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第4回日本医療用光カード研究会論文集、17-18、1993年

[教育講演]

画像情報と情報媒体

金子昌生
浜松医科大学放射線医学教室

【はじめに】

 従来,医療における画像情報は,いわゆるレントゲン写真が主体であり,アナログ情報が,大部分であった。CTの出現以来,画像情報のディジタル化が進み,その情報媒体は,まだ主体はフィルムであるが,電子媒体へと移行する傾向が出て来た。
 医療の現場における画像情報の種類とその取扱い,将来的に情報媒体が,どのように位置付けられ,保管とその活用が,如何に行われていくであろうかを考えてみたい。

【画像情報の種類】

 画像診断に用いられる画像情報には,その得られる方法につき,被曝を伴うものと伴わないものに大きく分けられる。

1.放射線被曝を伴う画像診断法
1.1 X線一般撮影 胸部,腹部,骨格系,乳房撮影等
1.2 造影検査 消化管透視,泌尿器系,胆道系等
1.3 脈管系連続造影検査
 心・大血管(シネも含む),大動脈分枝の選択的血管造影,DSA(ディジタル・サブトラクション・アンジオグラフィ)
1.4 CT(コンピュータ断層撮影)
 単純CT,造影剤エンハンス(増強)CT,ダイナミックCT,ヘリカル・スキャン
1.5 核医学検査(放射線医薬品による検査)
 プラナーシンチグラフィ,SPECT(シングル・フォトン・エミッションCT),PET(ポジトロン・エミッションCT)

2.放射線被曝を伴わない画像診断法
2.1 超音波診断(US)
 結石の診断,嚢胞の鑑別診断,ルーチン化,カラー・ドップラー(血流表示)
2.2 磁気共鳴画像(MRI)
 水素原子濃度,T1,T2強調画像,流速,MRアンジオグラフィ
2.3 ダイアファノグラフィ
 可視光による乳房診断,LTPS(レーザー・トランスミッション・フォト・スキャン)

【画像情報の特徴】

 画像診断に用いられる画像情報には,診断過程において,安全性が確保されていなければならず,より効果的なものであるべきである。その為の有効なシステムとしての特徴がある。特に画像そのものだけでは画像情報とは言えず,画像を読影して解析し,画像診断をして始めて画像情報と呼ぶべきである。即ち,理想的には,画像診断レポートにKeyとなる画像がついているものが望ましい。

1.臨床各科で各患者について画像診断に何を求めているか
1.1 臨床情報(主訴・経過・診断名等)
1.2 正当化(Justification)
 被曝のない検査で同等の検査が出来ないか検討、適応(Indication)を徹底させる。

2.最小の障害で最大の効果(被曝の面でも経済的にも)
2.1 最適化(Optimization)被曝量の熟知,検査法の熟練
2.2 女性患者の検査
 10日則(10day rule)検査医がチェックすること(月経開始後10日以内)
2.3 医療被曝では線量当量限度はない
 これは医師に最終判断が任されていることを示す。無駄な被曝をさせない。患者には被曝のデメリットに比べ,診断治療に対するメリットがはるかに大きい利点がある。女性の腹部検査時,胎児被曝には慎重でなければならない(胎児は患者でなければ一般人の範疇に入る)

3.各種の診断方法(Modality)機器のコンピュータ接続の共通性
3.1 インターフェイス
3.2 ACR−NEMA
3.3 PACS(Picture Archiving and Communication System)
3.4 画像の保管・管理システム(on line)
3.5 IS&C(Image Save and Carry)(off line)
3.6 フィルム・レス時代の到来
  i)セキュリティの確保
  ii)再現性・互換性
 iii)共通利用
  (電子保管の媒体として認められる条件)

4.法的にも万全の体制
4.1 健康保険対応
4.2 インフォームド・コンセント
4.3 安全性の確保
 機器,人員,スタッフの協力体制も含めて
4.5 診断には報告書が将来必須になる
 Authorized Report 法的に承認されたもの

5.専門医のネット・ワーク
5.1 お互いの専門性の活用(方法論,臓器別)
5.2 オーダリングおよび院内ネット・ワーク(レポートの早期伝達)
5.3 病院間ネット・ワーク
5.4 病診連携

【情報媒体】

1.情報量
 画像情報の媒体として,先に述べたレントゲン写真はアナログ情報であり,平均的に空間分解能をマトリックスに等価として評価しても2900×2900と大きなものになる。一方,ディジタル画像では,核医学(NM)の画像では128×128であり,超音波(US)や磁気共鳴画像(MRI)では256×256,コンピュータ断層撮影(CT)やディジタル・サブトラクション・アンジオグラフィ(DSA)では512×512とアナログ画像に比べて,はるかに小さいのが特徴である。最近は,レントゲン写真もディジタル・ラジオグラフィとして,Computed Radiography(CR)が普及して来ている。情報量は圧縮しても1024×1024以上のマトリックスであり,ピクセル当りのビット数は10である。そして,その画像当りのバイト数は10.57Megabyteとなる。NMやUSは6ビット,CT,MRIが12ビット,DSAは8ビットである。バイト数はCRに比べれば,1以下ではるかに小さい。

2.情報媒体の種類
 アナログの情報はフィルムにそのまま記録され,それが情報媒体そのものである。
 ディジタルの電子媒体として,磁気テープ(MT),光ディスク(OD)や磁気光ディスク(M0D)ヘとその記録容量はどんどん大きくなっている。先に述べたIS&CはMODの一つであり,5インチのものが規格化されているが,3.5インチでさらに濃密なデータ保管が可能になろう。医療の世界では,原則的に書き換え不可のものが使用されるべきである。特に電子媒体の保管ではデータの改ざんを防ぐセキュリティ機能を持つ必要がある。
 名刺サイズの光カードは,追加可能型WORM(Write Once Read Many)と再生専用型ROM(Read Only Memory)のものがあり,いずれも書き換えは出来ない安全性を有し,標準化も達成されている。記録量も最大2.5Mバイトあり,バイト数の小さい画像は充分収録され,レポートも文字情報として付加出来るので,その安価性と手軽さにより病院と診療所間の病診連携に適している。

【おわりに】

 現在,画像を産出する大部分の医療機器は,コンピュータの互換性はなく,記録された画像情報も各社ばらばらである。標準化されてセキュリティが確保され,再現性・互換性そして共通利用可能なメディアが出現して来てフィルム・レス時代の到来が目前にある。

【参考文献】

 金子昌生:デジタル画像の圧縮・蓄積・転送・読影・報告書作製への適合性に関する評価研究,平成元年度文部省科学研究費一般研究A課題番号61440047研究報告書1990.


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