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第5回日本光カード医学会論文集、13-14、1994年

[特別講演(II)]

健診システムへのSDI値導入

○新谷和夫・小田福美・山田輝男
東京簡易保険総合健診センター

 目的:健診システムでの大きな課題はデータの施設間差であるが、機器、試薬の変更によって同一施設内でも新旧データを単純には比較できない事態が発生している。この対策としてSDI(Standard Deviation Index)1)値を導入して施設間ばかりでなく施設内でもデータの互換性を図る。これは将来的にICカード、光カード等の媒体を導入するためにも不可欠の前提条件である。

 方法:当センターで実施している検体検査項目について国際試薬MCPのパラメトリック法で処理し分布形を決定し、必要ならば変換を行い平均値、標準偏差などを決定する。この際SDIは下記の式から算出する。

 SDI=(測定値一平均値)/標準偏差

 なお、コンピューターには実測値とSDI双方を記録する方式として敢えてSDIのみとはしなかった。

 結果:検体検査項目は当施設で日常実施している47項目とし、最終的に1169名のデータから分布形、参考正常域を決定した。表1に血液学的検査と血清学的検査を除いた31項目の生化学的検査の結果を示す。なお、表中*で示した項目は試薬メーカーの基礎データを採用しており当施設固有のものではないが、例数を追加して検討の予定である。

表1・生化学検査正常値
項目正常値分布型
 BUN10〜24CURT
 CRE男 0.5〜1.0
女 0.4〜0.7
SQRT
SQRT
 UA男 3.5〜8.4
女 2.6〜6.5
正規
SQRT
*T−CHO130〜250CURT
 HDL−C31〜86対数正規
 TG32〜177対数正規
 アポAI110〜201対数正規
 アポAII27〜48CURT
 アポB48〜124SQRT
 B/AI0.26〜0.87X^(1/4)
 GUL65〜1101/X^2
 FRA216〜2871/X^(1/4)
 T-BiL0.3〜l.2CURT
 ALP103〜311対数正規
 GOT12〜351/X
 GPT9〜541/X
 LDH113〜2251/X^(1/4)
*γ一GTP男 62以下
女 30以下
1/X^(1/4)
対数正規
 CHE202〜434SQRT
 TP6.7〜8.31/SQRT(X)
 ALB4.1〜4.8SQRT
 A/G1.2〜1.8SQRT
 ZTT4.5〜11.5SQRT
 Na138〜1461/X^2
 K3.6〜4.81/X^(1/4)
 CI99〜1111/X^2
 Ca8.5〜9.7対数正規
 IP2.5〜4.5正規
 Fe男 50〜206
女 25〜166
SQRT
正規
 TIBC男 254〜413
女 264〜448
1/X^(1/4)
1/X
 AMY45〜159X^(1/4)

 以上のような基礎的検討結果を得て、受診者面接も数値情報だけでなく、SDIによるグラフを活用しているが解り易いということで評価も高いものがある。

 また、当施設は開設後日も浅いので、経時的な変化を示すグラフなどは他施設のデータを借用してシミュレーションを実施したが良好な結果を得ている。勿論借用した数値データに当施設の基礎データを適用しているから正しい意味でのSDI値ではないが、逆に測定法の変換などが指摘できる場合もあり興味ある結果が得られている。もし各施設が測定時のSDlを記録しておけば、本システムはそのままで正しく変化を再現できる事になり一層有効性が高いものになる。

考察:

 1) 互換性:検査値の互換性は最近特に関心を集めているが、その一つは測定法の標準化を目指すものであり、へモグロビンのように国際標準法2)の確立されたものはそれだけで十分互換性が確保されるまでに至っている。
 他は、本報告の示すように測定値になんらかの変換を加え互換性を確保しようとするものである。これは同一症例を長期間にわたって追及する際には特に有効で、正常者群の分布の中でどの位置を占めるかを示し、測定法の変更などにはあまり左右されない利点がある。古くはへモグロビンのザーリー法のように正常を100%として表現する方式は臨床医に広く受け入れられてきた。SDI法では平均値が0で示され、それから標準偏差換算でどの程度離れているかを正、負の記号をつけて表現している。これをザーリー法同様に%単位で表現する試みもあるが本質的な相違ではなく、計算上の問題よりも臨床医の理解を主体に考えられたものである。いずれの場合もデータが正規分布する場合は問題無いが分布形が異なる際は変換操作が必要になる。

 2) 変換のタイミングについて:数値データがコンピューターに記録されるときに一回だけSDI変換が実行され以後の再計算は実行不可能とする必要がある。測定器や試薬の変更で正常値に関する基礎データが変更された後も前データの再計算が可能だとすると収拾できない混乱が予測されるからである。このことはシミュレーションでも確かめられている。

 3) SDI値の利用法について:健診の場で正負の記号の付いた数値を直接受診者に示すよりもグラフ化する際に利用することが有効で、当施設ではSDI-Plotとトレンドグラムに利用している。受診者は自己の詳細な数値データよりも、正常グループに対し自分はどのような位置にあるかを知ることを希望しており、その点で本法は十分な満足を与えている。

 4) 今後の利用形態:同一施設で受診する限り受診者情報は施設に保存されているが、勤務の都合での移動が増加している現状を認識すると、受診者が自らデータを保管し必要に応じて近隣の医療機関で受診できる体制が望まれている。I Cカード、光カードなどの媒体の研究も進展しておりその際SDlを記録すれば互換性の面で大きな前進が期待できる。現在予算的な面で実現を見ていないが、光カードの試験段階では大いに有望な結果を得ておりその正式実施が望まれる。

 結語: 健診システムにおけるSDI利用の実例を報告し、その有用性について確認した。このようなデータの共通表示は臨床検査データの長期保存を考える際先ず解決しておく必要があり、今回我々は実際例を提供できたが今後は施設間での相互利用についての研究が必要である。

文献

1)丹羽正治、清水裕史、高橋為生:臨床検査データの共通表示法,臨床病理特集(84):39-59, 1990
2)ICSH:Recommendations for reference method for haemoglobinometry in human blood and specifications for international haemoglobincyanide reference preparation,Clinical LaboratoryHaematology, 9:73, 1987


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