した。画像データの圧縮率は1/10である。この際,多数の画像データを光カードに記憶する事は,実験を煩雑にするため,記憶装置は光磁気ディスクを用いた。
 以上のように記憶させたX線像はCRT上にランダムに再生され,観察者は,以下に述べる判定規準にしたがって判定した。同様に,オリジナル・フィルム像(オリジナル画像)も観察者にランダムに提示し,以下に述べる判断基準にしたがって判定した。
 判断基準はつぎの5段階である。

  1. 根尖病巣は絶対存在しない。
  2. 根尖病巣は多分存在しない。
  3. 根尖病巣は存在するか否かわからない。
  4. 根尖病巣は多分存在する。
  5. 根尖病巣は絶対存在する。
 観察者は臨床経験10年以上の歯科医師であり,これらの解答をもとにROC曲線を作製し,ROC曲線下の面積を算出した。

 実験結果
 図1にROC曲線を示す。グラフの縦軸は,根尖病巣が存在するものを存在すると解答した割合を示し,有病正診率と呼ばれている。また,グラフの横軸は根尖病巣が存在しないにもかかわらず,誤って存在すると解答した割合を示し,無病誤診率と呼ばれている。したがって,ROC曲線のカーブがグラフの左上隅に近づく程,病巣の検出能が高いことになる。グラフからわかるように,病巣の検出能はオリジナル画像がもっとも高く,非圧縮群と圧縮群における病巣の検出能はほぼ同じであることがわかった。これをROC曲線下の面積で比較してみたのが図2である。デジタル画像の非圧縮群および圧縮群の両群とオリジナル画像の間には0.l%以下の危険率でもって有意差が認められたが,デジタル画像の非圧縮群と圧縮群の間には,5%以下の危険率でもって有意差は認められなかった。

図1

図2

 考察
 今回の実験におけるデジタル画像による検出能はオリジナル画像と比較して明らかに劣っており,有意差が認められた。その理由は.パノラマX線写真がスクリーン系フィルムを用いた断層像であり,オリジナル画像そのものの空間分解能が悪い事から,オリジナル画像とデジタル画像の解像力の差から生じたとするよりもむしろ,オリジナル画像とデジタル画像の階調の差に起因するものと思われる。すなわち,デジタル画像の8bit階調がオリジナル画像の階調を十分に再現していないことやCRTの階調表現がオリジナル画像よりも劣ることによるものと考えられた。
 また,デジタル画像に関しては非圧縮群と圧縮群の間には病巣の検出能に有意差を認めれなかった。すなわち,デジタル画像は本実験の条件下で圧縮/伸張しても画質の劣化は少なく,病巣の検出能に影響してこないことがわかった。したがって,画像データを圧縮して記憶でき,光カードのメモリを有効利用できる。ちなみに,一枚のパノラマX線写真が必要とする記憶容量は非圧縮の場合256kByteであるが,圧縮することでその1/l0の容量ですむことになる。

 謝辞
 本実験に際してご協力をいただきました山口歯科医院院長,山口益司博士に感謝いたします。

 参考文献
 1)渡辺茂弥,鈴木信一郎,金子 宏:光カードによる歯科PHD記録システムに関する研究一歯科X線画像のデジタル化一.神奈川歯学,25:485-488,l991.


→目次へ