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第9回日本光カード医学会論文集、23-24、1998年

[パルディスカッション1]

光カードの標準化

○大櫛陽一 東海大学医学部
金子泰久、大門宏行 診療システム研究フォーラム
東福寺幾夫 オリンパス販売株式会社
荻原康男 キヤノン株式会社

1.はじめに
 J.T.Lussellが、1966年に初めて光カードを提唱して以来、30年が過ぎた。この間に、J.Drexlerが1979年に商用特許を設定し、日本は1991年にライセンス供与を受けた。日本での商用利用は8年目ということになる。保健医療分野での利用は、1986年に高橋隆教授(現京都大学医学部、当時東海大学医学部)らが神奈川県伊勢原市で行った市民健康カードの実験が最初であろう(1)。このシステムは、その後何度かの発展を重ねて現在に至っている(2)。このような市民健康カードの例は、北海道清水市、茨城県河内村、山梨県白州町・丹波山村、京都府和束町、鹿児島県大浦町、韓国水原市などに広がっている。人間ドックや事業所健診などの健康診査データの記録用や、心疾患や透析患者などの特定疾患を対象とした医療面への応用では、日本、韓国、中国、台湾、アメリカ、カナダ、イギリス、スコットランド、フランス、スペイン、オランダ、ハンガリー、イタリア、ベルギー、エジプト、ロシアでの利用が報告されている。今年になって、後に報告するように、日本では診療所での電子カルテと一体化されたステムが開発され、一般診療の記録としても使われるようになってきた(3)-(6)。また、保健医療分野以外でも、カナダとアメリカの通行証としてや、東京三菱銀行渋谷支店での電子通帳(ハイブリッド・カード)などへの大型利用が始まっている。 このように、光カードの利用が本格化して、世界的にも広がるようになってくると、標準化が必要となる。ここでは、国際標準ISO/IEC、日本国内標準JIS、保健医療用記録方式の標準化について報告する。

2.国際標準化(ISO/IEC)
 情報技術の国際化は、International Organization for Standardization(ISO)とInternational Electrotechnical Commition(IEC)が協力して行っている。光カードの国際標準化も同じ組織で行われた。1994年から1995年にかけて、次の規格が制定された。

(1)ISO/IEC 11693:1994
Identification cards - Optical memory cards - General characteristics
ここでは、光カードのサイズや対環境特性について規定されている。基本的には、磁気カードやICカードなどの他カードと同様のサイズと特性が要求されている。
(2)ISO/IEC 11694-1:1994
Identification cards - Optical memory cards - Linear recording method Part 1:Physical characteristics
当初は、カード上への記録経路について色々な方式が提案されていたが、現在は線形記録方式に統一されている。線形記録方式とは、カードの長軸方向にトラックを構成して記録する方式である。
このパート1では、透過層、反射層などの物理的特性を規定している。
(3)ISO/IEC 11694-2:1995
Identification cards - Optical memory cards - Linear recording method Part 2:Dimensions and location of the accessible optical area
ここでは、光アクセスする領域を規定している。
(4)ISO/IEC 11694-3:1995
Identification cards - Optical memory cards - Linear recording method Part 3:Optical property and characteristics
ここでは、反射率や誤差率などを規定している。
(5)ISO/IEC 11694-4:1995
Identification cards - Optical memory cards - Linear recording method Part 4:Logical data
structures
ここでは、トラックやセクタを規定している。ロジカル・データ構造になっているが、実質的には物理的な記録方式の規定である。この中にパルス幅変調方式(SIOC)と、パルス位置変調方式(DELA)の二つの記録方式が同時に採用されている。

3.国内規格(JIS)
3.1 国際対応
 日本での情報化技術は、日本工業規格(Japanese Industrial Standard)で規定される。最近は、非関税貿易摩擦となることを避けるため、国際標準となった規格はJISとして制定されることが原則となっている。JISには、本文に英文をそのまま使う要約JISと、日本語化する全訳JISとがある。全訳JIS化では、「原案作成委員会」を構成する。光カードの場合は、日本事務機器工業会と光産業振興協会が協調してこの委員会を維持した。JISは国家規格であり、アメリカ工業規格(ANSI)などは民間団体の規格である。このため、JIS化作業の手続きは複雑であり、文書も法律のように公文書としての形式と言葉遣いが要求される。原案作成委員会では、使われている言葉をJIS用語と照合し、新たな用語については「用語委員会」に計らなければならない。特に問題となるのがカタカナ用語であり、日常的に使われていないカタカナは日本語表記することが要求される。日本語表記が極めて困難な場合には、理由書を提出して許可を得ることになる。公文書としてのチェックは、「規格調整委員会」の委員により行われる。この二つの手順を終了すると、「日本工業標準調査会 情報部会」に計られる。情報部会の了承が得られると、通産大臣に上申される。決済が降りると、官報に公示され、後日「日本規格協会」から規格書が発行される。主要な規格は、同じ日本規格協会から毎年1回発行されるJISハンドブックにも掲載される。 全訳JISの手順には、通常2〜3年の期間が必要となる。先の光カードの全訳JIS作業は、本年初頭に完了した。国際規格から4年遅れとなっている。次の2つの規格に整理された。
(1)JIS X 6330:1998(ISO/IEC 11693, 11694-1, 11694-2, 11694-3を包含)
(2)JIS X 6331:1998(ISO/IEC 11694-4に対応)

