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第4回日本医療用光カード研究会論文集、15-16、1993年

[特別講演(II)]

医療情報システムの今後の展開

熊本一郎
鹿児島大学医学部附属病院医療情報部

1 はじめに
 医療へのコンピュータの導入は、高度情報化社会にあっては遅れた分野といわれてきた。初期には、医事や検査などのシステム化が容易な部門のローカルシステムから導入が始められた。しかし、医学の急速な進歩と高度な専門分化とともに、複雑多岐で膨大な医療情報が病院各部門で発生し、さらにこれらを迅速かつ正確に効率よく処理することへのニーズが高まってきた。一方、診療レベルの向上、患者サービスの充実など病院の近代化を促進するための新しい病院運営の体制が希求されてきた。そこで、病院各部門の有機的連携を図り、部門間の情報コミュニケーションを確立するためにコンピュータを利用し、情報の発生者である医師や看護婦が発生源でオーダ入力を行うオーダリングシステムが開発され、診療現場に導入されるようになってきた。この病院のインテリジェント化により、病院業務の効率化、医療サービスの向上が実現し、さらに医学研究・教育の拡充を達成することが可能となった。現在、全国的にオーダリングシステムの導入が推進されており、このシステムを核とする総合病院情報システムの構築が注目されている。
 鹿児島大学医学部附属病院では、昭和59年よりオーダリングシステムによる鹿児島大学総合病院情報システムTHINK(Total Hospital Information System of Kagoshima University)を構築し、現在、処方・検査・放射線・病名・栄養・看護・物流などのサブシステムが安定に稼働している。

2 情報の一元化と共有化
 オーダリングシステムでは伝票に代わり、病院の各部門間のコミュニケーションがオンライン化され、情報伝送が正確・迅速に行え、各部門の業務も円滑に効率良く遂行される。さらにオーダ情報の一元化と共有化によるシステム化のメリットが挙げられる。一度入力されたデータは、転記や再入力の必要なく病院の各部門にて有効に活用され、また何度も利用され必然的に情報の精度は向上する。たとえば、看護部では、病棟毎・患者毎に、内服・注射・検査などの各種のワークシートが容易に出力でき、より正確な患者ケアに役立て活用される。医事部門では、オーダ情報を利用し、外来会計、レセプト作成が迅速に行え効率的に活用できる。栄養士などのコメディカルスタッフも必要に応じて、薬歴・検査結果などの患者情報を参照できる。診療科では、システムにより中央化された患者診療情報を、診療科を越えて必要に応じ自由に参照し、検査の二重オーダや薬剤の重複投与が防止できる。さらに、蓄積した診療情報はリレーショナルデータベースを利用した複合条件検索により、医学研究支援に有効に活用される。
 このようにオーダリングシステムによるトータルな病院情報システム構築の最大のメリットは、一度入力されたデータをコンピュータにより中央にて一元化し、無駄のない有効利用を促進するとともに、病院全体で共有し最大限に活用することである。病院内のデータの統合により、意思決定に利用できる情報としてフィードバックすることが可能となる。

3 病院情報システムのこれからの展開
3・1 看護システム
 オーダリングシステムによる病院情報システムの構築の結果、各部門間の情報伝送がオンライン化され迅速かつ正確となり、看護部門でも情報の転記作業やあいまいな情報の再確認作業の解消など、省力化に役立った。しかし、これらのメリットは医師主導型のオーダリングシステムの導入に付随したものであり、看護部門にとっては受動的な成果であった。看護そのもののシステム化は、多くの接点業務を持ち24時間継続して患者を観察しケアする責任を有する看護のもつさまざまな特異性から困難であるとされ、病院情報システム導入の初期においてはまだまだ未開発の状態であった。そこで、鹿児島大学では、医師主導型のシステム開発が終了した1987年より看護の総合的なシステム導入を開始した。
 この看護システムではコンセプトとして、看護における情報システムを三つの側面からとらえ、看護情報システム、看護業務システム、看護支援システムとし、これらを看護システムと総称している(図1)。看護情報システムは、患者の持つ問題点を中心とする患者情報のシステム化であり、看護情報の体系化を進める中心的なシステムである。看護業務システムは、看護の抱える事務的作業のシステム化であり、看護支援システムは、最新の看護情報・医療情報による看護支援のシステム化である。この総合的な看護情報システムにより、看護度や患者の状態を標準化・客観化した鹿児島大学看護情報分類集を作成し、看護情報の体系化を図り、看護情報の蓄積ばかりでなく、病院管理に必要な基礎的資料の収集ができるようになった。

