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第9回日本光カード医学会論文集、30-31、1998年

[パルディスカッション5]

光カードと香川県ネットを用いた周産期管理システムの開発

○山田直樹 オリンパス光学工業株式会社
秋山正史 坂出市立病院・産婦人科
原量宏 香川医科大学・母子科学教室

(目的)
 周産期管理のシステム化には、以下に示す三つの問題を解決する目的がある。

I.周産期医療の地域連携
 周産期の異常はいつ発生するかわからず、発生した場合には、高度な医療体制で対応することとなり、常に余力をもって待機している必要がある。この様な医療を、多くの施設が医療費で経費をまかなって対応することは不可能である。この為に周産期の異常は、母子の救急医療として、地域全体でシステムとして対応することが求められている。
 平成8年度より周産期医療整備事業の実施が開始された。3次医療圏を中心に周産期医療圏を設置し、その中心となる総合周産期母子医療センターを設立する。センター設備を整備することで、異常のある患者は夜間でも対応できる為、異常のない妊娠、分娩、新生児の管理は、他の周産期医療施設が安心して行うことができる。その際、3次、2次、1次医療圏の協力、連携を密にする必要があり、地域全体の周産期情報システムが必要となっている。

II.分娩監視情報のペーパレス化
 分娩監視装置の利用範囲の拡大とともに、記録用紙の保存が大きな問題となっている。記録用紙の保存は、胎児が成人するまでの約20年間の保存が好ましいとされている。

III.院内業務の省力化
 外来、入院、分娩の一連の業務に対して、カルテの運搬作業、転記作業、紹介状作成作業など、電子情報化されれば省力化が可能な業務がある。

(方法)
 香川県内における周産期医療の地域連携を実現する為に、香川県ネットと光カードを用いて、香川県内の施設(今年度は香川医科大学、坂出市立病院、町立内海病院の3施設)で患者情報の転送を可能にした。転送する情報は、母子健康手帳の情報(患者基本情報、母体検診情報など)に加えて、周産期医療では不可欠である、胎児監視情報、超音波画像情報とした。また、最も特徴的なのは、転送される情報は、(社)日本母性保護産婦人科医会(以下、日母)の情報処理検討委員会が定めた「日母標準フォーマット」を採用したことである。
 分娩監視情報の記録には、光カードを採用した。胎児監視情報を計測する分娩監視装置の出力をコントローラー経由でリアルタイムに光カードに記録するシステムを開発することで実現した。
 また、院内業務の省力化には、院内ネットワークで対応した。具体的には、施設内で発生した患者情報をサーバーで一元管理し、そこに蓄積される情報を外来診察室、ナースセンター、陣痛室などに設置されるクライアントマシンで参照できるシステムである。

(結果)
 県ネットワーク、光カードのどちらの手段においても、施設間の患者情報の転送は確実に行われた。光カードでの患者情報の共有化において、リーダー/ライターと光カードはオリンパス、キャノン間での互換が確認され、また、ソフトはオリンパスとトーイツ(株)との互換が確認された。
 胎児監視情報は、胎児心拍数が1秒間に4回、陣痛と胎動が1秒間に1回の間隔で光カードに記録し、1枚の光カードに最大70時間の情報が記録できた。光カードは現在のカルテホルダに挟んで保存可能である為、記録用紙の検索が容易となった。また超音波画像は、1枚の光カードに最大70枚(JPEGフォーマット、1/20圧縮)の情報の記録が可能である。
 また、院内ネットワークの構築で、外来診察情報がカルテ運搬なしに、必要な部屋で参照ができるようになった。

(考察)
 通常、各施設に導入されるシステムのデータベース構造は異なる。その際、施設間で患者情報が円滑に行われる為には、転送される情報のフォーマットが「日母標準フォーマット」であることが有効であった。転送する為の手段としては、オンライン、オフラインを問わないことも重要な要素である。しかし、日本全国全ての施設が香川県のように公共のネットワークで接続されるような恵まれた環境にあるとは限らないこと、ネットワークは障害が発生した場合、必ずしも必要なタイミングで確実にデータが転送先に届くとは限らないこと、セキュリティーの問題に注意する必要があることから、オンラインに加えて、オフラインメディアによるデータの転送が準備されていることが必要である。いわばオフラインネットワーク機能である。その際、やはり携帯性に優れていること、改ざんが不可能であること、更に患者情報などの数値情報だけでなく、胎児監視情報、超音波画像がある程度記録できる光カードなどが好ましい。
 1枚の光カードに最大70時間の胎児監視情報が記録されることは、記録用紙保存の省スペースの効果が大である。但し、胎児監視情報、超音波画像、テキスト情報を組み合わせて1枚の光カードに記録した場合、胎児監視情報30時間程度、超音波画像30枚、テキスト情報400項目×35検診分となり、胎児監視情報はハイリスク妊婦に対しては、容量不足であり、データ圧縮技術を組み込む必要がある。

(結論)
 施設間での患者情報の転送は、オンライン・オフライン共に「日母標準フォーマット」が有効であることが検証された。今後は、患者情報の施設間共有化が、実際に周産期医療の地域連携でどのように効果が得られるのを検証する必要がある。(例えば、周産期死亡率低下にどの程度貢献するかなど)
 胎児監視情報の記録用紙の保存スペース問題は、光カードにより解消されることは検証された。今後は、記録用紙の廃止に不可欠な原本性の保証、光カードの大容量を検討する必要がある。


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