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第7回日本光カード医学会論文集、17-20、1996年

[一般演題1]

献血における光カードの応用:第4報

○田村弘侯、関口定美 北海道赤十字血液センター
東福寺幾夫 オリンパス光学工業(株)

I.研究の目的

 献血は輸血を必要とする患者のために自分の血液を無償で提供するボランティア行為である。その血液の提供は、献血者本人の健康に何らかの障害にならないことと、提供される血液が輸血を受ける患者にとっても安全であることが必要である。1)2)
 我々は、献血者サービスと安全な輸血用血液の提供に寄与するため、現在の献血手帳を光カードに切り換え、そこに記録可能な献血者データをどのように活用すべきかについて、研究を行ったので報告する。

II.研究の方法

 本実験の研究目的を達成するため、次の3つの研究計面を設定し現在に至っている。
[1]フェーズ0(1991年11月〜1992年4月)
       小規模による定性的実験
[2]フェーズ1(1993年3月〜1994年9月)
       拡大規模による定量的実験
[3]フェーズ2(1995年2月〜現在)
       広域での運用実験

III.フェーズ0及び1の研究結果

 血液センターが保有する献血者データは、本来献血者白身のものであるため、そのデータの還元方法として、記憶容量・改ざん防止・プライバシー保護を考慮し光カードを選定した。
 カードの体裁は、献血手帳的運用を前提に、表面には氏名・ID番号・血液型を表示し、更にはリライト機能を用いて、献血日・献血場所・献血種別・献血回数に次回献血可能日の書き換え表示を可能とした。図1)

図1)献血光カードのリライト表示項目

 1行目 サッポロイチロウ
 2   IDNo.02-201-23456
 3   血液型 AB Rh+
 4   08.01.05 血小板 117回
 5   08.02.15 血 漿 118回
 6   08.03.25 血 漿 119回
 7   献血日 08.05.29
 8   種別  400ml
 9   累計献血回数   120回
10   次回|200:08.28
11   献血|400:08.28
12   可能|血 漿:08.28
13   月日|血小板:08.28
14   北海道赤十字血液センター
15   電話 011-613-6121

 このカードを北海道センターと釧路センターのカードモニター約2干名に配付し、固定施設において受付システムと情報サービスシステム(時系列データの表示、健康情報一覧表の出力等)の利用、さらにはアンケート調査により、システムの利用状況・改善要望事項等の意見を求めた。

 その結果、以下の事項が確認出来た。3)

[1]光カードの発行の仕組みが確立出来た。
[2]光カードに献血者のデータを継続的に書き込む仕組みが確立出来た。
[3]献血者への光カードによるデータのフィードバックが献血者に受け入れられた。

IV.フェーズ2の進め方

 血液の安全性を確保するには、採血場所が固定施設・移動献血車の何れであっても、同一の対応が必要である。献血者数の約6割を占める移動献血車でのカード利用の確立と血液センター間の相互利用を可能とするため、以下により進めることとしている。

1.光カードシステムの全体構想

 光カードを移動献血の現場において活用する場合、ホストコンピュータ内の献血者データを如何なる手段で利用するかが課題である。この利用を可能とするため、サーバー方式(献血3回分で50万名分を保有)を導入することにより受付システムは固定施設と同一の運用処理とし、光カードの新規発行・データの書き込み・写真撮影及び検診医システムの運用が出来るシステムとする。図2)

図2 光カードシステム構成図

2.受付システム

 フェーズ1までの受付システムは、固定施設であるため、オンライン方式による端末機利用としていた。
 フェーズ2では、サーバーを用いたオフライン方式により固定施設・移動施設共に、光カードR/W、リライト装置を備えた機器構成で次の業務を行う同一の運用型式とする。

[1]献血申込書の自動発行
[2]光カードの発行
[3]前回献血検査データの書き込み及び献血履歴のリライト表示
[4]顔写真の撮影又は確認

3.顔写真撮影システム

 献血者本人の確認、または偽名による献血の排除を目的として、受付システムにデジタルカメラを接続させる。この事により、光カード内に本人の写真が内蔵され献血受付時または情報サービスシステム利用時の確認を可能とする。図3)

図3 顔写真撮影システム

4.検診医システム

 フェーズ1のアンケート調査結果のとおり、献血者の大半は、健康管理への関心が高く、かつその指導を望んでいる。そのため、光カードのデータを基とする検診医システムを開発し、ノートパソコン・光カードR/W・リライト装置の構成により、次の処理を可能とする。図4)

[1]検診医確認
[2]献血者本人確認
[3]献血履歴照会
[4]血液検査履歴照会
[5]ウイルス検査履歴照会
[6]問診履歴照会

図4)検診医システム

5.OCRシステムの導入

 受付システムにおける問診事項の正確牲確保、献血受付現場での入力作業の軽減を図るため、牲別・年令・問診内容・不可事項について、OCRによる自動読み取り方式の導入を図る。図5)

図5)献血申込書

V.今後の課題

 献血光カードのデータは、献血を行う時だけの利用ではなく、医療機関または健康管理センター等においての相互利用を望む声が強い。4)
 しかし、このことを実現する場合、カード媒体、使用機器(R/W)、機密保持、費用負担等、様々な問題、が所在する。5)
 本研究では、このことの実現を目指し医療機関等との情報の共有化について、検討を継続することとしている。6)

文献

1)
関口定美、木本知子:血液センターにおける電算化、目本輸血学会雑誌.第35巻第5号
2)
関口定美監訳:輸血学における研究の展望 −アメリカ血液銀行協会シンクタンクからの報告一 北海道赤十字血液センター、1991年.
3)
関口定美、田村弘侯:光カードシステムによる献血者の管理、臨床検査.第37巻第6号.
4)
関口定美:献血者の健康チェックと光カードの可能性、月刊ばんぶう.1995年1月号
5)
関口定美他:健やかな長寿社会を実現するセルフインフォメーションシステム(SIS)の研究会1995年3月
6)
関口定美:生涯健康管理を考えるフォーラム「生涯健康管理、光カードの可能性」1995年2月

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