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第5回日本光カード医学会論文集、19-20、1994年

[一般演題2]

光カードを用いた周産期管理のフィールドワーク

○原量宏、柳原敏宏、神保利春
香川医科大学母子科学教室
日本母性保護産婦人科医会情報処理検討委員会

はじめに
 わが国においては,すでに50年前より母子健康手帳を導入し,妊婦が日本中いずれの医療施設に転院しても,それまでの妊娠経過が確実に伝えられる様になっている。もし光カードを”母子健康カード”として妊婦全員に配布できれば,個々の医療施設での利用にとどまらず,全国すべての施設において共通にデータの利用が可能になる。また最近医師の高齢化,看護要員の不足などにより,分娩の取り扱いを中止する施設が増加しているが,光カードの導入により医療情報の流れを円滑にすることができれば,妊娠・分娩管理を診療所と病院が一体化した形で行うことが容易となり,病・診連携にも役立つ。光カードは周産期管理以外にも,新生児・小児の健康管理を目的とした”児童カード”や,子宮癌・乳癌検診など女性一生の健康管理を目的とする”女性カード”としての利用も考えられている。日本母性保護産婦人科医会情報処理検討委員会では,これらの点に注目し,平成元年度より周産期管理における光カードの臨床的意義とその将来性に関して検討を開始し,平成5年度においては,以前より懸案であった光カードリーダー/ライターによるシステムを,委員会内施設に実際に導入し,光カードを用いた拡大実験を開始した。光カードのデザインに関しても,従来の既成のカードにかわり,日母情報処理検討委員会のロゴ入りカードを試作し(図1),妊婦がより親しみを持てるカードを用いて運用を試み,母子健康カードとしての将来性が非常に期待できる感触が得られている。

(図1)

1.光カードのすぐれた点
 携帯可能な記録媒体としては,光カードの他にlCカードや磁気カードなどがあり,いずれの記録媒体を利用すべきか意見のわかれるところである。とくにlCカードに関しては,以前より行政主導の形で地域住民の健康管理などが試みられており,光カードとの優劣が論じられている。妊婦管理のみならず,将来における児童カード,女性カードとして長期間,かつ多様なカードの利用形態を考慮した場合には,データの記録容量が大きく、記録の永続性のある光カードが最も適した媒体と思われる。将来における画像情報や音声の情報など,広範な利用法を考慮した場合には,ICカードでは記憶容量のみをとっても不十分であり,医療情報の記録,とくに周産期管理においては、光カードが最も適した記録媒体と考えられる。

2.委員会内における光カードシステムの拡大実験
 光カードによる妊婦管理システムは,パソコン,光カードリーダー/ライター(オリンパス光学工業),およびハード・ディスクから構成されている。平成5年7月より委員会内約10施設に光カードシステムを順次導入し拡大実験を開始した。各施設の既設のコンピューターおよび周辺機器の状況に応じて機材を設置したため,システム構成は施設によってある程度異なるが,基本的には同一のシステムとなっている。運用開始前に,システムのハード・ソフト両面において機能することを確認した。導入の段階に応じて平成5年度にPhase 0,平成6年度にPhase 1の2段階の臨床テストを予定している。Phase 0では光カードシステムを各施設に導入し,システムを稼働させることに重点をおき,光カードを実際の診療の場で用いての問題点を検討した。Phase 1ではPhase 0で出た問題点に対応し,システムのハードおよびソフト上の手直し,および各施設ごとに対応した実験法を検討する。カード発行対象をなるべく多数の妊婦に拡大し,できれば施設間の妊婦移動例について,カード利用によるデータ移動の効果を検討する。さらに妊婦,医療スタッフ両者における意識調査などについても予定している。以下にPhase 0として,実際に光カードシステムを運用しての問題点に関して委員会内でのアンケート調査結果を報告する。

3.調査内容のまとめ
 拡大実験 Phase 0における各委員の意見をまとめてみると,光カードシステムの運用に関しては,ほとんどが外来診察室に設置されており,半数以上が診療中妊婦の前で入力を行っている。入力できない施設の理由としては,外来が多忙なため入力の時間がない,現有のコンピューターシステムとの整合性の問題で,入力が困難などがあげられる(表1)。

