→目次へ

第7回日本光カード医学会論文集、21-22、1996年

[一般演題2]

光カード直接書き込み型分娩監視装置の開発

○原量宏、秋山正史、柳原敏宏、神保利春 香川医科大学母子科学教室
山田直樹 オリンパス光学工業株式会社SI事業推進部

はじめに

 わが国における周産期医療の進歩は著しく,胎児および新生児が妊娠中,および出生後に死亡する率,いわゆる周産期死亡率は世界で最も低い水準(5/1000)に達している。胎児を障害のない健康な状態で出産させるためには,分娩監視装置による胎児心拍数の連続モニタリングが最も有効である。分娩監視装置が導入された当初は,装置の性能,台数の制限などにより,ハイリスク妊婦の分娩を中心に使われていたが,装置の普及と性能向上とともに,その利用範囲は急激に拡大し,現在ではすべての分娩時に利用されることはもちろん,妊娠中においてもNSTとしてスクリーニング的に広く利用されるようになっている。一方,分娩監視装置の利用拡大とともに,心拍記録用紙の保存と整理が大きな問題となっている。現在診療録の法的保存義務期間は5年とされているが,その期間に限って保存したとしても,保存スペースは膨大となり,病院運営上困難をきたしている。また最近の医事紛争の増加により、胎児心拍数の記録用紙は永久保存にすべきであるとの意見も強くなっており、心拍数情報の記録は緊急に解決すべき課題となっている。従来より胎児心拍数の記録に関しては,磁気テープや磁気ディスク上に記録保存する試みがなされてきたが,磁気媒体では,書き替え可能な点や,記録の永続性に問題があり,新しい記録媒体の出現が待たれていた。光カードは,記録の永続性と書き替え不能な点から,心拍数情報の記録に最も適した媒体とされ,その導入に大きな期待がもたれている。
 我々はすでに第2回本学会において,光カードヘの心拍数の記録に関して報告したが,今回さらに本システムに改良をくわえ,胎動信号の記録,多胎妊娠への対応,日母光カード標準フォーマットヘの対応,記録様式の標準化に関して検討した。

1.光カードシステムの構成
 今回開発したシステムは,分娩監視装置(トーイツ,MT‐332/33U/430)と中間デバイス,および光カードリーダー/ライター(オリンパス光学工業,CS‐2000)から構成される(図1)。分娩監視装置と中間デバイスはRS232CI/F(非同期式全二重通信方式,ボーレイト1200bps)で接続され,光カードリーダーライター(CS‐2000)と中間デバイスはSCSI I/Fで接続される(図2)。

図1 Direct Recording System of FHR using Optical Memory Card


図2

2.胎児心拍数,子宮収縮,胎動信号の記録方式
 胎児心拍数(ドプラ信号)は1秒4回,陣痛と胎動(ドプラ信号)は1秒1回のsampling rate(各データ8ビット)とし,スタートマーカーを含め1秒間に合計7バイト,1分間に420バイト,バイナリ形式として分娩監視装置から中間デバイスに送られる(図3)。多胎に関しては3胎まで対応可能で,スタートマーカー,第1児心拍数(ドプラ信号),第2児心拍数(ドプラ信号),第3児心拍数(心電信号),子宮収縮,第1児胎動(ドプラ信号),第2児胎動(ドプラ信号)の合計17バイト,1分問に1020バイトとして送られる(図4)。中間デバイスからリーダー/ライターヘは512バイトを単位として随時伝送され,光カード上の第2パーティション(SIOC形式,日母光カード標準フォーマット準拠)に記録される。なおリーダー/ライターのアクセスタイムは,読み取り速度:Max 15トラック/Sec,書き込み速度:Max 5トラック/Secである。

図3


図4

3.光カード上の記録様式
 光カードに記録されるデータは,先頭のインデックス部分(512Bytes)と測定データから構成される(図5)。インデックス部分には(1)患者ID番号,(2)患者名,(3)妊娠週数,(4)記録年月日,(5)記録開始時間,(6)製造メーカーコード,(7)機種コード,(8)記録様式(メーカー個別対応),その他が記録される。分娩監視装置の機種に依存せずに,何れの分娩監視装置にも対応可能となっている。データはアスキー形式で記録され,未定義エリアには全てスペースコードを入れる。測定データは,前述したようにスタートマーカーを含め心拍数と子宮収縮,胎動情報を記録する。

図5

4.成績  母子健康カードとして妊娠中からの諸データにくわえ,胎児心拍数を70時間以上記録可能であり,NSTを含め分娩時の心拍数情報のすべてを記録可能である。妊婦90例に関しNSTを含め合計400時間以上の記録を行い,誤動作,データの欠損等は認められず,すべて良好に記録され,記録の読出しも正確に行われた。図6は分娩監視装置からの直接記録と,光カードからの再生記録の比較を示すが,両者に差は認められず,臨床的に十分利用可能であることが確認された。

図6

おわりに
 分娩監視装置から胎児心拍数と子宮収縮に関する情報を光カードに直接記録するシステムを開発検討した。光カードヘの記録は確実に行われ,誤動作を生じないことが確認された。臨床的にも有用であることが確認された。光カードに母子健康手帳のデータと心拍数情報を記録できることは,記録用紙保存の問題解決にくわえ,周産期情報の電子カルテ化にも通じるものであり,今後の周産期医療の向上に役立つ。

(本研究の一部は文部省科学研究費No05671373,No07671791,および日母おぎゃー献金基金研究助成費による)

文献

1)藤本康之,柳原敏宏,原量宏,神保利春:光カードを用いた心拍数情報の記録,第2回日本医療用光カード研究会論文集,31-32, 1991


→目次へ