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第3回日本医療用光カード研究会論文集、45-46、1992年

[一般演題8]

医療用光カードの放射線に対する安定性

三木良太 近畿大学原子力研究所
阪口弘治 長瀬ランダウア

はじめに

 近年、高度情報化社会の到来に伴い、多くの分野で様々な種類の大量の情報の収集、蓄積、処理が必要となり、それに付随するシステム、データベースなとの開発か活発に進められているが、それらの情報が用いられる目的に応じて最も適した情報媒体が必要であることは論を待たない。
 医療関係の分野で、小型で極めて大容量の情報媒体として注目を集めている光カードは、ますます高度化しつつある医療機関における情報媒体として、ICカードなどと並んで魅力ある存在である。しかしながら近年医療機関では、目を見張るような技術革新の結果CTをはじめとする大型の診断、治療装置の導入が盛んに行なわれており、これに伴って治療や診断が行なわれる現場で従来以上に放射線や強力な磁場が用いられる機会が多くなっている。Drexler社製の光カードは、機械的な方法によって情報を媒体にかきこむ方式を用いているので、磁気の影響は本質的に受け難いし、放射線に対しても安定であると思われるが、媒体自体とは別に、コーティング材やカバー、ケースなどが多少なりとも放射線の影響を受け変質し、書き込みデータの読み取りの際にトラブルの源になることは十分に予想される。この点について医療用光カード研究会事務局から、光カードの放射線に対する安定性を調べて欲しい旨の依頼があったので、データ書き込み済みの光カードの照射試験を行なった。その結果について報告する。

1.光カード

 照射試験の対象としたのは、Drexler社製の標準的な製品(DELAフォーマット DNP製)で、日本コンラックス社開発部においてデータを書き込んだ試験試料10点である。うち2点は、東京医科歯科大学の椎名晋一先生が開発されたフォーマットを用いて画像データ等を書き込んだもので、残り8点はコンラックス社のカードチェック・プログラム「RDWT」を使用して、4トラックおきに全域にデータを書き込んだものである。1トラック当たり12748ビット(1トラックl598バイトモード)でエラー訂正は施していない。なお画像データを書き込んだ分は、フォーマットの関係でエラー訂正を施してある。

2.放射線による照射

 現在、医療機関では医療関係者の放射線被ばくを低減するために専門の放射線管理者が厳重な管理を行なっているので通常は医療の現場で強い放射線にさらされることはまず考えられない。しかし機器などの不測の故障や不注意から医療の現場に誤って放置された光カードに放射線が当たる恐れは皆無とはいえないと思われる。この時、もし書き込まれた貴重なデータが一部でも失われることがあれば、情報媒体としては致命的な問題である。この点を考慮して、現在産業界で放射線滅菌などに用いられているコバルト60大線量照射設備による照射を画像データを書き込んだ2点に対して行なった。照射線量は2点とも25kGyである。次ぎに病院などの医療現場でよく用いられているライナックによるX線及び電子線照射を光カードをケースのまま、また裸でそれぞれ3Gy照射した。更にl40kVX線で5Gy及び10Gyの照射も行なった。残りの2点はアメリシウム241のアルファ線(4.5MeV)を、4.86 x 106/cm2を照射した。

3.照射光カードの読み取り試験と結果

 照射済みの光カードは日本コンラックスで、同社のカードチェック・プログラム「READ」を使用して読み出し、画像データを書き込んだ光カード以外は、読み出し、書き込みエラー数を記録した。エラー訂正を施している画像データカードは、画像データを含めて正常に読み取りができた。またエラー訂正を施していない8点についても平均エラー・レートに異常は認められなかった。

4.まとめ

 今回照射試験を行なった医療用光カードは、25kGyという大線量のガンマ線照射に対しても極めて安定であり、医療現場で仮に誤って若干の放射線にさらされても、書き込まれたデータが変化したり、失われたりする恐れはほとんとないと考えられる。

 謝辞 本照射試験に際し、照射のお世話になった日本アイソトープ協会甲賀研究所曽根宏治氏、近畿大学付属病院中央放射線部技師長村野喜彦氏、同ライフサイエンス研究所副技師長辰巳奇男氏、近畿大学原子力研究所講師伊藤哲夫氏に厚く謝意を表します。


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