(表1)
光カードシステムの使用状況に関して
( 1)設置場所  外来診察室医師診察机近辺 6 (86%)
          院長室          1 (14%)
( 2)入力時期  診察中患者の前で     5 (72%)
          1日の診療終了時     1 (14%)
          他の時期にまとめて    1 (14%)
( 3)入力者   医師    6 (86%)
          看護婦   1 (14%)

 現時点では,限られた妊婦にのみカードが配布されている状況であり,妊婦の意見を分析することは困難であるが,外来診療中に入力,および画面を用いて妊婦に説明を行っている施設においては肯定的な妊婦の反応が得られている。医師,看護婦の側においても同様な傾向であり,Phase 1においてさらにカードの配布が増加した時点での検討が必要である(表2)。

(表2)
( 4)入力に要する時間 初回の妊婦基本情報入力 平均3.5分
             妊婦検診時の入力    平均2.3分
( 5)カード配布対象 担当する妊婦すベて 1(14%)
            その他の基準で   6(86%)
( 6)妊婦への説明  すべての妊婦へ   3(43%)
            必要に応じて    1(14%)
            していない     3(43%)

( 9)妊婦検診時の光カードの使用
             毎回       4(57%)
             時々       1(14%)
             異常のある時   0
             その他      2(29%)
(10)カードの管理  妊婦自身が保持   4(67%)
            病院で管理     1(33%)
            その他       0
(11)光カードに対する妊婦の反応
     興味をしめす  4(50%) *妊婦に見せている施設
     しめさない
     その他     3(50%) *妊婦に見せていない施設

 ハードウェアーの問題点に関しては,リーダー/ライターの価格が高い,音がうるさい,他のコンピューターシステムとの接続の問題など改良すべき点がいくつかあげられているが,光カードそのものに関しては,ほぼ満足できるとの意見が多い(表3)。

(表3)
(13)光カードシステムのハードウェアー上の問題点
「読み取り,書込みにはほぼ満足できる」
「操作性にとくに問題はない」
「常時たちあげておくには,音が大き過ぎる」
「カードの破損はない」
「従来から利用しているワークステーションとの接続ができないと,入力が二重手間になる」
「光カードリーダー/ライターは機種をとわず接続できなくてはならない」

 ソフトウェアーに関しては,多くの意見が出されており,Phase 1の段階までにできる限り改良をくわえる予定である(表4)。

(表4)
(14)光カードシステムのソフトウェアー上の問題点
「外来診療中に入カする時間がかかりすぎる」
「グラフを見てから入力ミスを発見することがある」
「入カすみのデータを補正できる様にしてほしい」
「梅毒,肝炎と同じ様に他の感染症の項目も作るとよい」
「尿蛋白,その他に(±)を入れてほしい」
「Hb,血糖値はその日には入力できないので,別の画面での入カがよい」
「グラフに縦線,横線を入れてほしい」
「Hbなどの推移もグラフ表示できるとよい」

おわりに
 本委員会においては,平成元年度より周産期管理における光カードの臨床的意義とその将来性に関して検討を加えてきた。平成5年度においては,以前より予算の問題で延期されていた,光カードシステムの拡大実験をようやく開始できる段階に至った。光カードのデザインに関しても,日母情報処理検討委員会のロゴ入りカードを試作し,妊婦がより親しみを持てるカードを用いた運用を試みている。次年度においては,引続きPhase 1として,ソフトウェアーの改良,開発,カード発行枚数の増加,複数の施設におけるデータの交換などを試みる予定であり,より充実した結果が期待できる。記録データの内容や記録形式に関しては引続き本委員会で検討を進める予定である。

(本研究の一部は文部省科学研究費 No .03557071およびNo. 05671373による)

文 献

1) 原 量宏:地域ネットワークとコンピューター,周産期医学,23(9):1268−1275,1993
2) 原 量宏:医療における光カードシステムについて,東京都医師会雑誌,46(10):1614−1619,1994


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