図1 看護システム

3・2 物流システム
 医療を取りまくきびしい環境の中で、経済的評価を考慮した病院経営を実施することが、重要であることが認識されてきている。このため、情報の流れのシステム化とともに、とくに注射薬品・特定治療材料を含めた物の流れのシステム化が重要視されてきている。鹿児島大学では、バーコードを活用した院内POS(Point of sales)とも言うべきシステム化を図った。すなわち、医療材料がどこの病棟や部署に何個あるかは(ストック)、オンライン在庫管理システムにより即時に参照でき、さらに発注管理から物流統計までの医療材料の動き(フロー)がシステム化できた。これらのデータは、病院経営資料としても活用されている。

3・3 診療録のイメージファイリング
 鹿児島大学では光ディスクを利用した診療録のイメージファイリングシステムを構築している。このイメージファイリングシステムは、病院情報システムのホストコンピュータと直結しており、オーダリングシステムの全部の端末から利用でき、診療録をイメージとしてファイリングし、自由に検索・表示できる。

3・4 薬剤疫学データベース
 疾病治療における薬剤、特に新しい薬剤には大きな期待が寄せられるが、同時にその副作用出現には細心の注意が必要である。そこで、薬剤のもつベネフィットとリスクのバランスを適正に評価し、副作用の発生を未然に防ぎ薬剤を適切に活用することが重要であり、システム化は急務である。実際に市販後の薬剤はさまざまな病態の患者にさまざまな状況にて投与されており、そのデータを正しく分析し評価するには、情報科学的アプローチによるデータベースの構築とそのテクノロジーアセスメントが必要かつ重要である。
 病院情報システムには、すでに患者情報(年齢、性別など)、診療情報(病名、検査結果、アレルギー情報など)、薬歴情報などがデータベースに蓄積しており、これらを薬剤疫学に活用することが可能である。

3・5 病院経営管理システム
 医療を取りまく厳しい医療環境のもとで、病院情報システムのデータを病院経営管理システムに活用することが必要となってきた。部門別原価計算をめざした管理会計システムを導入するには、病院情報システムに蓄積されたオーダリングデータベース、物流データべ一ス、医事会計データベースなどの情報を活用することが不可欠である。さらには、これらの情報を活用した予算システムのシミュレーションが行える。

4 おわりに
 病院の情報化の展開は、最初医事会計へのコンピュータの導入からスタートしたため、保険制度のシステムの制約を受けてきた。しかし、総合的なオーダリングシステムの構築により、データの一元化による情報の精度の向上と共に、情報の共有化、標準化、客観化が実現し、情報の質の向上が可能となってきた。これからは、医療そのものの質の向上を図るため、医療情報の質の評価が必要である(図2)。

図2 医療情報システムの展開

 医療を取り巻く環境に素早く対応し、限られた資源の中でコストパーフォマンスを考え、病院機能の効率化・最適化をめざし、医療そのものの質的向上を図るには、医療情報の統合化による円滑な伝送・処理が必要である。この点からも、今後ますますオーダリングシステム、病院情報システムに対する期待は大きくなるとともに、病院の健全な運用・管理に対して情報システムが如何に寄与できるかが問われている。

【参考文献】
1)熊本一朗、他:オーダリングシステムによる病院情報システム.日本病院会雑誌、38:45-48.1991.
2)宇都由美子:看護情報のシステム化.医学書院.1992.


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