第4回日本医療用光カード研究会論文集、23-24、1993年 [一般演題3]
光カードを用いた社員健康管理システム
○三山博司、興津公恵、小林由美子 大日本印刷診療所 広瀬増雄、入田哲郎 大日本印刷(株)
はじめに
近年、健康管理に関する関心は深く、特に企業においては積極的に社員の健康管理を促進し、また責任も課せられてきている。健康診断の内容には法定の定期健康診断、企業が独自に行っている成人病検診が一般的であり、それぞれの健診データは時系列的に蓄積され個人の健康管理に大きな役割を果たしている。またこれら結果は各企業が独自の方法で個人に報告書の型で通知を出し、特にコンピュータで大量のデータを処理し保管を行っている所が多い。我々も数年前より結果報告、結果の保管及び日常の健康管理にコンピュータを活用している。しかしながらこれらのデータは企業のコンピュータに蓄積されるものの、その活用は医療側の一方的利用データになっており、社員自身が十分活用しているかは疑問である。そこで我々は光カードシステムを用い一部地域の社員2600名を対象に薬剤歴なども含めた蓄積データをいかに活用すべきかを検討し、実施したので報告する。1.社内健康管理の特徴と光カードシステム
社内健康管理は非常に限定した地域及びある意味において統制された集団に対する管理となる。一般住民や不特定多数を対象としたドックや住民検診とは検診項目はほぼ同様であるが方法、データの蓄積などに根本的に違いがでてくる。一般住民の場合個々人の自主性にまかされることが多く、個人の経過観察など難しいことも考えられる。一方社内健康診断では法定健診など社員は健診を受けることが義務付けられ、また成人病検診は社員の自主性とともに企業の努力によって受診率が高く、データ管理では一般健診に比べ容易な点がある。これらのデータ管理上容易な点は光カード使用に対しても有利な状況と考えられる。2.社内健康管理システムと社員のデータ活用
社内健康管理データは通常健診項目の蓄積であり、一般外来から発生するデータは入力していない。しかし健診データは個人の健康管理のうえで基本的なものであり極めて重要な情報であるとともに有意義に活用されなければならない。その活用とは医療側にとっては必要な項目を簡単に取り出し、疾患のfollow up及び疾患予防の指導などに使用できることである。一般的には健康管理情報をオンライン化し健診時や外来時などでその情報を活用、患者指導にあたることが多い。一方社員が自ら自分のデータを利用することも大切なことであり、企業によって配布された自己データを自ら保管し必要なときに持参し医療の参考にしてもらっている。しかしながら固定されたコンピュータ情報は医療側にとって診療場所に制約が生じ、また印字された情報は患者の自宅に埋もれ、実際にはうまく活用されていないものと考えられる。つまり健診の場所がどこであっても、そのコンピュータデータが利用され、患者データが自宅に埋もれてしまうことなく活用される方法が望ましく、光カードシステムは十分にその効果が得られるものと考えられる。3.光カードの携帯と社員証
光カードはクレジットカードと同じカードサイズで携帯性に優れており、大量の健康情報が搭載でき利用価値は高い。しかしこの医療光カードの利用頻度からみると健診時など極く限られることが予想され、たとえカードを使用するにしても使用頻度の少ないカードを一枚余計に携帯しなければならなく、意外に不都合が生ずる可能性がある。そこで我々は常に携帯することが医療カードの条件として検討した。
医療光カードは磁気ストライプ入りの社員証との併用とし、常時使用する社員証は表に、不規則な使用の光記録部は裏面に搭載した。主を社員証、従を健康データとし常時携帯カードとして利用価値を高めた。4.社内医療光カードの利用方法
社内医療光カードの利用方法は大きく分けて下記の利用が挙げられる。
1)健康診断時利用
健康診断時利用に関しては光カードに蓄積された過去データを参考に診察指導することは極めて大切であり、光カードシステムはそれらを簡単に行うことを可能にした。また光カードシステムはオフラインであるため、いかなる場所でも設置可能で、健診場所に制限がない特徴をもち、一時期に多数の健診を行っている我々の施設では大いに健診効果を高めた。
2)外部医療機関および緊急時利用
外部医療機関への利用については、光カードのリーダー/ライター(R/W)そのものが各医療機関に設置されていることが理想であるが、現状では非常に困難な状況にある。そこで光カードシステムを現実的に稼働させることを目的に光カードR/W、プリンターを会社内に設置し、社員自身がいつでも必要に応じ個々の情報を印字できるようにした。そのデータを外部医療機関に持参することにより各医療機関に光カードR/Wが設置されているのと同様の効果をもたらし、大きな役割が得られるものと思われる。また社員は今まで自分の健康管理データを自由に引き出すことが出来なかったが、光カードの使用でコンピュータからのデータ引き出しと同様の結果となり利用頻度が高まることが期待される。5.システムについて
1)社員証と医療光カード
顔写真の入った磁気ストライプ付きの社員証の裏面に16mm幅の光記録部を搭載し、記憶容量はおよそ1メガバイト(英数字約百万字)とした。(写真1)
写真1 光カード (光記録面)
(ID面)
2)システム機器構成
1ユニットは入出力ともマイクロコンピュータ(NEC9800)、CRTモニター、R/W(オムロン製)、プリンターの構成である。(図1)
図1 健康管理光カードシステム
6.光カードの入出力について
入出力は下記の項目である。
A:1 個人基本情報(属人情報)
2 嗜好歴、病歴情報など
3 定期健診情報(血圧、胸部X線など)
4 成人病検診情報(各種血液、心電図など)
5 精密検査記録(内視鏡、超音波など)
B:1 外来受診記録
2 薬歴記録
3 外来検査実施記録
4 血液経過観察記録(検診での異常値)
C:1 個人使用データ入力
Aは会社ホストコンピュータより自動的に、Bも診療所コンピュータから自動的に入力し、カードには7年間の情報を持たせた。Cは社員が自宅にて測定した血圧、脈拍、血糖、尿糖、一日の摂取カロリーなどのデータを社員自身で入力させることとした。出力
健診は診療3系統とし、各々にノート型コンピュータを置き、各系統にR/Wをケーブルでつなぎ、患者の光カードデータを次々に読み取りながら同時に出力を行うシステムとした。また数種類のセットメニューを設定できるようにし必要なデータを短時間に検索できるようにした。画像診断は心電図波形のみを表示した。
外部医療機関へのデータ出力では、3年間のデータの時系列表示を中心に薬歴、心電図波形も記載し印字した。おわりに
光カードを用いた社員健康管理システムについて述べた。基本的にはコンピュータに蓄積された健診データは社員一人一人のものであり、いかにそのデータを活用するかについて検討し、データの引き出しを光カードで行い運用した。今回のシステムは社員が自分の健診データを貯金し、蓄積されたコンピュータから自分の健康情報を光カードに引き出し、通帳に書き取るシステムとも言える。また社員証と光記録部の併用は大きな特徴の一つでもあった。一方健診時では自分の経年的データを見ながら医師に相談指導を受けられることができ、光カードを携帯することにより社員は常に自分のデータを引き出せるという安心感とともに自分のデータがどのようなものであるかに興味をもち、健康に留意することが期待される。