→目次へ

第6回日本光カード医学会論文集、19-20、1995年

[一般演題2]

母子健康カードの標準データフォーマット

○原量宏、秋山正史、柳原敏宏、神保利春
香川医科大学母子科学教室
日本母性保護産婦人科医会情報処理検討委員会委員

はじめに
 現在日本は世界で最も周産期死亡率の低い国となっており,その理由の一つに母子健康手帳による周産期医療情報の円滑な伝達システムが世界中から注目されている。したがってもし母子健康手帳の内容を,医療用カードメディアに記録し“母子健康カード”として妊婦全員に配布することできれば,全国の施設において共通に,しかもより効率のよい情報伝達が可能になり,周産期医療の向上に役立つ。全国産婦人科医師の団体である日本母性保護産婦人科医会(日母)においては,21世紀のあるべき周産期医療を考慮して,光カードの“母子健康カード”としての導入を積極的に検討しており,これまで全国約10施設において,共通の光カードシステムを用いた妊婦管理のフィールドテストを行い,その有用性を確認している。また平成6年度には光カードヘの記録形式,記録項目の標準化に関しても検討を進め“日母光カード標準データフォーマット”を作成公表しており,今後はこの標準フォーマットに準拠した光カードシステムおよびソフトウェアの開発と普及を促進することが最も重要な課題と考えている。

1.光カードの記録形式,記録項目の標準化の必要性
 “母子健康カード”を,わが国全体の周産期医療システムとして普及させるには,異なる機種やソフトウェアーを用いた場合でも,カード上のデータを相互に完全に誤りなく読めることが不可欠である。そのためには光カード上の記録形式と,入力される項目を完全に統一しておくことが最も重要である。

2.光カードリーダー/ライターの開発と光カードの国際標準化の現状
 光カード及び光カードリーダー/ライターの開発製作は現在ほとんど日本のメーカーが中心となっている。光カードの記録方式には,SIOC,DELA,オリンパス方式があるが,光カードの国際標準化に関しては,ISOの委員会においてDELAとSIOCの併記で決定される見通しであり,現時点において日本母性保護産婦人科医会ではSIOCを推奨する。

3.日母光カード標準データフォーマットの基本原則(表1)
 標準データフォーマットの基本原則に関しては,DOS,Macintosh等複数のOSで相互に読み書きできること。原則として1回の妊娠分娩に1枚の光カードを発行する。光カード1枚で多胎妊娠(分娩)に対応できること。各施設独自のデータ(施設間で共有しないデータ)も記録できること,などであり,光カードヘ入力する記録項目の選定に関しては,施設間で普遍的に利用すること,および入力時の簡便性を第一に考慮し,現在の母子健康手帳に記載される項目(妊婦氏名,生年月日,体重,血圧,尿蛋白,子宮底長など)に,超音波診断による胎児計測をくわえた最小限の項目としてある。

(表1)
日母光カード標準データフォーマットの基本原則
  1. DOS,Macintosh等,複数のOSで相互に読み書きできる
  2. 原則として1回の妊娠(分娩)に1枚あ光カードを発行する
  3. 光カード1枚で多胎妊娠(分娩)に対応できる
  4. 各施設独自のデータ(施設間で共有しないデー夕)も記録できる

4.光カード上のデータ管理方式
 光カードに記録するデータは,データの特性,施設における運用の差に応じて,複数のパーティション(最大4区画)と複数のファイル(9種類)に分けて管理する。
(1)パーティション管理(図1)
 第1パーティショノは全施設で共有するパーティションであり,患者基本情報,定期健診データ,血液検査結果などを記録する。日母光カード標準デタフォーマットによるカードには,本パーティションの領域確保が必ずなされている必要がある。第2パーティションは,外来診察時,もしくは分娩中に計測される胎児心拍数情報を記録する領域として利用する。第3,第4のパーティションは,施設から妊婦へのサービス提供の内容,画像情報,音声情報などの記録に利用される。第1パーティション以外に関しては,必ずしも設定する必要はない。

