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第6回日本光カード医学会論文集、21-22、1995年

[一般演題3]

パーソナルコンピュータのデータベースから光カードに
データを転送するシステムの開発について

○谷合哲,小林紀子,中岡克子,金野滋 東京医科歯科大学保健管理センター
椎名晋一 国民健康情報研究所
西堀眞弘 東京医科歯科大学医学部臨床検査医学

はじめに

 光カードはレーザ光により,文字,数字,画像などの情報を,高密度に記録することができ,携帯にも便利なカードであり,種々の目的で応用されている。われわれも多数の学生・職員の健康管理を行う立場から,個人の過去の健康情報を光カードに記録して携帯させ,健康管理や医療に利用する方法として,光カードの利用を考え,種々の試みを行ってきており,その有用性を認めている1)2)
 われわれが使用している光カードの運用ソフトは,共同研究者の椎名とスタット社が開発したソフトである。1994年からこのソフトはWindows版にバージョンアップされて,「パワーUP健康情報システム」となった。このソフトは以前と比較して使い勝手が格段に改善し,また画面も明解で美麗となり,満足すべき運用ソフトと考えられる。しかし大学の健康管理に実際に使用する場合,健康診断や検査成績は既にパーソナルコンピュータで作成されたデータベースとして持っている場合が多く,これらのデータベースから再度光カードに手入力により転記することは,時間的・労力的に無駄が多く,また誤転記の可能性もある。そこで今回われわれは,パーソナルコンピュータにより作成されたデータベースから自動的に光カードに転記するシステムを作成し,運用を開始したので報告する。

1.研究の背景

 パーソナルコンピュータの外部記憶媒体としては,フロッピーディスク,ハードディスク,光磁気ディスク,CD-ROMなど種々の機器が開発されている。これらの記憶媒体はそれぞれ特徴をもち,用途に応じて利点あるいは欠点となる。これらに加えて最近開発された光カードは,小型で携帯に便利で,記憶容量が大きく追記型で,健康情報の記録には最適と考えられる。
 椎名らはこのような光カードを利用することにより,医療情報を本人に携帯させて,随時医療あるいは健康管理に利用できるように,種々の研究をしてきた。すなわち光カードのフォーマットの方法と,その統一について研究し,実用化に達した3)4)。これは基本ソフトであるMS-DOSで作動するので,パーソナルコンピコ一夕から情報の入出力が可能となった。また健康情報をコード化し,データベースソフトとして記憶したり取り出したりしてグラフ化することのできる運用ソフトを作成した。さらに近年パーソナルコンピュータの基本ソフトの主流がMS一DOSからWindowsに移りつつあ状況で,昨年 Windowlws上で運用できる「パワーUP健康情報システム」が開発された5)
 しかし実際の運用にあたってはまだいくつかの問題がある。そのうちの一つには,既にデータベースに入力されているデータを再度手入力することは,時間と労力の無駄が大きく,誤転記の可能性もある。そこで今回はこれを改善するためのシステムを開発した。プログラムの作成はスタット社に依頼した。

2.光カードおよび装置

 光カードは従来から使用している光カードビジネス社のもので,携帯可能で,大きさ85.6×54mm,厚さ0.76mmであり,記憶容量4.11メガバイト,ユーザ領域2.86メガバイトである。  リーダライタ装置は日本コンラックス社製LC-304型であり,書き込み読み出し速度はそれぞれ147kbit/secである。
 コンピュータは日本電気製パーソナルコンピュータ PC‐9821USW(CPUi486TM DX,クロック66MHz)であり,グラフィックアクセラレータを搭載し,内蔵ハードディスクの340メガバイト中,120メガバイトに基本ソフトのMS‐DOS Ver.5 0A-Hと,MS-Windows 3.1をインスールした(MS-DOS,MS一Windowsは米国マイクロソフトの登録商標,i486は米国インテル社の登録商標)。
 光カードの運用ソフトは,昨年から使用しているスタット社が開発したパッケージソフト「パワーUP健康情報システム」であり,データベースソフトWingz Ver2の上で作動するものである。

3.検査データの転送システム

3−1.転送システムの概要
 フロッピーディスクあるいはハードディスク内に,検査結果のデータベースをテキストファイルに変換して保存する。データベース内の漢字氏名,性別,を固定項目とし,転送する検査データの順番と個数のインデックスを作成しておく。リーダライタに挿入された光カードによってデータベース内のレコードを読み出す。読み出されたデータを画面で確認後光カードに書き込む。

