第5回日本光カード医学会論文集、21-22、1994年 [一般演題3]
光カードによる大学教職員の健康管理について
○谷合哲,小林紀子,中岡克子,金野滋 東京医科歯科大学保健管理センター 西堀眞弘 東京医科歯科大学医学部臨床検査医学 椎名晋一 国民健康情報研究所
はじめに大学には学生および教職員が,数千人から数万人就学あるいは勤務しており,保健管理センターではこれら多数の学生・職員の健康管理をしている。特に教職員は長期間勤務し,毎年の定期健康診断,成人病健診,各種特殊健診を受診し,保健管理センターにはこれら多量の健康情報が蓄積されている。しかし本人にとってはそれらがあまり利用されずに保存され,死蔵されているにすぎないことも多い。
そこでわれわれは,以前よりこれら多くの健康情報を光カードに記録し,本人に携帯させて,必要に応じて保健管理センターに来所させ、光カードから記録された健康情報をコンピュータ画面に呼び出して,健康相談,指導に利用することを試みている1)2)3)。しかし従来の光カード運用ソフトは,基本ソフトのMS-DOS上で動くソフトであって,操作性がやや繁雑であり,画面も美麗とまではいえないものであった。このたび開発された改良型光カード運用ソフトは「パワーUP健康情報システム」と呼ばれ,MS‐Windowsを基本ソフトとしており,画面がきれいで,分かりやすく,操作性も著明に改善している。大学の保健管理センターのように情報処理の専門家がおらず,ほとんど素人である医療職員でも操作可能であり,従来の光カード運用ソフトとは格段にグレードアップしている。今回これに切り替え使用したので報告する。1.研究の背景
椎名らは,患者が自分の過去の膨大な医療情報を持ち歩くことなく,また主治医に繁雑な病歴の中から有用な情報を選び出すための労力を強いることもなく,容易に情報を提供する手段として光カードを利用する方法について研究してきた4)5)。光カードは情報記録のための新しいメディアであり,フォーマットの方法をはじめ種々の研究がなされた。その後MS-DOS上で光カードによる健康管理,診療管理システムが開発され,実用に供されるようになった。われわれも本学教職員について健康管理のためにこれを運用し成果を得た。しかしMS-DOS版には画面上の問題,操作性の問題など限界を感じていたところWindows版による「パワーUP健康情報システム」が開発されたので,機能向上を目的として,従来から使用していたシステムをこれに切り替えて運用することを試みた。
3.システムの概要
2−1.光カード
光カードは,従来から使用している光カードビジネス(株)製で,大きさ85.6×54mm,厚さ0.76mm,記憶容量4.11メガバイト,ユーザ領域2.86メガバイトである。2−2.リーダライタ装置
リーダライタ装置は日本コンラックス社製LC-304型であり,書き込み,読み取り速度はそれぞれ147kbit/秒である。2−3.コンピュータ
コンピュータは日本電気社製パーソナルコンピュー夕PC-9821AP2 U8W(CPUi486TM DXクロック66MHZ)であり,内臓ハードディスク340メガバイトのうち120メガバイトに基本ソフトのMS-DOSVer5.0A-HとMS‐Windows3.1をインストールした(MS-DOS,MS-Windowsは米国マイクロソフト社の商標,i486は米国インテル社の商標)。2−4.光カードの運用ソフト
光カードを運用するためのソフトウェアはスタット社が開発したパッケージソフトである「パワーUP健康情報システム」であって,CPUはi486(66HHz)以上,ハードディスクは100メガバイト以上,グラフィックアクセラレータを搭載したパソコンで作動する。基本ソフトはMS-DOS Ver5.0以上,MS-Windows Ver3.l以上,Wingz Ver1.2以上で作動する。
情報処理の概要は,本人の基本情報として,氏名,性別,生年月日,保険証番号など。診療情報として病歴,検査情報,診断名のほか,治療情報として投薬,注射,手術,理学療法などを記載することができる。われわは健康管理の手段として応用するので診療情報を主とし,治療情報は利用しなかった。3.光カードの内容
3−1.光カード記入の内容
光カードには,まず個人を確定するための情報と,健康情報の基本となる情報が記入される。基本情報には,カード属性としてカード発行機関,発行者,発行年月日,所在地,電話などがある。本人情報として氏名,性別,生年月日,自宅住所,電話,勤務先,所在地,電話,郵便番号データベースからの住所の検索,保険証番号などがある。
