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第66回日本光カード医学会論文集、15-18、1995年

[一般演題1]

献血における光カードの応用:第3報

○田村弘侯.関口定美 北海道赤十字血液センター
東福寺幾夫 オリンパス光学工業(株)

I.研究の目的

 献血は輸血を必要とする患者のために自分の血液を共債で提供するボランティア行為である。その血液の提供は、献血者本人の健康に何らかの障害にならないことと、提供される血液が輸血を受ける患者にとっても安全であることが必要である。
 このために、採血前には問診を含めた健康診断と安全性に対する検査が、採血後には安全な輸血を期しての精密な血液型検査と感染病原体の検査が行れる。1)
 一方、献血毎に行われるチェックまたは検査結果のデータは、献血者個人のチェックデータとしても活用することが可能で、血液センターではその一部を本人に通知している。2)
 本研究は、これらのデータをカードに蓄積することにより、血液の安全と献血者の健康離持の両方を確立すると共に、現在使用中の献血手帳をカードに変えることの実験研究を試みるものである。

II.研究の方法

 本実験の研究目的を達成するため、次の3つの研究計画を設定した。
[1]フェーズ0(1991年11月〜1992年4月)
       小規模による定性的実験
[2]フェーズ1(1993年3月〜1994年9月)
       拡大規模lこよる定量的実験
[3]フェーズ2(1995年2月〜現在)
       移動献血車等にまで拡大した広域的運用実験

III.研究の結果

 フェーズ0・同1(アンケート調査)については、既に前回までの本総会で報告している。3)
 ここでは、主として“献血による健康チェック”と献血手帳の代替を可能とする“リライト機能”について報告する。

1.献血による健康チェック
 献血者の安全は、問診・血圧測定を含む医師の検診と採血基準、成分献血時に実施される血球計数、心電図、尿検査によって守られている。
 これら献血前の検査、採血基準で献血を辞退して頂く方が男性で約3%、女性て約17%に達する.その理由で最も多いのは血液比重で、女性を精査すると全女性受付者数の4%が治療を必要とする鉄欠乏性貧血である。4)
 医師による問診で最も重要なのはHl V感染初期の感染者を除くことである。その対策としては問診の強化、自己中告制度の運用によっているが、この他にも総体の40%が輸血を原因とするC型肝炎、または輸血既往者については検査不能の未知ウイルスを除くうえから、輸血既往者の献血辞退をお願いしている。
 採血後の血液検査は、ABO型、Rh型、不規則抗体等の血液型検査と、B型・C型肝炎、成人T細胞、エイズウイルス、サイトメガロウイルス、それに梅毒の感染病原体検査が行われている。
 これらにより陽性の頻度は全体の5.3%(表1)であり、その病原体の有無を献血者に告知するか否かにより献血の対応が変るものである。

(表1)検査陽性者数
献血者数 185,290人
検 査 項 目人 数
HBs抗原
HBc抗体
HTLV-I抗体
(ATL)
HIV-1抗体
HIV-2抗体
HCV抗体
梅毒
774
1,525
1,040

24
39
818
720
0.42
0.82
0.56

0.01
0.02
0.44
0.39
肝機能
不規則性抗体
4,611
301
2.49
0.16
合計9,8525.32

平成6年度:北海道赤十字血液センター

 献血者の健康チェックを目的として、血液センターより報告される生化学検査・血球計数検査の異常者は表2・表3のとおりである.この中、健康チェックとしての意義のある項目はGPT値(疲労、肝障害因子の影響)、コレステロール値(栄養過多、運動不足による異常)等である。

(表2)生化学検査異常者数
献血者数 185,290人
検 査 項 目人 数
GPT
ALP
T P
ALB
BUN
CHOL
4,611
4,025
441
1,107
4,653
5,964
2.49
2.17
0.24
0.60
2.51
3.22
合 計20,80111.23

