→目次へ

第9回日本光カード医学会論文集、14-15、1998年

[一般演題1]

光メディカ−ドシステムの開発と現況

○平井浩、白男川史朗、田代祐基、大島譲二、原 寿夫、遠藤郁夫、蓮田 清、吉岡博之
診療システム研究フォーラム
大櫛陽一 東海大学医学部

はじめに

 少子高齢社会を迎えて、制度疲労の陰が見え始めた、わが国の医療制度の抜本的な改革を必要とする時代が目前に迫ってきた。政府も、与党医療保険制度改革協議会の答申を受けて、平成10年の10月を目標に制度改革の法令化の作業を開始している。また、厚生省健康政策局長の諮問機関である「診療録等診療記録の利用に関する検討会」が約1年間にわたる審議を終え今年6月に最終答申を提出したが、医師の患者に対する診療記録の開示が法令化される事が決定した。
 患者に対する医療情報の開示と共通利用が、これからの医療制度改革の大きな柱の一つに位置づけられている。

研究の背景

 急速に進歩発展しているコンピュ−タ化が最も遅れているのが医療である。スタッフ及び資金的な裏付けのある大学病院や大病院では、コンピュ−タ化が進んでいるというものの、医事会計を中心とした病院経営の合理化に止まり、医療の為のコンピュ−タ化はまだ充分とは言えない。わが国の医療の基盤を支えている開業医レベルでのコンピュ−タ化は.ど進んでいない。確かにレセプト処理用の所謂レセコンは開業医の約70%が使用しているが、これはレセプト処理の専用機で大型電卓の域を出ないものである。
 医療業界も情報化の流れを避けて通れなくなって来た。患者に対するカルテ等の公開、インフォ−ムドコンセントのレベル向上、病−診連携の強化によるかかりつけ医制度の定着、在宅介護制度の整備等どれをとってもコンピュ−タの利用なしでは解決が困難な問題である。
 この問題に危機感を持った地方医師会の有志が集まって対策を協議したが、零細な開業医を相手に、メ−カが積極的に手を差し延べる事は期待出来ない。多様な開業医のニ−ズをカバ−するシステム開発は自らの手で行うのがベストであるとの結論に達し、日本医師会の了解の下に、実際医療の現場に携わっている地方医師会会長の推薦で、1都5県の情報担当の理事クラスの医師が中核になり、その目的に賛同する企業から、企業の枠を越えた支援体制を組んで、診療システム研究フォ−ラムが結成され、平成8年6月に第一回の研究会を開催した。平成9年4月に実用に耐えうるシステムが完成して、同年6月から平成10年3月まで、全国6都市の50医療機関でモニタ−テストを行い、ハ−ド、ソフト及びシステム運営について改良を加え、実用システムとして略完成の域に達したので、本日発表させて頂く事になった。

システム構築の基本

 システム構築の基礎として下記の条件を全うする事にした。
  1. 平均年齢64歳といわれる、コンピュ−タに馴染みのない医師が容易に操作可能である事。
  2. 情報伝達メディアとして光カ−ドを採用する事で、患者情報の共通利用を促し、グル−プ診療や病−診連携システム構築を容易にする事。
  3. 診療支援と医事会計システムの情報を共通利用出来るシステムにして、入力の手間を軽減し、患者サ−ビスの向上にも寄与する事。
  4. インフォ−ムドコンセントに役立つシステムである事。
  5. 医師の情報源としてインタ−ネットが容易に利用出来る事。
  6. 電子カルテの機能を持ったシステムである事。
  7. 経済的にも医院経営に寄与出来る事。導入し易い価格設定であり、医院の収入にも寄与出来る事。
  8. パソコンはDOS−Vで作動する機種であれば、メ−カは問わない。

システム運用の実際

  1. システムは受付用の医事会計システムと診察室用の診療支援システムとの二つのバ−トに分かれ、情報の相互利用の為院内ランで接続している。
  2. 患者の受付は光カ−ドで行い、保険証のチエック、来院目的等初診、再診患者それぞれに対応したシステムになっている。登録情報は診察室のコンピュ−タに即時伝達される。
  3. 患者は受付終了後カ−ドを受け取り、診察時に医師に提示する。
  4. カ−ド内容を参照すれば、初診患者であっても、投薬歴、検査歴、病歴等患者の診療に役立つ情報が実値及びグラフ表示で知る事が出来るので的確な診断が可能となり、処方及び検査指示の参考になる。
    服薬指導等医師の都合や患者からの要求でこれらの画面は打ち出しが可能である。
  5. アレルギ−、予防注射記録、家族の病歴等も参照可能である。
  6. 医師毎にカストマイズされている、健康者のレントゲン画像等とそれに対応したイラストを使用して、患者画像と比較しながら的確な病状説明が可能。
  7. カ−ドに記録されている患者画像とそれに付随しているコメントの利用により、的確な患者指導が可能である。
  8. タッチパネル方式を採用しているので、入力方法は容易であるが、それでも従来の紙のカルテに固執する医師は、従来通りの方法でカルテを記載して、会計に回されたらよい。会計ではレセプト請求の為に処方、検査、処置等をコンピュ−タに入力するので、その記録が診療室のコンピュ−タに送られるので、自院の記録として使用される。
  9. 電子カルテシステムを利用してカルテを作成する。すべてタッチパネル方式であり文章等も選択式で作文する方式を採用しているので、特別なコメントを書く以外は患者と対話しながら入力が可能である。
    カルテも主訴、所見、方針、注射、投薬、検査、処置、指導等医師法できめられた項目が手順に従って簡単に記載出来るように設計されている。紙のカルテより早く、効率が良いとの評価を得ている。
  10. カルテの打ち出しはその都度でも、固めて打ち出しても良い。医師の都合で採択されたら良い。なお厚生省は打ち出したカルテに医師の署名又は印鑑があれば、従来方式のカルテを書く必要はないとの公式見解を出している。
  11. 院外処方箋、紹介状、在宅介護指導書等保険請求可能な文書は自動的に作成出来るシステムになっている。

今後の研究の方向

 医学及び電子工学の進歩は止まる所を知らない。今日の最新技術も明日はスクラップになる可能性を秘めている。我々は光カ−ドという媒体から医療情報システムへの切り口を求めたが、製品に執着する考えはなく、社会制度化として定着させて、その後はシステム構成の機器や媒体等は自由に選択する方針で進んでいる。
 医療の最前線を担う開業医でのコンピュ−タ化が進めば、逐次病院、地方自治体、企業現場及び学校等で利用可能なシステムを開発して、それをオフラインなりオンラインで結ぶ事により、現場密着型の情報ネットワ−クを構築して、健康で明るい高齢社会の創造を目指したい。


→目次へ