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第4回日本医療用光カード研究会論文集、19-20、1993年

[一般演題1]

献血における光カードの応用

○田村弘侯・関口定美 北海道赤十字血液センター
東福寺幾夫 オリンパス光学工業(株)

はじめに

 献血者は成分献血の導入以来、頻回献血を行ういわゆるrepeat donorが多くなり、献血を受ける血液センター側もこれらのdonorを安全な血液提供者として期待すると共に、その対応についても変化が求められている。
 具体的には、随時蓄積する献血者の各種個人データは献血者自身の健康管理に利用できるばかりでなく、血液センターは献血方法、献血に用いる機械の選択などにも応用することができ、この接点を結ぶものとしてカードシステムを考えてみた。
 今回は、“献血における光カードの応用”として実験的に試みているわれわれの経験を紹介する。


I.研究計画

 本実験の研究目的を達成するための方法として、次の3つのフェーズを想定した。

フェーズ0(1991年11月〜1992年4月)
血液センター(以下「母体」という)に限定した職員を対象とする小規模実験による定性的実験
フェーズ1(1993年3月〜1994年6月)
母体・献血ルーム等の固定施設で成分献血者(モニター)を対象とする拡大規模による定量的実験
フェーズ2(時期未定)
移動献血車等まで拡大した広域での運用実験
 フェーズ0の実験過程については、第3回の本総会で報告をしているため、ここでの紹介は省略する。


II.システム構成

 2.1 カードの利用形態

 光カードの利用方法としては、特に次の事項に配慮した。

  1. 健康管理の有効的利用から献血回数30回以上のrepeat donorを対象とし、30回未満の献血者は現行の手帳を使用する。
  2. 献血の都度、カードを封入し郵送する作業を省き、前回分のデータは固定施設で書き込み直接本人に返す方式とする。
  3. 献血者カードの中身を本人が見れるようサービス端末を設置する。
  4. 光カードは、全国同一システムが最大のスケールメリットであるため、統一システムとのマッチングを図る。

 2.2 構  成

 本システムの構成は、光カード(献血者自身が保有)カード操作システム、フロッピーディスク、血液センターホストコンピュータとし、光カードを用いたデータ照合のための操作システムの構成は、次のとおりとした。

  1. 本 体        PC9801(NEC)
  2. ディスプレイ     カラー,14インチ
  3. 光カードリーダライタ XLCS(オリンパス)
  4. プリンタ       PC−PR201H2
  5. タッチパネル     液晶ディスプレイ付光学式タッチパネル
 これにより、献血者本人による操作が可能となり、血液センターからのお知らせ、次回献血可能日の表示、そしてクイズ等のメニューを用意することとした。


III.現状報告

 3.1 方  法

 フェーズ1(拡大規模による定量的実験)においては、モニター約1,000人(献血回数30回以上のrepeat donor)を対象に固定施設(母体・献血ルームなど)における光カードの使用状況と端末機の操作性や情報内容に関するアンケート調査を行い、献血者の問題意識を調査することにした。

 3.2 アンケートの調査結果 (1992年2月〜同6月)

 モニター319人の中、来所延数は1,242回でその内、光カードの使用回数は延べ637回、一人当り平均3.89回の使用(利用率51.3%)であった。
 延利用が2,511回であったが、項目別には前回献血(検査)情報715回(28.5%)、グラフ・印刷595回(23.7%)、インフォメーション252回(10.0%)そしてクイズ310回(12.3%)であった。これらにより特に検査情報に関心が集中していることが分かる。
 アンケート調査でも、健康で気になる部分の問いには、コレステロール30%肝機能23%血圧21%肥満15%貧血5%の順となっており、更に、今後の検査希望項目としては、病気の予防に関すること40.7%糖尿病検査30%検査異常値に対するアドバイス24.1%などが出てきており、血液センタ一に予防医学の分野での業務を期待する献血者が多かった。
 また、検査項目の追加希望も多く、糖尿病・尿酸・中性脂肪と明記していることの他、ハード面では固定施設以外での活用と医療機関との有機的な連動を望む声もあった。
 モニターは、献血回数30回以上のrepeat donorを無作為に抽出し依頼したが、モニター以外の同回数以上の献血者から強い利用の要請と苦情があり、当面10月より更に1,000人を増やし上記3.1の方法と同一の条件により協力を願うこととしている。


IV.結  論

 以上のことから、健康で安全な献血者からの献血を増加させるためには、次の観点からの推進を図るべきであると考える。

  1. 過去の検査履歴から安全な献血者かが確認できるrepeat donorの増加を図る。
  2. 献血者からの健康相談や検査異常者からの問い合わせに対するfollow upの体制を考える。
  3. 検査項目について追加出来る項目がないかを検討する。
  4. 献血者の約75%が移動献血車での献血であることから、サービス端末機の搭載を検討する。
  5. 地域・企業での定期的な健康診断の結果と、献血時の各検査結果を有機的に連動させ、トータルな健康管理に活用出来るよう検討する。


V.将来計画

 当面は、アンケート調査によりモニターから出された希望項目のシステム組み入れとシステム改善、それに健康管理に役立つ項目の追加等の検討に傾注するが、併せて当初計画の広域運用実験であるフェーズ2の次の項目についての研究にも着手する予定である。

  1. 移動献血車でのカードの利用
  2. B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスキャリアクリニック及び貧血クリニックでの応用
  3. 医療・保健・福祉面での活用


VI.まとめ

 光カードは、献血者自身の健康管理への利用の他、血液センターにとって安全確実なrepeat donorの確保と適切な献血方法、又は成分献血機器選択のうえからも極めて有用なものである。
 今後は、システム開発・カード発行費の極少化に向け努力することの他、現在の献血者表彰制度との関連等から、赤十字全体としての検討に入れるよう努力したいものと思っている。


文  献

1)関口定美、木本知子:血液センターにおける電算化.日本輪血学会雑誌.第35巻第5号.
2)関口定美監訳:輸血学における研究の展望−アメリカ血液銀行協会シンクタンクからの報告−.北海道赤十字血液センター,1991.
3)関口定美、田村侯弘:光カードシステムによる献血者の管理.臨床検査.第37巻第6号.


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