3−2. 転送の実際
 転送元のデータベースは,パーソナルコンピュータPC9801用ソフトウェアである管理工学研究所製「桐」に入力されたデータである。あらかじめ新しい変換ソフトの中に検査項目の順番を定めたインデックスを用意する。データベース「桐」のデータをインデックスの順番に一致するように処理し,「桐」のデータ交換機能によりデータをHIS一D0Sテキストファイルとする。インデックスは1000種類記憶することができる。リーダライタに光カードを挿入すると,カードに一致するレコードがコンピュータに読み出される。読み出されたデータが光カードの同一人のものであり,検査データが正しく読み出されたか否かを画面上で確認する。確認後光カードにこのデータを追記する。
 記入後光カードは自動的に排出され,次のカード挿入の準備状態となるので,次のカードを挿入してデータベースから一致するレコードを読み出して確認し転記する。以後必要なだけカードを順次転送することができる。

4.カードの内容

 現在われわれは大学の健康管理に光カードを利用している。記録されている内容は基本情報として,氏名,生年月日,性別,自宅住所,電話などである。勤務に関する情報としては勤務部所,所在地,電話など,そのほか保険証番号などがある。
 既往歴としては既往疾患,予防接種歴,アレルギー歴,家族歴などがある。  主たる健康情報としては [1]一般定期健康診断,[2]成人病予防健康診断,[3]放射線取り扱者特別健康診断,[4]病原体に汚染する恐れのある部所の従事者の健康診断などがある。
 一般定期健康診断としては身長,体重,血圧,尿検査,胸部X線検査などがある。
 成人病予防健康診断としては白血球,赤血球,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板などの血液検査,GOT,GPT,Al‐P,γ一GTPなどの肝機能検査,総コレステロール,HDLコレステロール,尿酸などの生化学的検査が行われる。
 放射線取り扱い業務従事者の特別定期健康診断では,赤血球数,白血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,白血球分画などがある。
 感染の恐れの高い部所に勤務するものの特別健康診断としては,B型肝炎抗原・抗体検査のほか,肝機能検査,末梢血検査などが含まれる。
 今回の転送システムの運用ではこれらの4種類の健康診断の項目をそれぞれインデックスとして登録した。健康診断後まず検査データをパソコンソフト「桐」で全員のデータを記録し,データベースを作成した。これをフロッピーディスクあるいはハードディスクに保存した。このデータから各自への報告書,診断書,一覧表などの定型処理をする。
 検査後各自から光カードを回収し,転送を要する光カードをり一ダライタに挿入すると,テキストファイルのデータベースから個人の検査データを自動的に選び出す。これを画面上で確認し,カードに転記する。この操作を順次行う。管理しているカードに新しいデ一夕を転送後各自に変換し,ふたたび携行させる。

考察およぴまとめ

 健康診断を行った後には必ずデータベースソフトによりデータを記録し,一覧表,報告書,診断書,返送宛名などを作成するなどの一連の作業がある。
 従来光カードの記録はその後同じデータをデータベースから選び出して手入力により光りカードに書きこんでいた。この操作は極めて煩雑であり,そのうえ再度入力するため生ずる誤記入の可能性も大きい。
 今回のシステムはこの操作が大きく簡略化され,また誤記入の可能性はなくなった。またこのソフトは各種のMS一DOSデータベースでも,テキストファイルで保存されたデータベースであれば利用することができ,汎用性があり有用なシステムであると考えられた。

文献
1)谷合哲,椎名晋一,西堀真弘:東京医科歯科大学保健管理センターにおける健康管理データの光カードによる管理について.第2回日本医療用光カード研究会論文集,33〜34,1991.

2)谷合哲,椎名晋一,西堀真弘,小林紀子,金野滋:光カードによる成人病予防健康診断情報の管理について.第3回日本医療用光カード研究会論文集,35〜36,1992.

3)Shiina,S..Nishibori,Ml.:Problem and solution in the clinical application of laser card.Proceedings of the 12th annual symposium on computer applications,600〜601,1988.

4)松戸隆之,椎名晋一:光カードによる個人別検査情報管理の実際,臨床検査,38:1334〜1340,1990.

5)谷合哲,小林紀子,中岡克子,金野滋,西堀真弘,椎名晋一:光カードによる大学職員の健康管理について,第5回日本光カード医学会論文集,21−22,1994.


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