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第7回日本光カード医学会論文集、23-26、1996年

[一般演題3]

医用光カードによる急性死の予防

○伊藤健一 名古屋大学第三内科
西澤孝夫 (株)西澤商事
長澤竜雄 (株)中日電子技術部第一課
山内一信 名古屋大学医療情報部

はじめに

 心筋梗塞後の慢性期の突然死が心臓死の約半数を占める事からも明かなようにこの予防が心臓急性死の減少に重要な要素となる。しかしながら、その予防に関しての研究はまだ緒についたばかりである。短期的にみれば、家族を中心とした一般人bystanderの心肺蘇生(CPR)技術の修得が最も重要である。さらに救急現場での救急救命士による迅速な処置も同様に重要である。これらの一次救命処置を受ける患者の日常の医療情報は現在のところ各医療機関に保存されているが、これらの情報を持たずに救急病院に搬送される場合がほとんどである。我々は多くの狭心症や心筋梗塞後の患者を外来でfollow upしておりなから、いざ院外に出ると患者は一般救急医療システム上で病院にたどり着く事になる。昨今マルチメディアという言葉が一人歩きをしており、国民は限りなくその恩恵を享受できるが如き報道を日々耳にする。果たして国民にとって本当に有用なシステムを我々は提供しているのであろうか。医療情報に関する多くの新技術が開発されているが、ほとんどが病院内もしくは病院間での情報のやり取りを目的にしたものである。急性死予備群をハイリスク群(心臓死を含めた急性死を来す可能性の高い患者群)と位置づけたとき、このハイリスク患者のイベントの発生する場所はこの医療情報のオンライン上で起こるよりも院外即ちオフライン上で起こる頻度がはるかに高いことは容易に想像される。従って先ほどのbystanderのCPR技術の普及とともに患者自身の医療情報を患者の身近に置くことが二次、三次救急救命処置への時間節約に貢献するものと期待される。即ち、患者の氏名年齢をはじめとする緊急情報の迅速な病院への転送もしくは病院での医療情報収集が必要と考える。そこでオフラインの情報伝達を担う医用カードシステムを医師の発行する「電子紹介状」として、患者本人に携帯してもらい急性死予防の可能性を試みることを目的としてシステムの開発を行った。

地域医療圏ネットワーク(階層に基づく構築図)

今回開発を試みたカードシステムの概要はつぎの通りである。

ICカードシステム
1,ICカード
 規格:JEIDA(Ver.4.1)/PCMCI
 種類:フラッシュメモリカード
 記憶素子にフラッシュメモリを使用して、デー
 タの保存に電源がいらない事を特徴とする。
 形式:256Kb y t e s
 今回は:(EF−256一TB(AA))
     (MF8257一G1EAT01)
     (RC−256J−EF)

2,ハードウエア構成
パソコン:IBM一AT互換機
     CPU:486(Intel社)
     RAM:16Mbytes
     HDD:240Mbytes
ICメモリカードインターフェース:AMI−2F/AT
スキャナー:GT−6500WIN2
      解像度:最大600DPI
モデム:PV−PF144
通信速度300、1200、2400BPS
携帯型IC力一ドリーダ:中日電子社製

3,ソフトウエア構成
 D0S/V:MS一DOS6.2/V
 Windows:MS−Windows3.1
以上に基づきカード入力・表示処理ソフト、ICメモリカード読み書き処理ソフト、画像ファイル切りだし処理ソフトを作成した。

4,セキュリティ
 今回はまだソフト上に作成していないが暗証番号等によるものを考えている。
救急情報(個人一次情報)
 患者個人の属性情報(登録番号、登録者、登録機関、氏名、性別、生年月日、住所、電話番号、緊急連絡先(二ケ所)血液型)及び病名、既往歴、治療方針、投薬情報、心カテ所見を入力表示する。
画像情報
 ついで画面上での呼出しにて心電図(安静12誘導)、及び10心拍の心電図を表示する。また、胸部レントゲン写真の正面図の輪郭線画像を呼び出すことが出来る。
 このICカードシステムの特徴は救急現場カードの内容(一次情報)をディスプレイに読み出しが可能でこのため本人の氏名、救急連絡先が即座にわかるものである。この装置は患者の二次情報を携帯電話にて搬送先の救急病院へ電送できる。