(図1)パーティション管理

(2)ファイル管理(表2)
 光カードに記録するデータは,(1)妊婦基本情報ファイル,(2)妊娠中の外来健診情報ファイル,(3)超音波検査ファイル,(4)血液検査ファイル,(5)骨盤計測ファイル,(6)入院/分娩情報ファイル,(7)新生児情報ファイル,(8)胎児心拍数情報ファイル,(9)その他のファイル(画像,音声,妊婦サービス情報)の9種類のファイルに分けて管理する。新たな診察によりデータが発生した時,もしくは以前のデータに更新,修正などが発生した場合,各ファイル共,各ファイル名のピリオドに続く3桁の数字(DOSでは通常拡張子の部分に相当)を001から順に1ずつ増加させてファイルを追加する。

(表2)
データは9種類のファイルに分けて管理する
  1. 妊娠基本情報ファイル
  2. 妊娠中の外来健診情報ファイル
  3. 超音波検査ファイル
  4. 血液検査ファイル
  5. 骨盤計測ファイル
  6. 入院/分娩情報ファイル
  7. 新生児情報ファイル
  8. 胎児心拍数情報ファイル
  9. その他のファイル(画像,音声,その他)

5.ファイル内のデータ項貫目の記述フォーマット
 上記した各ファイル内のデータ項目の記述フォーマットの詳細に関しては省略するが,非常に柔軟性にとんだファイル構造になっており,あらゆるシステムに対応可能となっている。妊娠中の外来基本健診情報ファイルの基本構造は,<データコード>,<データ項貫目名>,<実データ> <改行コード>(表3)であるが,ファイルの順は順番が異なってもよいようになっている(表4)。またデータ項目は各施設で検査を実施しているものだげを記載すればよく,たとえば浮腫を計測していない施設は(表5)のようでもよい。

(表3)
記述するレコードの順番は自由に設定できる
例)妊娠中の外来基本健診情報ファイル
11,診察日,”19951/20”<改行コード>
12,血圧(上),135<改行コード>
15,浮腫,++<改行コード>
17,母体重,50.1<改行コード>
30,診断,”早産の可能性があり,入院。”<改行コード>

(表4)
ファイルは以下のとおり順番が異なってもよい
17,母体重,50.1<改行コード>
11,診察日,”19951/20”く改行コード>
15,浮腫,++<改行コード>
30,診断,”早産の可能性があり,入院。”<改行コード>
12,血圧(上),135<改行コード>

(表5)
計測していない項目は省略してもよい
17,母体重,50.1く改行コード>
11,診察日,”19951/20”<改行コード>
30,診断,”早産の可能性があり,入院。”<改行コード>
12,血圧(上),135<改行コード>

おわりに
 日本母性保護産婦人科医会の母子健康カードヘの取り組み,光カードを採用した経緯,および”日母光カード標準データフォーマット”の概要に関して報告した。光カードはその記憶容量の大きさ,簡便性から,今回述べた周産期管理のみならず,新生児,小児の健康管理を目的とした”児童カード”や,更年期障害,子宮がん検診,乳がん検診など,女性の一生の健康管理を目的とする”女性カード”としての利用も期待されている。光カードに関しては,技術的な問題にくわえ,社会的・医療経済的にも解決すべき問題が多く残されてはいるが,日本母性保護産婦人科医会ではその第一歩として,母子健康カードの普及を積極的に進めている段階にある。

(本研究の一部は文部省化学研究費No.05671373,No.07671791,および日母おぎゃー献金基金研究助成費による)

文献
1)原量宏,医療における光カードシステムについて,東京都医師会雑誌46(10) 1614, 1994
2)原量宏,光カードの標準化,平成6年度日本母性保護産婦人科医会,情報処理検討委員会答申,1995, 3
3)原量宏,医療用光カードを用いた周産期管理システム,先端医療,2(2):2,5-27,1995


→目次へ