平成6年度:北海道赤十字血液センター


(表3)血球計数検査異常者数
献血者数(400ml、成分献血者)115,767
検 査 項 目人 数
WBC
RBC
H b
H t
MCV
MCH
MCHC
PLT
6,020
4,641
1,518
3,046
2,147
1,207
1,134
2,693
5.20
4.01
1.31
2.63
1.85
1.04
0.98
2.33
合 計22,40619.35

平成6年度:北海道赤十字血液センター

2.リライト機能
 カードシステム採用の要件としては、手帳的運用の存続をあげることが出来る。つまり、献血年月日・献血場所・献血種別・献血回数の表示である。
 これらについては、献血カードの表面にリライト典体を設定し(図1)、献血終了の都度、書き換えを行い、しかも献血種別毎の次回献血可能日とメッセージの表示を可能とするものである。

(図1)献血カード(表面)

↑   
リライト媒体 

IV.考察

 本年7月よりPL法(製造物責任法〉が施行され、血液製剤もその対象となった。その対応としては血液製剤の安全性と効率化を実施することが血液事業のコンセプトである。
 血液の安全性を確保するための手段は、B型肝炎、C型肝炎の発生率低下に見られるようにスクリーニングの強化が必要であり、確認テストに匹敵する感度と技術確保を行なうすれば、当然時間と労力を要することになる。
 従って、最も血液の需給に影響度の高い血小板製剤を考えるならば、受注生産的な対応しかなく、それには「需要に見合った採血」こそがキーワードとなる。
 血液の適正使用とは、資源としての血液の有効利用を目的とするものであり、患者にとっては輸血の副作用を避けることが第一である。これらを推進するためlこは、各献血場所での献血カードの有効活用が望まれる。

V.結論

 以上の結果・経過により、血液センター・献血ルーム等の固定施設における光カードの利用については、次の理由からほぼ使用の目度が立ったものと言える。

[1]光カードの発行の仕組みが確立出来たこと。
[2]光カードに献血者のデータを継続的に書き込む仕組みが確立出来たこと。
[3]献血者への光カードによるデータのフィードバックが献血者に受け入れられることが確認出来たこと。

VI.今後の予定

今後はフェーズ2として、次の各内容について継続的に実験研究を進める予定である。

1.広域での運用実験
 現行のシステムは、固定施設のカード利用を主体とするものであるが、献血者の約69%を占める移動献血車でのカード利用の確立も行なう必要がある。
 この形態においては、ノート型パソコン等によりカードの発行、献血申込書の出力、カードへのデータ書込み等の各業務を可能とすることとしたい。

2.医療機関等との情報の共有化
 献血光カードのデータは、献血時のみの利用ではなく医療機関または健康管理センター等においての利用を望む声が強い。
 しかし、このことを実現する場合、カード媒体、使用機器(R/W)、機密の保持、費用負担等、様々な問題、が所在する。5)

 献血光カードを利用する場合、カード保有者の合意のもと、FD又は出力表を利用すれば、特定項目については異なった機関のデータを時系列的に比較参照することは可能である。
 本研究では、この事の実現を目指し本年2月釧路市において「生涯健康管理を考えるフォーラム」を開催し、その検討に着手したところである。6)

文献

1)
関口定美、木本知子:血液センターにおける電算化、目本輸血学会雑誌.第35巻第5号
2)
関口定美監訳:輸血学における研究の展望 −アメリカ血液銀行協会シンクタンクからの報告一 北海道赤十字血液センター、1991年.
3)
関口定美、田村弘侯:光カードシステムによる献血者の管理、臨床検査.第37巻第6号.
4)
関口定美:献血者の健康チェックと光カードの可能性、月刊ばんぷう.1995年1月号
5)
関口定美他:健やかな長寿社会を実現するセルフインフォメーションシステム(SIS)の研究会1995年3月
6)
関口定美:生涯健康管理を考えるフォーラム「生涯健康管理、光カードの可能性」1995年2月

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