3.2 国際規格に無いJIS
 国際規格にはないがJIS規格を作る場合があり、この場合も全訳JISと同じ手順となる。但し、JIS化後はISO/IECに提案し、国際規格化することが条件となる。このため、JIS原案を事前にISO/IECの対応するワーキングに説明し、理解を得ておく必要がある。
 SIOCとDELAの両方式の違いを乗り越えるため、ソフトからみると全く同じにするために次の規格を光産業振興協会の「光ハンディメモリ標準化委員会」で作成した。9月18日の情報部会で承認、上申される予定となっている。
・JIS X 6332:1998 光メモリカード − 直線記録方式 − 情報交換用データ様式
 この規格では、カード管理領域(発行情報や区画管理に関する情報)、区画管理領域(ディスクでいうディレクトリ)、データ記録領域、磁気ストライプ情報領域についての定義が書かれている。すでに、キャノンとオリンパスがこの規格に則った製品を販売している。両方ともSIOC方式を採用しているため、完全なコンパティビリティが確認されている。

4.保健医療福祉情報の記録の標準化
 1995年の秋、東京都、熊本県、神奈川県、千葉県、埼玉県、福島県の医師会の医師会長や情報担当理事を中心とした有志と、東海大学医学部、産業界が診療システム研究フォーラムを発足させた。この研究会は、21世紀の新しい医療改革を実現するために実医家向けの情報システムを開発することが目的である。2年間の開発と1年間のモニター使用の期間を経て、「光メディカードシステム」が実現した(3)-(6)。このシステムは、タッチパネル端末を持つ診療支援システム(クリニカル・ナビィゲータ)とレセプトコンピュータがLAN接続されている。サーバー/クライアント構成により、端末の増設が容易にできる。このシステムは、電子カルテ、PA&CS、会計処理、検査センターと画像データ取り込み、インターネット接続の機能を持つ新世代の医療情報システムである。医師端末と会計端末の両方に光カード・リーダ/ライタを接続して、どちらからでも光カードを使えるようになっている。光カードには、電子カルテのすべての医療情報が画像も含めて自動的に転送される。(転送すべき情報は、個々にテーブル登録されている。)健診結果などの保健領域もカバーした記録方式は、HWMLomcと名付けて公表される(7)。基本的には、SGMLを基本としており、電子カルテの記載標準として公表されているMMLに準拠している(8)-(9)。カード上は、共有情報(個人基本情報、保険情報など)、医療情報、保健情報、福祉情報、他の固有情報が記録される。検査結果、処方履歴 、画像データは外部参照ファイルとして、別ファイルにHL7形式で記録される。これは、MML/MERIT9と同じ方式になっている。これにより医療・保健・福祉に拘わらず、血圧などの計測値と検査結果の時系列や、画像の一覧を統合して扱うことができる。
 この規格はSGMLをベースにしているため新しい項目の追加などに柔軟に対応できる。今後、この規格が時代に合わせて改訂され、保健医療福祉に関するすべての健康情報が本人に開示され、健康サービス提供者間での情報共有のメディアとして定着し、サービスの質・効率・安全性の向上に役立つことを期待する。

【参考文献】
1.高橋隆:ICカード・光カード、医療とコンピュータ、1(2)、17-26、1988.
2.Y.Sakashita, Y.Ogushi, the 7 others: Health and welfare data on optical memory cards on optical memoty cards in Isehara city. Medical Informatics, 21(5), 69-80, 1996.
3.大櫛陽一:カードによる電子カルテの可能性。新医療、24(12)、131-134、1997.
4.白男川史郎:光カードシステムの開発と運用。新医療、24(12)、135-137、1997.
5.原寿夫:光メディカードシテムの運用。新医療、24(12)、138-141、1997.
6.大櫛陽一:カードで広がる電子カルテの可能性。メディカル朝日、27(5)、29-32、1998.
7.金子泰久他4名:保健・医療・福祉用光カード情報記述規格(HWMLomc)の整備について。第18回医療情報学連合大会論文集、1998.(印刷中)
8.JIS X 4151-1992:文書記述言語SGML。日本規格協会、東京、1992.
9.http://www.h.u-tokyo.ac.jp/mml


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