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第4回日本医療用光カード研究会論文集、21-22、1993年

[一般演題2]

光カードを用いた外来妊婦指導システムの臨床応用

○原量宏、柳原敏宏、神保利春
香川医科大学母子科学教室

はじめに
 従来より妊婦外来においては,通常の妊婦検診にくわえ,妊娠週数ごとに注意すべき点や,個々の妊婦の症状やリスクに応じたきめ細かい指導が必要とされている。しかしながら,大学病院や妊婦の多い施設においては,医療スタッフの制限もあり,母親学級など妊婦全体を対象とした指導をのぞき,個々の妊婦への指導が十分に行われていないのが現状である。また小規模の診療所においても,専門の医療スタッフ(助産婦,保健婦)の数が不足しがちで,やはり十分な妊婦指導は行われにくい傾向にある。そこで,もし妊婦外来における待ち時間を,医療スタッフのかわりに,コンピューターを用いて,個々の妊婦指導に有効に利用することができれば,妊婦および医療スタッフにとってはもちろん,周産期医療の向上に役立つと思われる。すでに本学会で発表したように,我々の施設においては,約4年前より光カードによる外来妊婦管理システムを開発,導入しており,周産期管理に非常に有効であることを確認している。日本母性保護医協会情報処理委員会においても,母子健康手帳の光カード化を検討しており,現在委員会内の約10施設においてフィールドワークを行っている段階である。これまでの妊婦管理システムでは,医師および助産婦が,検診データを外来で光カードに入力し,その場で直接妊婦に妊娠経過,胎児発育の状況を画面で説明する方式であり,どちらかといえば,妊婦管理を目的とした医学的データの入力,表示が中心であった。今回開発した妊婦指導システムでは,妊婦自身が光カードを挿入することにより,本人の妊娠経過が表示されることにくわえ,妊娠週数ごとの注意事項や,妊婦の不安,疑問点に応じて画面が順次表示されるようになっており,より妊婦を中心としたシステムとなっている。

1.外来妊婦指導システムの構成
 今回試作した光カードを用いた妊婦指導システムは,パソコン(PC9800)と画像表示ボ−ド,音声ボード,タッチパネル,ハードディスク,および光カードリーダー/ライター(オリンパス光学工業)から構成される(図1)。ハードディスク上には約150種類の画面,およびテキストが用意されており,妊婦の操作に応じて,音声とともに画像とテキストが表示される。本システムに利用するソフトは,基本的には光カードによる妊婦管理システムのソフトと画面展開用に新たに開発したソフトを組み合わせたものと考えてよく,ソフトの改良や画面数の増加などには容易に対応できる。

(図1)

2.光カード上の記録内容
 光カードに記録される内容に関しては,すでに本学会で報告したように,システム番号,妊婦氏名,ID番号,生年月日,住所,年齢,経妊回数,経産回数,最終月経,血液型など,いわゆる患者基本情報としての20項目にくわえ,来院週数ごとの体重,血圧,尿蛋白,浮腫,子宮底長,胸囲,超音波所見,骨盤計測値など約30項目である。現在は試験的段階でもありASCII形式で記録しているが,今後全国的に統一された記録フォーマットの確立が必要である。

3.妊婦外来における実際の運用
 本システムは妊婦外来の待合室に設置してあり,常時利用可能な状態になっている(図2)。妊婦が自分の光カードをカードリーダーに挿入すると,音声とともに“暗証番号を入力して下さい”と表示され,プライバシーが確保されるようになっている。妊婦が4桁の暗証番号を入力すると,「検診データ表示」と「妊婦指導」の選択画面が表示される。タッチパネルで検診データを選択した場合には,妊婦自身の体重増加,子宮底長,胎児発育,推定児体重・血圧・尿蛋白・浮腫の経時的変化が順次グラフィック表示される。異常値は把握しやすいように赤色などに変化し注意を喚起する(図3)。妊婦指導の項を選択すると,選択すべき妊娠週数が画面上に表示される。光カードから自動的に妊娠週数を選択したり,異常値などから特定の画面に展開することも可能である。初診〜11週の項を選択した場合には,つぎに「妊娠の生理について」,「分娩予定日について」,「診察及び検査について」,「妊婦の就労について」など12の細項目が表示される(図4)。図5は妊娠の生埋を選択した場合の4枚目の画面である。子宮内における胎児の状態がテキストとともにグラフィック表示されている。さらに続きの画面がある場合には音声でその旨伝えられるので,選択枝によりつぎの画面に進むことができる。この他に現在約130枚の画面が用意されており,母親学級の案内などあらゆる内容を表示可能である。このようにして,妊婦は来院時の待ち時間を利用して,週数に応じた注意事項や関心ある項目に関する理解を深めることができる(図6)。

(図2)


(図3)


(図4)


(図5)


(図6)


4.使用した妊婦の意見
 これまで実際に利用した妊婦の意見からは,自分の妊娠経過に関するデータはかならずみたい。一般的なデータだけでなく,自分のデータをみられることは非常によい。助産婦さんが忙しい時には,あたりまえのことを聞く時ためらいがあるが,そのような時に非常に役立つ。小児科など他科にもこのようなサービスがあるとよいなどであり肯定的な意見が多かった。改良すべき点としては,自分のみたい項目がどこにあるかわかりにくい。専門用語がわかりにくい。外国人にわかるように英語版があるとよい。すベての画面にイラストがある方がよいなどもっともな意見が多かった。

おわりに
 光カードを用いた妊婦指導システムに関して報告した。光カードを妊婦管理に利用しはじめていまだ数年しか経過していないが,その応用範囲は非常に広く,従来試みてきた純医学的な応用分野以外にも,今回報告した妊婦の指導など,より患者サイドに立った利用にも十分役立つことが確認された。今後分娩後の授乳,保育,育児の指導や,他科における慢性疾患の指導などあらゆる目的に応用できる可能性があり,この方面での検討が重要であろう。

(本研究の一部は文部省科学研究費No.03557071およびNo.05671373による)

文  献

1)原量宏,神保利春,他:光カードを用いた周産期管理,産婦人科の実際,40(12): 2007, 1991
2)原量宏,神保利春,他:周産期医療情報の管理システム,産科と婦人科,59(11): 1647, 1992


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