健康情報としては,基本的な情報として,既往歴,予防接種,アレルギー歴,家族歴,常用薬などがある。大学教職員に対して行われる健康診断として,一般定期健康診断,成人病予防健康診断,特殊業務に要求される健康診断がある。
一般定期健康診断は年に1回ずつ行われ,身長,体重,血圧,検尿,胸部X線検査などの検査が行われる。また成人病予防のための健康診断として,心電図,胃レントゲン検査,貧血検査,血清コレステロール,中性脂肪,尿酸などの血液生化学的検査,肝機能検査としてGOT,GPT,アルカリフォスファターゼ,γ-GTPなどの検査が行われる。また,特殊業務上必要とされる検査には放射線を取扱う業務に従事するものに,末梢血の白血球とその分画,貧血の検査,白内障,皮膚検査が行われる。またVDT取扱い業務の職員なども特殊な検査を行っているので,これらの情報をカードに記入した。これらの情報は長期勤務者には長年の情報が蓄積されているが,とりあえず5年間の情報を記録した。
記入のための入力は,大部分の操作がマウスによって行われた。検査項目の選択,病名,診断名などはプルダウンメニューでマウスであり,選択しやすく,操作性が向上している。4.光カードの運用
4−1.光カードの配布と回収
光カードの運用は従来と同様に,あらかじめ蓄積された情報を記入し,本人に配布する。その後定期健康診断,特殊健康診断,その他の健康診断が行われるたびに回収し,新しい情報を追記する。この際保健管理センターでは携行している光カードと同等の光カードを使ってバックアップし保存する。他の施設で検査,診療を受けて追加記入されていれば,この時同時に保存用カードにもバックアップされる。4−2.健康指導
検査成績に異常があるもの,あるいは本人が健康診断情報について説明,指導を求めるものには予約により光カードを持参して来所させる。そして携行していた光カードの内容を読み出して時系列の表としたり,グラフにしたりして説明,指導する。グラフは任意の3項目につき任意の時点からさかのぼって10〜30回分を時系列グラフとして表示させ,図表上で指導する。この際データの内容を確認し,修正し,また追加記入することができる。5.将来の計画
5−1.コンピュータによる健康管理の一元化
光カードは個人の健康情報をカードに記録して携帯し,必要に応じて利用することを目的としているが,健康情報の管理にはすべての情報がコンピュータで一元的に管理され,その一部を光カードにより個人が利用するものでなければならない。そのため現在当保健管理センターではコンピュータによる一元的な管理を計画中である。5−2.入力法の改善
現在の状況では,われわれは個別のデータをマニュアル入力しているため大量にデータを扱うことができない。このソフトは,健康管理をコンピュータによって行っているならば,コンピュータから自動的にデータを読み取り,カードに記入する機能を付加することができるものである。しかし本学ではまだ完全なコンピュータ管理を行っていないので将来コンピュータ管理されたときにはこれと直結してデータを読み取り,手入力の操作を除きたいと考えている。5−3.指導,閲覧の効率化
現在のわれわれのシステムでは,指導や閲覧のとき画面上で表やグラフを用いて行っているが,その効果を十分発揮するためには,その一部を随時コピーしてもちかえり保有して繰り返し検討することが効果的と考えられる。今後随時コピーをとり指導に供したいと考えている。
文 献 1)谷合 哲,椎名晋一,西堀真弘:東京医科歯科大学保健管理センターにおける健康管理データの光カードによる管理について.第2回日本医療用光カード研究会論文集,33−34,1991.
2)谷合 哲,椎名晋一,西堀真弘他:光カードによる成人病予防健康診断情報の管理について.第3回日本医療用光カード研究会論文集,35−36,1992.
3)小林紀子,中岡克子,金野 滋,谷合 哲,椎名晋一:大学教職員の健康管理における光カードの応用について.第31回全国大学保健管理研究集会報告書,167−170,1993.
4)Shiina,S.,Nishibori,M.:Problem and solution in the clinical application of laser card.Proceedings of the 12th annual symposium on computer applications.600−601,1988.
5)松戸隆之,椎名晋一:光カードによる個人別検査情報管理の実際,臨床検査,38:1334−1340,1990.