光カードシステム
1,光カード
 光カードは現在まだ完全に統一規格にはなっていないが今回使用したカードは3.42メガバイトでISO規格のSIOCフォーマットで行った。

2,ハードウエア構成
 パソコン:DELL466MXV
 スキャナー:JX一320
 リーダ/ライタ:RW-20、RW-50

3,ソフトウエア構成
 DOS Ver.5.02
 Windows  Ver.3.1

4,セキュリティ
 一次情報(救急情報一一個人属性情報及び救急に必要な画像情報、投薬情報等)
 光カードに記録されているデータに対してアプリケーション毎にパスワードを設定し、カードのリーダ/ライタへの挿入時点でアプリケーションソフトがデータを確認してカードヘのアクセスを許可している。
 二次情報(病歴、治療歴、投薬歴、検査歴等)
 これらの情報に対してはユーザーが選択したパスワード照合でデータヘのアクセスを許可している。心電図、胸部レントゲン写真、冠動脈撮影像、CT像の入力等、フィルム化されている医療画像情報を今回は市販のスキャナーを使用して取り込んだがディスプレイ上の画像はほぼ満足のゆくものであった。現在高速電送を主眼とするフィルムスキャナー、デジタイザーは入力の時間を短くする為に高速性を要求されており、同じ300dpiの機能でありながら極めて高額のものとなっている。そこで医療機関にて負担可能であり、且つ中程度の精度のスキャナーもしくはその代替えの開発が今後必要である。

考察

 現在カードシステムは厚生省をはじめとして各省庁民間を含めて約30とプロジェクトがあるがいずれも救急医療を目的としていないためほとんどが文字情報に限られている。医療情報を含めて個人属性情報等を個人が携帯することのメリットはプレホスピタルの状態を如何に短くできるかという点である。例えば、医療現場で一枚の安静時心電図をその時の心電図と比較できることは救急という立場から極めて有益と考える。
 今回二つのカードシステム(ICカード、光カード)を作成したがカードの容量を考えると今後光カードシステムが有用であろうと考えられた。さらに、医療情報は改変を本来しないものであるので、この点光カードが追記型記録であってもなんら不都合はない。しかしながら、光カードシステムのリーダ/ライタがまだ大きく、約3Kgと重量があり携帯する事を考慮するとICカードシステムもリーダの軽便さにおいて今後期待できるシステムである。さらに両者を兼ね備えたハイブリッド型(ICカード+光カード)に発展することが考えられる。これらの医用カードシステムの一般化には、インフラの整備、入力における簡素化、行政のバックアップ等問題点はまだ多い。就中、オンライン、オフラインを含めて入力部分の省力化に対して可及的速やかに対策を講ずるべきである。また、データ管理部分で一体どこまでの圧縮がアナログデータから許されるのかについての法律面での議論が必要であろうと思われる。例えば、大角単純胸部レントゲン写真の全てのデータをデジタル化して保存する必要はなく、医師がその責任においてデータとして認めた物を共通データとして使用すればよいわけで、必要部分を拡大して画像入力保存すれば記憶容量の節約と呼び出しの時間節約になる。自治体を始めとして各省庁が医用カードシステムの検討に現在入っており、早晩運用されることとなるであろうが、我々医療側としてできるだけ使い勝手のよいシステムを早急に整備促進し提示する必要があると思われる。現在の光カードシステムがほぼ満足できる情報量を供給できる事から、更なる発展が望まれる。
(本稿は第15回医療情報学連合大会論文集を一部改変したものである。pp.319-320,1995)

文献

1)四方一郎:突然死の統計的治療、循環器学8:740-744,1988
2)大塚敏文:救急医療ちくまライブラリ67、筑摩書房.東京 pp168.1991
3)Moss AJ et aI: The prehospital phase of acute myocardial infarction. Circulation 41:737,1970
4)Lewis RP: Factors determining mortality in the prehospital phase of acute myocardial infarction. Am J Cardiol 33:152,1974


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